宿題の認知科学

小学校英語教育の現場に平野レミ先生を!

今回はいよいよ各方面で話題の小学校英語教育について。英語の授業参観で広瀬さんが感動したというお話から考えます。

 息子が小4のときの学級公開(授業参観)で、外国語(英語)の授業を見てきました。自分も大学で英語教育に関わっている人間なので、今日も一見ツッコミ系のお話になってしまうのですが、ここで伝えたいことの中心は小学校英語教育の現場への批判ではありません。ある児童の聡明さと機転に舌を巻いたこの感動をぜひとも皆さんと分かち合いたいのです。

 この日の単元は「What do you want?」「How many _____ do you want?」との問いかけに答えることを通して、「I want _____ , please.」という文を使って、欲しい物とその数量を表現するというお題でした。例えば「I want two apples, please.」みたいに。

 先生はまず、果物や野菜の名前と、それの数量を表現する練習としてフラッシュカードを使い、「One apple」「Three apples」ってかんじで、授業の後半で出てくる名詞とその数え方をたくさん練習します(こういうやつです↓)。
 

 次に先生は「What do you want?」と子供に問いかけ、カードが示す内容を答えとして言わせます。トマトが3つ並んだカードを示して「What do you want?」「Three tomatoes, please.」てな具合ですね。子供たちもはりきって「What do you want?」「Two eggplants, please.」「Here you are.」「Thank you.」って、小学生そんなにナス欲しいと思ってないよね、とかそこはもちろん気にしない気にしない。

 続いて、楽しい応用編は、ピザ屋さんとお客さんの役割に分かれて、好きなピザのトッピングを尋ねる(答える)練習です。ピザの表面が白紙になっている横に、各種トッピングがあしらわれたプリントが配られ、子供たちはそこで自分好みのピザの絵を完成させ、隣の子と交換します(よって下の写真は、息子の隣の席のお子さんによる作です)。

 そして先生が「What do you want on your pizza?」と質問するのに応じて、子供たちはめいめい自分やパートナーの選んだトッピングを数量とともに説明することになっているのですが、この絵のなかにある具材と、文字で書かれている表現をそのまま使うと「three cheese」とか「two parsley」っていうちょっと変な英語になっちゃうんですね。まだ小学生だから、「数えられるものだけは複数形にする」「薄切りにした何切れ、とか小さく切った一片の、とかいうときはa slice / x slices ofとかa piece / x pieces of という表現を使う」など、包括的に教わってもいません(たぶん)。

 教室では、教科担当の先生(この場での教師)の他に学級担任の先生もいらして、お手本役として最初に指名されてたんですが、「このプリントにある範囲の表現にとどめる」「習ってないことは言わない」という制約の下だからか多少困惑気味に「I want two cheese, please.」と答えておられた記憶があります(正確にどうお答えになったのかは覚えていないのですが、とにかく結果として本来数えないものを無理矢理数える羽目になってました)。

 ピザ屋でピザのトッピングを尋ねられて答えるという限定的な状況ではこんなこととやかく言わなくてもおそらく通じるとは思いますが、載せてほしいチーズの分量をいう場合は「two cheese」も「two cheeses」も本当はヘンです。前者はそもそも数えられない物質(よって複数形は使わない)にtwoを無理矢理つけている点。後者は、ここであえて複数形にすることで、チーズの分量じゃなくて種類を表すことになってしまっているという点(カナダ人の友人がここで、そんなに数えたかったら「1398 pieces of shredded cheese please」とか言うしかないんちゃう、とツッコんでました)。

 単数形複数形を明確に表示しない日本人の感覚(一人でも大勢でも「友達」っていいますよね)からしたら、そんなんどうでもええやん、それで本気で意図を理解できないほうが問題あるんじゃない?と思ってしまいますが(私も「いや、それくらいわかってくれよ」って正直思ってます)、英語の感覚としてはやはり大違いで、

You have egg on your face.

といえば物質としてのタマゴが顔についている(食べこぼしが付着)様子を表します。(さらに転じて、人様に対してみっともない状態を示す比喩だそうです。ちなみに「You have egg on your chin.」だと、「社会の窓が開いてる」という意味で使うそうです。chinに変えただけで。言い得て妙だなワハハ)

で、ここに”an”をつけて

You have an egg on your face.

といえば、タマゴ一個がごろんと顔に張り付いているような謎の状態としか解釈されないというのです。anひとつにそんなパワーが。

 さて、ここから先が一番お伝えしたいところです。くだんの授業中に戻りますが、次にあてられた女の子。自分の描いたピザの絵(下の写真は再現イメージ)を示し、先生からの定型の質問を受ける前にまずトッピングを指しながらはにかみがちに「プチトマト……」と問わず語りの前置きから始めました。それをこの目で見た私がどれだけ感動したことか! 興奮のあまり同席していた他の保護者仲間達に伝えてまわりたい衝動にかられましたが授業の迷惑なのでガマンしました(授業参観でオカンが悪目立ちするって、息子にはトラウマ級のダメージでしょうから)。

「プチトマト…」から始まるピザの説明(再現イメージ)

 なぜ普通のトマトじゃなくてプチトマトと前置きしたかったのか。

 きっと彼女は、さっきフラッシュカードで「two tomatoes」と練習したあのまるごとのトマトの数え方と、ピザのトッピングとして薄切りにしたトマトは同じ数え方はできない気がする、と直感で気づいたのではないでしょうか。切ったトマトは「slices of…」とつけます、と明示的にはまだ習っていないにもかかわらず。そして、トマトが数字をつけてそのまま数えられるまるごとの状態でピザにのっていてもおかしくない状況を考え、言語学的直感と現実世界の常識との折り合いをつけた結果がまさにプチトマトだったんだと思います。

 彼女のみずみずしい聡明さに感動しつつ、そこまで小学生に気を遣わせんといてくれーという思い、そして、そうはいえ限られた時間内で導入した知識を超えずに授業を成り立たせなければならない現場の先生の苦労、いろいろ考えさせられました。

 ちなみに、息子は素直にまるごとレシピでした。現実世界の常識との折り合いをつけるまでは考えが至らなかったようです(下の写真が再現イメージ。原本は隣の席の子と交換しちゃったので手元には残っていないため)。

息子の描いたピザの絵(再現イメージ)。こ、これは、まるであの有名料理研究家の……

 さてこの英語の授業での設定、「ピザじゃなくてもよかったんじゃないか」「でもまるごとの野菜や果物を買うだけだと単純で子供も飽きるわな」「文科省の教案例ではフルーツパフェの具材を選ぶ例が使われるようだけど、もしかしてイチゴとサクランボとか素直に数えられるものしか出てこないんじゃあ……(邪推です)そして現場の演習ではピザでやれって意地悪じゃない?(邪推です)」などいろいろ考えた末……

 我が国の英語教育の救世主は平野レミ(注1)氏ではないかという結論に達したのでした!

(注1)常識にとらわれない、野菜の「まるごと」使用メニューで知られる料理愛好家/料理研究家。「まるごとブロッコリ」はあまりにも有名だが他にもタマネギ、ニンジン、キャベツ、ピーマンあらゆるものをまるごと使用。そんな彼女のピザならば、この授業、いける!