ちくま大学

ジェイコブズにならって都市のあり方を提案する
ジェイン・ジェイコブズなら何と言ったか 4(最終回)

ちくま大学では、20世紀の都市計画のあり方を根本から変え、経済学の世界にも大きな影響を与えた思想家ジェイン・ジェイコブズの生誕百年を記念した講座を開催してきました。今回は最終回、受講生による研究発表の模様をダイジェストでお届けします。

第6回「研究発表」(7月8日)
                    発表者 受講生のみなさん

ジェイコブズになりきる。

今回のジェイコブズの講座では、大学のゼミさながら、受講生による研究発表の日を設けました。発表は、ジェイコブズの考え方、取り組み方にならって、事例研究や新たな都市や経済のあり方を提案するものです。受講生のうち、6名の方から力の入ったレポートの提出がありました。

輸入置換について

最初に発表されたのは、元メーカー勤務のSAさん。輸入置換についての発表です。ご自身が勤められたファスナーのメーカーが、アメリカ製の機械を購入し、アメリカ製のファスナーをコピーしていた時代から脱却して、自前の機械を生み出し、素材をアルミ合金にすることで発展し、その過程で協力関係にあった金属メーカーがアルミ合金の加工技術を他の分野に応用していった事例を報告されました。

複雑ネットワークから

続くTKさんは、経済学に関わらず、色々な勉強会に顔を出される熱心な方。サミュエルソン経済学での「規模の経済」「製品の多様性」を論じながら、ジェイコブズの『経済の本質』の議論を、「複雑ネットワーク」の観点から考え直すことが有益なのではないかと指摘されました。

日本のショッピングモールは

建築に携わるWTさんは、現在日本中で建てられているショッピングモールには、街のすべての要素が入っているが、それは街に似て非なるものでしかなく、ショッピングモールは地域の発展に貢献しないとし、日本の衰退は1977年に始まったというジェイコブズの指摘について考えます(『発展する地域 衰退する地域』)。1977年は、福田赳夫政権によって「土建国家日本」の幕が切って落とされた年でした。

都市の多様性に貢献するアート

TYさんはアートイベントに関わっている経験から、ジェイコブズのいう「都市の多様性」に、同種のイベントが貢献するのではないかと提案。新宿クリエイターズ・フェスタ、黄金町バザール、木津川アートなど、年間予算1億円未満のイベントに対象を絞り、「混用地域の必要性」、「古い建物の必要性」に芸術作品が有用に機能する可能性を指摘しました。

インプロビゼーションからの喚起

緑と人の関係性に関心のあるWAさんは、アダム・スミスが『道徳感情論』で描いた人間社会に対して、ジェイコブズのインプロビゼーションが喚起するものを考察。何が利益を生むのかではなく、本来求められているものは何なのか、何を望んでいるのかといった観点から行動することが、経済的にも規範的にもいい社会を構築するのではないかと締めくくりました。

フィードバックの欠陥を克服するには

イギリスのEU離脱が世界経済に及ぼす影響を調査しているTYさんは、通貨についてジェイコブズが述べている『発展する地域 衰退する地域』第11章「都市への誤ったフィードバック」を取り上げて発表。ジェイコブズは、一国の通貨はフィードバック機能としては有力であるが、適切な修正を引き起こすには無力な存在という。その欠陥を克服するにはどのような手段があるのか。ジェイコブズが住んだカナダ・トロントで導入された地域通貨「トロント・ダラー」やケベック独立運動などに触れながら考察しました。

塩沢・宮﨑両氏からは、研究者を指導するかのような鋭いコメントが出され、打ち上げ会場に席を移してからも、皆で熱く語らっていました。

5回の授業と2回のフィールドワーク、そして最後の研究発表と、受講生のみなさん、おつかれさまでした。

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