苦手から始める作文教室

第5回 最後が決まっていなくても、文章は書ける

第2回で「(作文は)そもそもふもとから出発できればなんでもいいとも言える」と津村さんは書いています。それが意味するところをPB作文で考えます。

 そうは言っても書くことはないのです。国語の先生にいきなり「自由に書いてください」と言われたって、書けることなんか何にもないのです。

 なぜいきなり「国語の時間に自由作文を書いてくださいと先生に言われた生徒の気持ち」を代弁し始めたのかというと、わたしも似たようなことをときどきやっているからです。小説家に来る自由作文に似た仕事とは、「これこれの枚数で自由にエッセイを書いてください」というものです。エッセイとかいって気取ってますけど、ようは作文です。

 わたしは第1回から第3回まで、引っ越しとうまい棒の関係についてしつこく例にあげましたが、自分で書いたことながら、そもそも「引っ越し」というのが大ネタじゃないかと思うのです。引っ越しは大変です。生活が激変します。人生でめったに起こらないことです。手ぶらで「自由に書いてください」と向き合うのであれば、「引っ越し」というカードを切ることはまずないと考えた方が良さそうです。

 ならば引っ越さない状態で自由作文を書くにはどうしたらいいのでしょうか? 3回目、4回目で書いたように、繰り返し頭に浮かぶことがあればいいですが、それすらもなければ? それはもう昨日のこと、おとといのこと、さきおとといのことを思い出すしかないです。それで何か心に残ったことを見つけます。

 エッセイという仕事は作文と変わりない、と書きましたが、わたしは現在、だいたい4週間に1回、この「自由に書いてください」をやっています。毎回この仕事にはとても苦労しています。特にうまくはならない中、ただ「苦労する」ということだけは学んだので、なにか書けそうだということを思い付いたり、そういうことに生活の中で直面するとメモをとるようになりました(※)。

 最近の主題は、

・5月に半袖のTシャツで過ごすと、ときどき肌寒いが布団をかぶるとちょうど良い感じで暖かく、簡単に幸福感が得られるので、休日は積極的にTシャツで過ごしていることについて。それで風邪をひいたことについて。

・応援しているスポーツ選手がインスタグラムでやたら良い景色を共有しようとしてくることについて。

・請求書を作ろうと久しぶりにパソコンを立ち上げたら、ウイルス対策ソフトが「あなたがパソコンをさわっていないうちにこんなにやっていないことがあります」といろいろな提案をしてきて、パソコンの持ち主がほとんどわたしではなくウイルス対策ソフトみたいな状況になっていたことについて。

 などです。いずれも、友達にすら言うのをはばかられる小さなことばかりですが、なんとか書いています。国語の先生方も「自由に書いてください」という、出題する側からしたら簡単で、出題される側からすると難しい課題を出したのであれば、上の3つぐらいのどうでもよさなら、ふところ深く受け入れていただければと思います。

 「自由に書いてください」と難題を出されたからには、とにかくなんでも書きます。それこそ、この連載の第2回で申し上げた「そもそもふもとから出発できればなんでもいいとも言えるのですが」です。「そのことについては回を追って説明します」と言いましたので、そろそろそのことについて書こうと思います。

 第1回、第2回で、わたしは「家賃が高いからPBとうまい棒しか食べていない」と「でもべつに不満はない」の間を書くのが作文、と書きましたが、「でもべつに不満はない」という最後の部分については考えられていなくても、そんなふうに気持ちが定まっていなくても、実は作文は書けます。それこそ、最後に何を描くかは決めずに、「家賃が高い」からとにかく書き始めてもいいですし、「うまい棒が好きだ」「各スーパーのPBを見て回るのが趣味だ」からとにかく書き始めることもできます。

 要するに、「家賃が高いからPBとうまい棒しか食べていない」という状況を「家賃」「PB」「うまい棒」に分解して、それぞれについて書くこともできますという提案です。うまい棒についてはさんざん書きましたので、今度は「PB」について思うこと、書けそうなことを、第2回で考えた内容もリサイクルしながら出してみたいと思います。

・PBを買うときは必ず裏面の「製造元」を見る。有名な会社なら「いろいろなことをしてるな」と思うし、知らない会社なら「覚えておこう」となる。

・あるコンビニのチョコビスケットのPBを製造している会社は〈S〉で、別のコンビニの同じ商品の会社は〈Y〉なのだが、両方とも同じぐらいおいしい。

・〈S〉は最近キャラクターを前面に押し出した尖った商品を自社ブランドで出していておいしかった。

〈Y〉もやはり、チョコレートバーには似つかわしくない名前の商品で人気を博している。

 こうやって考えているうちに、なんだかPBを作っている会社が、いっしょけんめいチョコビスケットやチョコレートバーに向き合って作っている様子が頭に浮かんできますよね。

 それで思ったことを、「でもべつに不満はない」の代わりに、最後にそのまま書けばいいわけです。「まるでチョコビスケットの戦国時代のように思える」。そんな最後でいいのか、と思われるかもしれませんが、本当に思ったことならそれでいいのです。

 

※メモについてはいずれ書きます。

 

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