単行本

DJ久保田 #「ちくま」特別編

「Webちくま」限定ロングバージョン

PR誌「ちくま」5月号から、初の小説集『ぐるり』を刊行した高橋久美子さんによる本書の紹介を兼ねた描き下ろし短篇小説を公開します。物語にも登場するDJ久保田の番組に著者自ら出演?! PR誌「ちくま」に掲載したもののロングバージョンになっています。「ウェブちくま」での限定公開。

「ということで、今日のゲストは作家・作詞家の高橋久美子さん、そして美人すぎる料理研究家サトマリさんにもお越しいただいています。
 高橋さんが今月初めての小説集を出されたそうで、僕たち一足先に読ませてもらいました。表紙の奈良美智さんの女の子が全ての物語の登場人物に見えてくるから不思議なんですよね。挿絵も奈良さんの描き下ろしが9枚も入っているということで、豪華な小説集ですよねえ。サトマリさんはどのお話が好きでしたか?」

「『柿泥棒』最高でした~。高枝切り鋏ほんとに買っちゃうのー。で、行っちゃうのーみたいな。あと、『逃げるが父』もね、嘘、お父さんってそうだったのって……」

「わーわわわ。ネタバレになるから、そのへんでストップですよ! 俺はね、『卒業』が胸アツだったなあ。いろんな意味で家族の卒業がね、ジーンときたんだよなー。あと、僕、猫好きなんすけど『猫の恩返し』の猫と恋人の関係に笑いましたよ。ついに完成ということで、高橋さん手応えはありますか?」

「うーん。面白いと思うんですけどー。どうですかねえ」

「ちょっと、自信持ってください。素晴らしかったですよ。それぞれの物語の登場人物が街のどこかですれ違ってたり、あ、この子って前の話に出てたなとか、未来のこの場所と同じだとか、少しづつ繋がる優しい世界が高橋さんらしいなと思いました。
 鳥の目線ではなくて、もちろん神様の目線でもなくて、もしかしたら作家の目線でもない。まるっきり人間の目線で、人間のすぐ隣にいながらこれを書いているんだなあって」

「あ、え、それは西加奈子さんが書いてくれた帯の推薦文じゃ……」

「あれ、バレました? ずっと側で見てるような感じでね。西さんもそういうご感想を?」

「はい。人間をまるごと書いているみたいだって言ってくれました。咀嚼とか観察からは遠くて、そういう書き方は稀だって。それって、私、大丈夫なんでしょうか?」

「ええ、僕に聞きます? サトマリさんどう?」

「ちょー面白かったですよ~。なんか~、『振り向いて』って本の中から聞こえたような気がしたんですよね~。それは今まで気が付かなかった私自身の心の声だったような気がするんです~」

「あ、ありがとうございます。でも、それも帯の推薦文でモモコグミカンパニーさんが書いてくれた文章と同じ……」

「やだー。たまたまですよー。私もそう思いましたもーん。なんていうかー、愛しくて切なくて心強くて。あ、あと、料理がとても美味しそうでしたねー。フランクフルトとか、卵焼きとか、私のレシピ見て書いたんじゃないかなって思うくらい、いい感じでした。
あと、高橋さんてー、優しそうでいて、実は怖いなーってのも思ったかもー」

「え? それはどういう?」

「ホントはただの〈いい人〉じゃないんじゃないかなーって。ふふー」

 ――ちょ、サトマリさん! 久保田さん、ここで一旦CM入りましょう。

「スタジオが曇ってきた模様です。久保ラジ、後半はまたCMのあと!」

 *     *     *     *     *     *

「ちょっとちょっとサトマリさん。どしちゃったんですかー」

「だってー。聞きたかったから素直に聞いただけですよ。これって、どういう時に思いつくんですか? 実話だったりするんですか??」

「ええと、うーん。全部創作です。でも、どこかで見た人だったり、気持ちのどっかにあったから書けたと思うので、どれも嘘じゃないんだと思います」

 ――そろそろCMあけ三十秒前です。
 ――5、4、3、2、1、

〈♪ジュボボボーン。久保ラジラージララッル〉
「DJ久保田がお送りしています久保ラジ、サトマリが果敢に切り込んでいきましたが、その後どうなったでしょうか。サトマリさん、お手柔らかにお願いしますよ」

「はーい。ごめんなさーい。『ぐるり』の登場人物って、どの人も特別じゃなくて、家族とか友達にいそうなんです。もしかしたら私自身のことかもって思ったし、自分にさえ見えてない姿だったり、消えていく風景を切り取ったような。だから、懐かしくてヒリヒリしたりするのかなあ」

「サトマリさん、まるで高橋さんの小説の中に登場しているみたいですね。どうですか高橋さん?」

「は、はあ。自分でもまだよく分かってないんですけど、特別じゃない一日の、ちょっとした心の揺れとか、気持ちの動くきっかけとか、些細な熱を描きたかったんです。書くことで、普通がとても〈特別〉に思えました。むしろ普通なんてないんだなって、書きながら気づいたことでもあるんですが。
 多分私の小説はまだまだ未熟なんだと思います。でも、そういうことさえも、必要なことで、読者の方々がこの未熟な物語のすぐ隣に座って、何でもない日に確かにあった熱を見つけてもらえたらいいなと、そう思います。いつかの自分の物語であればいいなと。明日に繋がるかどうかは分かりませんが、何か今がふわっと浮かび上がるといいなって思いました」

「ふむふむ。分かるようで分からないようで分かる! 高橋久美子さんの初の小説集『ぐるり』は筑摩書房から4月に発売となりました。みなさん、是非ご購入してみてください」

「『サトマリの里』も是非一緒にカートに入れてくださいね。よろしくおねがいしますぅ~」

「ちゃっかりしてんなあ。では、今日の久保ラジはこのへんでお別れです。お会い手は、久保田真司と」

「サトマリと」

「高橋久美子でした」

「また明日、同じ時間にお会いしましょう!」