ちくまプリマー新書

新学習指導要領の重要キーワード「探究」とは何か?

『問う方法・考える方法』より本文を一部公開

変わりつつある「世界」で、変わりつつある「学び」を身につける――ちくまプリマー新書の最新刊『問う方法・考える方法』より本文を一部公開しました。「探究」とは何か? なぜ私たちは「探究」の仕方を身に着けるべきなのか? 総合的な学習/探究の時間や道徳科教育の指導を行う著者が解説します。

自分の人生の課題を解決する

 二〇二二年度から、学習指導要領の改訂によって高等学校の「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に変更されます。

 その目標は、文部科学省の指導要領によれば、「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力」を育成することにあるといいます。

 ここには、今後の教育と社会のあり方を考えるためのキーワードがいくつもあらわれています。「横断的・総合的」「自己の在り方生き方」「よりよく課題を発見し解決していく」がそうです。

「横断的・総合的」というのは、複数の科目や専門性を貫いて、それらをまとめて、という意味です。化学でも、美術でもある活動。体育でも、社会でも、文学でもある学び。生物学でもあり、歴史でも、家庭科でもある課題。こうしたものが、横断的・総合的な学習です。

 具体例が思いつくでしょうか。たとえば、これまで捕れていた川魚がなぜか捕れなくなって、その魚を使った郷土料理が食べられなくなった。その郷土料理を残したい、食べ続けたい、と考えたとしましょう。こうした探究は、まずその魚についての生物学や生態学を調べて、なぜその魚が減ってしまったのかの原因を知る必要がありますし、郷土料理の歴史や作り方(家庭科)を知り、そして、いつ頃からその魚が捕れにくくなったのか、社会や産業の変化、それをもたらした政策などのさまざまな科目と学問が関係してくるはずです。

「自己の在り方生き方」というのは、学校で習うことを自分の人生と結びつけることの大切さを言ったものです。これまでの勉強は、「将来役に立つから、まず一定の知識や技術を身につけておきましょう」と言われて、さまざまな科目を学ぶようになっていました。でも、今身につけなければならないとされている知識が、自分の将来とどのように結びついているかわからないと、学ぶ意欲があまりわかないでしょう。自分の将来の生き方を思い描きながら、そこでどのような知識や技術が必要となってくるかを想像してみる時間が必要です。

「自分の将来」というと皆さんは、すぐに就業のことばかりを考えるかもしれませんが、それだけではありません。たとえば、あなたは、将来はパティシエになって、自分でお店を開きたいと思うかもしれません。そうした生活でも、家庭と仕事をどう両立させるか、地域での人とのつながりはどうするか、こうしたことが気になりますね。お店を営むには、いろいろな経営の知識や、資格や営業許可など法律の知識も必要です。自分の営んでいる店が属している地域の商店会で、市議会に候補を立てようということになるかもしれません。そうなると、政治にも関係してきます。もしかすると商店会で土地利用の問題が起こって集団で訴訟を起こすことになるかもしれません。そうなると、司法や裁判にも関係してきます。学校で勉強することが、自分の人生のなかでどうつながっているか知ることは、科目の内容を知ることと同じくらいに重要です。

 そして、自分の人生で、今何をすべきなのか、どうすれば自分の目標を達成できるのか、どういう人生が幸せな人生なのか。自分にとって何が課題なのかを発見し、それがどうすればよくなるのか、その解答を見つけていく。これが本当の勉強のはずです。

「研究すること」と「生きていくこと」が分けられない社会

 ですから、私は、探究型の学習はこれからの小中高校では、最も大切な科目になっていくと考えています。また、探究型の学習は、小中高だけではなく、大学や大学院、さらに社会人になっても求められるものです。なぜなら、これからの社会は、「研究すること」と「生きていくこと」とが分離できない社会になっていくからです。とりわけ、仕事(働くこと)と研究の結びつきは今よりも強くなっていくでしょう。

「ずっと〝学ぶ〞ことが大切というのはわかるけど、〝研究〞というのは大げさじゃないかな」と思うかもしれません。しかし、ここで言う「研究すること」とは、知識を暗記したり、与えられたテスト用紙の問題を解いたりするようなことでは、もちろんありません。科学の実験のように実験器具や装置に囲まれてするものだけを研究と呼んでいるわけではありません(それも含まれますが)。

ここで「研究」と呼んでいるのは、自分の人生の中で出会う実際の課題を、知的な探究の対象として深掘りして、さまざまな知識やスキルを総動員して何とか解決しようとすること、そしてそれを、後の自分のために、他の人のために、整理して再び知識やスキルとして保存していくこと、そういう意味での研究なのです。要するに私たちは、社会のさまざまな場面において、隠れていた問題を見つけ、それを調べて、解決するという過程が求められている時代に生きているのです。

この本の目的

 しかし具体的には、探究とはどのような学びなのでしょうか。それはこれまでの勉強とどのように異なるのでしょうか。現代社会で、なぜそれほど求められているのでしょうか。探究が必要であるとすれば、どのように学べばよいのでしょうか。

 本書では、このような疑問に答え、若い皆さんに探究することの意味と楽しさを知ってもらい、探究の仕方を実践的に身につけてもらうことを目的としています。

 本書の特徴は、第一に、高校での「総合的な探究の時間」のために、生徒が読んでも、先生が読んでもよいように書きました。内容的には高校生には少し難しいところもあるかもしれませんが、先生が一緒になって探究してくれるなら、実行可能なレベルを想定しています。

 また本書は、大学での一般的な研究方法を学ぶ大学初年次のセミナーにも使えます。また、やり方を工夫すれば中学生でも「総合的な学習の時間」で実行できると思います。そうした探究型の学習のためのテキストとして利用してもらえれば、筆者としては嬉しく思います。

 本書の第二の特徴は、探究型の授業に対話の機会を数多く組み込み、生徒同士、学生同士の「対話」を中心として学習を進める方法を推奨している点です。最初のテーマと問いの設定、プレゼンテーションにおける質疑応答、レポートの中間発表や相互評価など、対話的なインタラクションで学習を進められるように考えました。これは筆者が実際に、高校や大学の授業・セミナーで行っているやり方です。一見するとたくさんの内容が詰まっているように思えますが、一年間の計画として考えれば、じっくり進められる内容になっています。ぜひ、学校や大学で対話を軸に据えた探究を行ってみてください。

 第三に、対話を重視することからの必然的な帰結ですが、グループでの探究を重んじていることです。探究は、「探究の共同体」と呼ばれるグループを作って行うことが、個人で行うよりもよりよい成果を生むと考えられます。探究のテーマそのものは、それぞれ各人で異なっていても、あるいはグループやクラスで共通であっても構いません。ただ、調査や内容の検討を共同でディスカッションしながら行っていくことは、一人だけで探究するよりも、学びにはるかに深まりが生まれるのです。

 本書では以下のように話を進めていきます。第一章では、現在の世界、私たちが暮らしている現代社会の変容の仕方とその特徴を述べ、そこでの学びも大きく変わりつつあることを述べます。そしてその中における探究型の学びの大切さを説明します。第二章では、探究型の学びをどう進めるのか、その基本的な姿勢を説明します。最も大切なのは、探究する動機とその動機を深い学習へと進めるやり方です。第三章では、探究するテーマと問いを見つけるために哲学対話という方法を推奨し、その具体的なやり方について説明します。第四章では、情報収集と文献の読み解き方について説明します。そして、第五章ではプレゼンテーション、第六章では、レポートの書き方を具体的に説明します。プレゼンテーションやレポート作成でも重視されているのは、双方向的なコミュニケーションであり、対話的なやりとりです。発表における質疑応答の仕方、レポートを相互に評価する仕方に特徴があります。


 

私たちは自分の人生の中で出会うさまざまな課題を、
見つけ、調べて、解決することが求められる時代に生きている。
日常の関心を一歩前に進め、「対話」を通じて学びを広げよう。

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