「ん?」
「いま、何時?」
宗士郎は腕時計に目をやる。
「いま、7時ちょっと前だ」
「やばい! 母さん、帰って来る」
数馬は自転車に駆け寄ると、スタンドを乱暴に蹴り上げながら、
「続きは今度、ゆっくり聞くよ」
「おい、待てよ。まだ、光の速度が不変だと困ったことが起こるって話の途中だぞ」
「大丈夫。どんなことがあったかしらないけど、俺は困ったりしないから」
数馬は自転車を引いて、土手を上り始める。
「こんな中途半端で終わるのは気持ち悪いから、必ず連絡してくれ」
土手を上りきると、数馬は砂利道を見下ろした。
すがるような目をした宗士郎が、一生懸命、数馬に向かって手を振っている。
「約束するよ、父さん!」と叫んで、自転車にまたがり、ペダルを蹴った。
父さん――とじかに呼びかけたのは、空港で見送って以来、3年ぶりだった。