ちくまプリマー新書

わたしたちには「他の価値観で生きる他者に出会う場所」が必要だ

『みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT』より本文一部公開

「まわりのみんなと違っていること」について、あなたはどう思いますか――性の多様性について考える一冊『みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT』(ちくまプリマー新書)が好評発売中! 日本の高校生の自己肯定感が低いのは「自由になるためのつながり」が少ないから? 著者は「他の価値観で生きる他者に出会う場所」の必要性を説きます。

 私の友人に、高校時代に自分がゲイかもしれないと気がついた時に、とても苦しんだ人がいます。だれにも悩みを言えず、自分と同じような人がいったいどこにいるのかも見当がつきません。

 小さな頃から「オカマ」という言葉はいつもだれかをバカにするために使われていました。ほかでもない自分がそうやって笑われる存在なんだと認めることは、あまりにショックで、この先どうやって生きていけばいいのか、生まれてこなければよかった、とさえ思ったと話していました。

 その友人を救ったのはYouTubeでした。悩んでいたある日、YouTubeで「coming out(カミングアウト)」と検索してみたところ、たくさんの当事者が自分のことを話している動画がヒットしました。その頃、日本語でLGBTについて話しているYouTuberはほとんどいませんでしたが、英語が得意だった彼は、英語で「gay(ゲイ)」「coming out(カミングアウト)」と打ち込み、こうして世界中に自分と同じような人がいることに気がついたのです。

 それから友人は毎日、取り憑かれたようにYouTubeの動画を何千本と見ました。ボーイフレンドを紹介する動画。家族と楽しそうにしている動画。

「場所が変わったらこんなに楽しそうで、笑われていないんだ」と思って、友人はだんだんと自分を肯定的に思えるようになりました。世界中の人とつながれるYouTubeでの出会いは、彼を自由にするためにはとても大切なものでした。

 この本を書いている二〇二一年の時点では、日本語でLGBTについて語るYouTuberも増えてきました。その後、彼自身も自分のYouTubeチャンネルを開設し、自身もチャンネルの中でカミングアウトを行いました。

 私たちは、自分ひとりではなかなか自由になれない生き物のようです。

 現在、欧米圏を中心にファッションショーや広告、SNSなどでは様々な体型のモデルが登場することが増えてきています。これまでやせ体型のモデルが重用されてきたことによって、多くの女性が自分の体にコンプレックスを抱き「やせなきゃいけない」と思いこまされてきました。その弊害が指摘され「美しさにもいろいろある」というメッセージを打ち出すようにファッション業界の常識が変わりつつあるのです。ぽっちゃりした体型の女性が「プラスサイズモデル」としてモデルに起用され、彼女たちが体型に合ったかわいいファッションで、自信満々で楽しそうにしている様子を見て、はじめて「やせなくていいんだ」「このままでいいんだ」と思う女性たちが増えました。

 知らず知らずのうちに刷り込まれてしまう「こうしなくてはいけない」、「自分は変わらなくてはいけない」という呪いは、他の価値観でのびのびと生きている他人に出会ってはじめて、解除できるようになります。むしろ、他の人に出会うまで、自分が「こうしなくてはいけない」と思い込まされていたことにさえ気がつかないことも少なくありません。

 文部科学省の調査によれば、日本の高校生は自己肯定感が低く、「自分はダメな人間だと考えることがある」と答える人が諸外国よりもずいぶん多いようです。物質的にはこれだけ豊かでありながら、そう考えてしまう若者が多いのは、本人のせいではなくて「自由になるためのつながり」が少ないからではないかと私は考えています。

 ほとんどの子どもたちが、学校と家の往復ばかりの毎日を送っています。日本の学校は「まわりに迷惑をかけてはいけません」、「みんなと仲良くしましょう」など、多数派が決めたルールに従うことばかりが求められます。そんな環境に浸かっていると、セクシュアル・マイノリティのように「〜マイノリティ」という名前がつかない子どもたちだって、だれだってだんだん元気を無くしてしまいます。

 自分のことを好きになったり、自由になったりするためには、家族や親友といった強いつながりだけでなく、弱いつながりをたくさん持って「世の中には本当にいろいろな人がいるんだな」、「思った以上にみんな自由に生きられているんだな」と実感できる機会が必要です。

 昨今では、家や学校以外の「第三の場所」として、地域の中に子どもや若者が自由に集まれるスペースを作っているNPOや有志が増えています。みんなでご飯を作って食べたり、ゲームをしたり、若者にダンスの練習ができる場所を貸してくれる施設も増えてきています。私も、LGBTの子どもや若者が集まる「にじーず」という居場所を運営しているひとりですが、このような「第三の場所」がLGBTに限らずすべての若者にとって、もっと身近になればいいのにといつも思っています。日頃の役割から解放されてホッとできる場所をひとつ、ふたつ知っておくと、自分との付き合い方が上手になります。


 

・友だちに秘密があるって悪いこと?
・恋愛の当たり前ってきついんですけど
・なんでも個性と呼んでいいの?
・家族が結構重たいんだけど

当たり前に疲れたあなたへ

性のあり方という指標でみれば、多くの読者は「マジョリティ」に属していたかもしれません。しかし、友達に言えない秘密に葛藤したり、恋愛のあたりまえに苦しんだりしているとき、そこではマイノリティやマジョリティといった境界はほとんど意味をなさなくなります。普遍的なレベルで性別やセクシュアリティにまつわる違いを超えて、私たちには共感できることがたくさんあるのだということが、本書を通してもっとも伝えたかったことです。(「あとがき」より)