十代を生き延びる 安心な僕らのレジスタンス

第1回 学校は好きですか?

寺子屋ネット福岡の代表として、小学生から高校生まで多くの十代の子供たちと関わってきた鳥羽和久さんの連載です! 十代の子供たちが学校や家庭で直面する諸問題について、見て見ぬふりをせずに根掘り葉掘り考えます。

この連載は大幅に加筆し構成し直して、『君は君の人生の主役になれ』(ちくまプリマー新書)として刊行されています。 刊行1年を機に、多くの方々に読んでいただきたいと思い、再掲載いたします。

いきなりですが、これを読んでいる皆さんは学校が好きですか? 友達に会える場所だから好きだという人もいれば、めんどくさいから嫌いだという人もいると思います。もっと具体的な理由、たとえば、担任の先生が苦手だとか、友達と最近うまくいっていないという理由から、好きになれない人もいるかもしれません。中には、好きになれなかったから学校に行かなくなった人もいるでしょう。

いま学校が楽しい人は、とても運がいい人です。しかも、友達に恵まれていて、大きな悩みもないんだとしたら、ちょっとうらやましいです。でも、薄々気づいているかもしれませんが、その楽しさは明日も必ず保証されているとは限りません。あなたのそばにもいる、いま学校が楽しくない友達は、最初から楽しくなかったわけではなく、ある出来事をきっかけにそうなった場合も多く、あなたにもその出来事が明日やってこないとも限りません。

その意味では、誰もが明日のことさえ分からない不安定な中で学校生活を送っていて、だからこそ、ある日は先生の機嫌を伺ってみたり、別のある日は友達からのLINEの返事に頭を悩ませたりするのでしょう。つまり、学校が楽しいか楽しくないかを決定する肝心な部分は偶然に委ねられていると言えそうです。

私は仕事柄、たくさんの中高生とおしゃべりをする機会があり、毎日のように彼らがこぼす愚痴(ぐち)を話半分に聞きながら、言葉にならないため息に耳をそばだてる生活を送っています。

彼らは学校に対する不満でいっぱいです。理不尽な校則、ハードすぎる部活動、威圧的な先輩たち、大量の宿題、上から目線の教師、校長の長すぎる話……。そして受験が近づくと、今度はそんな不満がどうでもよくなるほどに、将来に対する不安が頭の中を占めるようになります。

そんな彼らと話していると、なんとかしてそういう不満や不安を少しでも軽くしてあげられたらいいのにと思います。だから、実際に私も学校に電話して、なんで〇〇は××なんですか!? と根掘り葉掘り尋ねて、次々に子どもに襲い掛かる理不尽をどうにか解消しようと動いてみることもあります。他方では、何かが解決するわけでもないのに、いま彼らが抱えている不安についてとりあえず話を聞いて、やっぱり何の結論も出ないままに、その子の不安げな背中を見送る夜もあります。

でも、そうやって彼らと話してきてひとつ分かったのは、彼らの不満や不安が解決すればそれでオールOKかといえば、そんな単純な話でもないということです。もちろん、理不尽な校則などの学校のしくみは変えていくべきですよ。いまだに子どもの最低限の人権も守れないような情けない学校が日本にはたくさんあります。

でも一方で、みんなはイヤだイヤだと言いながらも、休日に部活があればちゃんと参加するし、定期テスト前になれば一夜漬けとはいえ必死に漢字や単語を頭に詰め込もうとするでしょう? つまり、こんなことやっていったい将来何の役に立つんだろうかと疑問に思いつつも、苦しみながら勉強や部活に励むことを通して、みんなは深いところで人生を楽しく幸せに生きようとしているんです。

苦しいことをするのは幸せじゃない。人間というのはそんな単純にはできていなくて、それが少しくらい辛いことであっても、何もしないよりはずっと、それがそのまま生きることの実感に繋(つな)がっていることを、みんなはどこかで知っているんだと思います。

これは苦しいことを進んでしなさい、というような説教じみた話ではないですよ。そうではなくて、人間は苦しいことを進んでやってしまうくらいよく分からない生き物だということを知っておいたほうがいいと思うのです。人間自体が理不尽な存在なので、理不尽なことを全て抹消することは、下手したら人間の消滅に繋がりかねない危険なことなのですね。

私はこの連載で、十代のみんなが学校や社会、家庭などですでに直面していると思われる理不尽な事柄について、そのひとつひとつにスポットを当てて考えていきたいと思います。なぜなら、みんなにそういった理屈に合わないことと戦う胆力(たんりょく)をつけてほしいと思うからです。

でも、矛盾するようですが、みんなには、すべてが理屈どおりに進むとは限らないことも同時に知ってほしいのです。それは、人間がいつも理屈からはみ出してしまう複雑な生き物であり、その複雑さを重んじることこそが、私たちが共存を図るための生命線と言えるからです。


 

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