地方メディアの逆襲

第3回 「個」の力が報道を強くする

瀬戸内海放送「調査報道記者」編

地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 香川と岡山を放送エリアとするKSB瀬戸内海放送による調査報道を取り上げます。

なぜ地方か、なぜ調査報道か
 「地方に根差した調査報道記者」が、山下の目指す記者像だと第一回に書いた。なぜ地方なのか。なぜ調査報道なのか。あらためて問えば、「独自性」への強いこだわりが浮かび上がってくる。
 まず、地方にいる理由。全国メディアへ移って、注目度の高いニュースを追いかけたいと思ったことはないのか。
 「東京に来ないの? と、たまに言われたりすることもありました。でも、今まで話してきた事例のように、地方に根を張っているからこそできることがあるし、その方が面白いと僕は思っているんです。それに、地方にいながら全国にも通用するニュースを出していく、時にはノンフィクションも書く記者って、今はあまりいないんじゃないかと。香川・岡山に山下という記者がいる、と個人名で認識してもらえるのは嬉しいですし、もっと頑張ろうと励みになります」
 実際、高知の白バイ衝突死報道は「香川に面白い記者がいる」と情報が寄せられたことから始まり、山下の報道で全国に知られることになった。そして、その取材経過から1冊のノンフィクションが生まれた。一連の報道がギャラクシー賞を受賞した直後のインタビューで、地方局でのやりがいをこう語っている。
 〈僕のセクションは「報道制作ユニット」と呼ばれ、報道と制作、記者とディレクターの境目がありません。記者もドキュメンタリーを作り、自ら編集します。高知にはカメラマンと2人で行き、自分で撮る場合もあります。特集のナレーション原稿は僕が読みます。人手が限られている地方局では、何でもやり、何でもできるんですよ〉
 現在のテレビ業界は細かく分業化され、外部委託も当たり前になっているが、地方局においては「何でもやらされる」と不満を持つより、「何でもできる」ことを楽しめるかどうかが長く勤まる条件の一つだと山下は言う。驚いたことに、彼は裁判の法廷画まで描くという。
 「ある裁判の取材で撮影の事前申請を忘れてしまい、もう自分で描くしかないとなったのが最初です。元美術部ということもあり、やってみたら結構いけるやんと言われて。裁判を見ながらメモを取って、絵も描いてなので、すごく慌ただしいですけどね」
 そしてもう一点、なぜ調査報道なのか。これについて、山下はある大学のゲスト講義で詳しく語ったことがある。彼が、マスメディア志望の学生に示した「独自ネタ」を目指す理由はこうだ。
 他局と同じニュースばかりでは存在意義がない/埋もれていたネタを掘り起こすことで社会を動かせる/「やらされ感」から脱却し、前向きに仕事に取り組める/独自ネタを出す社には独自ネタが集まる/独自ネタの取材は記者を育てる
 では、なぜ独自ネタ取材は記者を育てるのか。
 他人が気づいていない問題や事柄にニュース性を見出す力がつく/隠そうとする相手から情報を引き出す力が求められる/発表もの、横並びの取材にはない責任が伴う/取材相手に大きな印象を与えるので、深いつきあいにつながる可能性がある
 「これは僕の性分でもあるんですけど、人と同じ取材をしたくないというのがあるんですね。一斉に誰かを持ち上げたり、叩いたり、あるいは犯人視報道なんかもそうですけど、一方向に世論が流れると本当にそうかなと疑い、反対側から物事を見てみたくなる。だから、記者クラブの横並び競争も苦手で、警察・司法担当は長いのに、捜査当局に食い込んで『あす逮捕へ』というタイプの特ダネを抜いたことは一度もないんです」
 この感覚は、大阪で人気首長に群がる記者たちを違和感を持って見てきた私にもよくわかる。近年よく批判の的になる官邸記者会見も同じだ。それが必要な仕事であることは理解できるが、取材対象や取材手法、相手に向き合う立ち位置や視点が、あまりにも画一化していると感じる。だから簡単に情報をコントロールされてしまうのではないか。そういう批判があるにもかかわらず、慣例的な「取材ルール」から外れる記者を嘲笑や白眼視するような空気がある。そのことは、この連載で書いた琉球新報や毎日放送の記者たちも指摘していた。

KSB瀬戸内海放送の新社屋。今年1月に移転した

 大学での講義の最後に、山下は〈求められる「個」の力〉という言葉を掲げている。報道を活気づかせるのは、結局のところ、記者個人の問題意識と執念であり、それが失われればテレビニュース離れは今後も止まらないだろう、と。その信念は、彼の著書『あの時、バスは止まっていた』のあとがきにも書き記されていた。
 〈私は報道記者として、「おかしいと思ったことは、おかしいと言う」をモットーとしている。「客観報道」の名の下に、当たり障りのない報道が多すぎるのではないかと思っている。まだ駆け出しの頃、上司が語った言葉を今でも胸に刻んでいる。「ニュースに主観を入れることは、決して悪いことではない。ただし、その主観が『客観的批判』に耐えうるかどうか。そのことを常に頭に置いて、バランス感覚を磨き、事実を積み重ねる取材を心掛けることだ」〉
 ここに引かれた言葉の主は、第一回に登場した入社当時の役員で元毎日新聞大阪社会部記者の高山桂一である。かつての大阪ジャーナリズムを体現するような彼の教えが、「調査報道記者」山下の原点であり、「独自ネタ」を追い続ける理由でもある。

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 KSB瀬戸内海放送は今年1月、開局52年目にして初めて社屋を移転した。それに合わせ、夕方のローカルニュースは『News Park KSB』という新番組となった。「Park」とは、地域の人びとが集い、交流する、開かれた場でありたい、との意味だという。地元の声を積極的に取り入れ、一緒に番組を作っていく姿勢を打ち出し、たとえば、小中学生が親の働く地元企業を訪ねて、ものづくりやサービスの現場を紹介するコーナー、局のアプリの投稿機能を用いて双方向のアンケートと街頭インタビューを行うコーナーも始まった。
 「地元のみなさんにとって何が課題なのかを生活実感から探り、解決に向けてこれからどう行動するべきか、共に考えるきっかけにしたい」と本山は狙いを話す。「これからの地方テレビ局は、視聴者にとって、画面の向こう側の『誰か』ではなく、同じ時代に同じ場所で暮らし、共に地域を作っていく『仲間』でなければならない」という思いが、そこにはある。

(おわり、次回更新は3月)