世の中ラボ

【第76回】一〇代の新有権者に、大人の言葉は届いたか

ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」8月号より転載。

 七月一〇日の参院選は、選挙権年齢が一八歳に引き下げられてはじめての国政選挙だった。この原稿を書いている今日は一〇日より前なので結果はまだ出ていないが、はたして投票率は上がっただろうか。あるいは結果に何か影響が出ただろうか。
 まあ、影響はたいしてなかったでしょうね。一八歳、一九歳の全有権者人口に占める割合は二パーセント。仮に今回の投票率がいつもどおり五〇パーセント台で、一〇代の有権者の半分が投票に行ったとしても、全得票数に占める割合は一パーセント。もともと選挙結果に影響が出るほどの数じゃないのだ。
 とはいえ、今度の選挙ほど若者たちの動向に衆目が集まったことはなく、若者に政治参加を呼びかける本も次々に出版された。
 このジャンルには、もともと注目してきた私。何冊か読んだところでは、林大介『「18歳選挙権」で社会はどう変わるか』(集英社新書)と、松田馨『残念な政治家を選ばない技術――「選挙リテラシー」入門』(光文社新書)がわりとよかったかな。前者は子どもたちのシチズンシップ(主権者)教育にたずさわってきた研究者、後者は多数の選挙の現場を体験してきた選挙プランナーによる本で、いずれも選挙に対する日本人のシニシズムを批判し、長い目でみた投票リテラシーを磨く技術を説いた良書だった。
 では、世の大人たちが一〇代の新有権者に直接呼びかけた本はどうだろうか。一八歳、一九歳になったつもりで読んでみた。

感じるのは疎外感

 まず、これ。岩波新書編集部編『18歳からの民主主義』ね。
「Ⅰ 民主主義のキホン」「Ⅱ 選挙。ここがポイント!」「Ⅲ 立ちあがる民主主義!―18歳も、101歳も―」の三章仕立てで、学者やジャーナリストなど、三五人の有識者が執筆している。
「はじめに」の書きだしは、こんな感じ。
〈「フランスだって、大革命以後何度も失敗し、ファシズムに近いところまで追い込まれ、盛り返している。その盛り返すパワーが重要なんだ」/これは“この国はどこへ行こうとしているのか”というインタビュー記事(毎日新聞2007年8月31日夕刊)の中で、哲学者の鶴見俊輔さんが語ったことばです。/かつて戦争へと向かった不穏な時代にもたとえられ、民主主義の危機が叫ばれる現在の日本。私たちの中に果たして、鶴見さんの言う「盛り返すパワー」はあるのか? ないのか?〉。
 ゲッ、なにこれ。もー最悪。いきなり引用からはじめるなよ引用から。しかも、フランス? ファシズム? 鶴見俊輔? 戦争へと向かった不穏な時代? 民主主義の危機? 盛り返すパワー? いってることが、まったくもって意味不明。しかも、意味不明なのは「はじめに」に限った話じゃないんだな。
〈ここのところ、政治が憲法を無視し乗り越えるさまを、私たちは立て続けに目撃してはいないでしょうか。デモや集会で民意が示されても、政権は頑として立ち止まることがない――憲法が権力の暴走をしばる「立憲主義」は、相当に深く傷ついているのではないか〉(青井未帆「なぜ18歳から?」)といわれてもチンプンカンプン、〈民主主義には多様な考えがありますが、その根本理念は「被治者と統治者の同一性」です。これは要するに、自分たちで自分たちのことを決めていくことです〉(坂井豊貴「選挙って何だ?」)といわれても、自分には関係ない感じ。
「民主主義のキホン」の章からしてこれなんだから、各論は推して知るべし。だいたいさ、一本一本の論文が長すぎるよね。
 次、津田大介監修『はじめて投票するあなたへ、どうしても伝えておきたいことがあります。』。こっちは、作家、映画監督、アーティストなど、三〇人が語る新有権者へのメッセージ集だ。監修者の津田大介による「はじめに」がこちら。
〈政治ってむずかしいですよね。ニュースを見ていると、その時々で話題になることが違うし、時にはニュースがその話題で埋め尽くされたりする。でも、時間がたてばいつのまにか物事は勝手に決まってて、なんとなく「おかしいな」と思っても人々が驚くような決定が下される。そもそも国会でやってる国会議員同士の議論がすべて茶番に見える人も多いんじゃないでしょうか〉。
『18歳からの民主主義』より勉強臭は薄く、「憲法と民主主義」「原発とエネルギー」「沖縄と基地」「差別と貧困」という四章仕立ての構成もジャーナリスティックだよね。
〈民主主義って、実はとっても面倒くさい仕組みやねん。その面倒くささを引き受けるってことが、大人になるってことやと思う。自分たちの大切なことを人任せにしない、ってことやね〉(谷口真由美「『私のことは政治のこと』難しいことでも何でもないよ」)といった呼びかけも、〈現在、名護市に住んでいますが、辺野古の新基地問題が浮上してきてから、名護市民、沖縄県民は選挙のたびに、基地を誘致するか、反対するか?ということが突きつけられるわけです〉(目取真俊「絶対負けられない選挙、勝っても無視される選挙」)といった現場からの報告も、おもしろい。
 でもこれをおもしろいと感じるのは、やっぱ大人(それもある程度政治に関心のある)だろうな。
『18歳からの民主主義』も『はじめて投票するあなたへ……』も真摯に考えた企画なんだろうとは思うよ。ただ、いかんせん、みんな、自分がいいたいことをいってるだけで、相手(選挙に関心がない若者たち)への想像力が足りないのさ。もしも私が一八歳で、こういう本を手にしたら、感じるのは疎外感だけだと思う。
 この際だから、ついでにいうけど、SEALDs(昨年の安保法制反対運動で有名になった大学生のチーム)を若者の代表と思っちゃダメだからね。彼らは同世代の中では「意識高い系」の「変わったヤツ」で、つまりインテリ予備軍なわけ(だから一流大卒の学者やジャーナリストに受けるのさ)。だいたい、いい年をした大人がさあ、大学生に頼るなって私は思うよ。SEALDsもSEALDsで、「学者の会」や「市民連合」とつるんで既成の野党共闘に手を貸した(巻き込まれた?)時点で終わってるよね。「ドント・トラスト・オーバーサーティー」の精神が欠けてるもん。

ギャル男との対話を見よ

 文句ばっかりいってるけど、私はマジメに考えてんのよ。マジメに考えてるから歯がゆいわけ。民主主義だ選挙だという以前に、私たち大人が問われているのは、若い世代とのディスコミュニケーション状態をどう乗り越えるかじゃないのか。
 という意味で、勉強になったのが、おときた駿×4人のギャル男たち『ギャル男でもわかる政治の話』だった。無所属の東京都議会議員(三二歳)が、四人の男子(二一~二六歳。モデル、アーティスト、ファッションデザイナーなど)に政治のイロハを教えるというスタイルの本で、「第一部 そもそも政治ってなに?」「第二部 実際、政治ってどうなってるの?」「第三部 じゃあ、どうやって変えればいいの?」といったタイトルは一見普通だし、扱っているテーマもきわめて真っ当なんだけど……。
 実際に読んでみると、驚きまっせ。
 たとえば、「現在の総理大臣が属する政党は、なに党ですか」という問題に「自民」と書いたトシキ君。みごと正解するも〈迷ったんですよね、二択で〉。一方「民主」と解答したレン君は〈近所でよく選挙のポスター見るから、民主党であってると思ったんだけどなあ〉。ここで、おときた先生、すかさずフォロー。〈惜しかったね。でも選挙のポスターを見たっていうのはいい指摘で、選挙っていうのは、個人を選ぶだけじゃなくて、政党を支持するという側面もあるんだ。じゃあ、そもそも政党ってなんだろう?〉
 そうだよね、政党政治って何だろう。
 おときた〈『ワンピース』には「麦わらの一味」とか「白ひげ海賊団」とか、海賊団がいくつかあるよね? それぞれ、自分の海賊団のお頭を海賊王にしようとして、海賊団同士が戦ったりする〉。トシキ〈チーム戦なんですね〉。おときた〈まさにそう。有権者にとっては、好きなチーム=政党さえ決めれば、個別に人=政治家を選ばなくていい、というメリットもある〉。レン〈ファンになる、みたいなこと?〉。おときた〈白ひげ海賊団の考え方が好きだから、個々のメンバーの考え方を把握していなくても、海賊団自体に投票すればOK、ということだね〉。レン〈おお、それなら投票しやすい!〉。
 与党と野党の違いを知らない。衆院と参院があることを知らない。選挙とは好きな政党に投票することだ、ということを知らない。
 政治にまったく関心のない若者を選挙に行かせるとは、このレベルからはじめなければならないってことなのだ。いっておくけど、彼らが無知でバカであるって意味じゃないからね。
 おときた〈『ワンピース』で言うと、四皇と王下七武海と海軍の関係みたいなものかな。王下七武海が暴走すると、海軍が止めにくる、みたいな〉。レン〈なるほどー!〉。トシキ〈3つのどれが勝つとは限らないから、3つがちょうどいいバランスで成り立ってるってことか〉。おときた〈その通り〉。
 以上は三権分立についての説明だけど、意味わかります? わかりませんよね。それはこちらにマンガ『ONE PIECE』についての教養がないからだ。つまり彼らと私たちとでは教養の質がちがうのである。この本から大人が感じる疎外感は、大人の視点でつくられた民主主義本から若者たちが感じる疎外感と同じだろう。無知な若者に驚き、あきれるのは簡単である。しかし、ここから民主主義教育をやり直さない限り、この国に未来はないのだ。

【この記事で紹介された本】

『18歳からの民主主義』
岩波新書編集部編、岩波新書、2016年、840円+税

 
〈これから初めて投票に行く人も、しばらく行っていない人も。この本は、そんな人たちのための本です。憲法、景気、雇用、教育、医療、社会保障、税金、……。問題山積みの日本社会。今日のあなたの1票が、もしかしたら明日を変えるかもしれません〉(カバー袖より)。良心的な本であることはわかるけど、横組みのせいか、パッと開いただけで読む気が失せる不思議な本。政治に対する意識の高い学校の教師向き?
 

『はじめて投票するあなたへ、どうしても伝えておきたいことがあります。』
津田大介監修、ブルーシープ、2016年、1400円+税

 

『ギャル男でもわかる政治の話』
おときた駿×4人のギャル男たち、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年、1400円+税

〈若い世代なら誰もが知っている漫画やアニメ、アイドルなどにたとえて、難しい政治の話をおもしろおかしく解説する、史上初の「エンタメ政治入門書」を目指しました〉(カバー袖より)。全16講の内訳は、政治とは?、民主主義、憲法、政党・議会、資本主義、財政、年金、安全保障、エネルギー、公務員制度、社会保障、雇用、……と本格派。10~20代と彼らを理解したい人向き。

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