苦手から始める作文教室

第6回 「好き」を1から考える

作文のふもとから出発するためには、題材の種類が狭まったとしても、好きなこと関心のあることからはじめるのがいい。では題材とどう向き合うか。そこを考えてみる。

 第5回の半ばから、まるで何に関してもとにかく出発したら書けるかのように書きましたが、実は「家賃」の話題を避けているように、自分がはじめからあまり関心のないもの、考えていないものについてはだいたいは書けません。たとえばわたしは、「ジュエリー」については書けませんし「スキューバダイビング」についても書けませんし「タワーマンション」についても書けません。他にも書けないものはたくさんありますし、むしろ書けるものの方が少ないです。

 それならば、書けないものを探すよりは、書けるものを探すほうが数が少なくて早いですよね。関心のないもの、興味のないもの、考えていないもののことはだいたい書けない、と言いましたが、その逆の関心のあるもの、興味のあるもの、よく考えているもの、についての文章は、わたしはだいたい書けますし、みなさんも書けるんじゃないでしょうか。「とにかくふもとから出発する」ためには、自分が関心のあるもの、興味のあるもの、よく考えているものを探すのがどうも良さそうです。何か自分にとって関心のあるものはあるでしょうか? ものじゃなくても、起こっていることや、起こったことや、日常の中で気になること、気になっていたことはあるでしょうか? わたしは、「うまい棒」「PB」には関心があるので、作文が書けそうだということは、これまでの文章でなんとなくおわかりになったかと思います。

 このことに関して、おまえは食べ物のことしか書けないのかよ! とおっしゃる向きもあると思います。でも、そういうことを言われたら、食べ物のことを書けばいいんだよ! まずは! と言い返そうかなあとも思います。それで、好きな食べ物なんかないんだよ! と言われたら、じゃあ昨日の晩ごはんのなんてことなさについて書けばいいんだよ! と言い返すかもしれません。

 たとえば、昨日の夜、何も作る気がしなくてなんとなく買ってきて食べた冷凍のたこ焼きが、どんなふうにおいしくもまずくもなかったのか? 中の生地はまあまあおいしいと言えるかもしれないけれども、外側がまったくかりかりしていなくてたこ焼きらしくない、でも味はたこ焼きなので、一応たこ焼きを食べたい気持ちは満たされたとしても、かりかり感がなかったのはやはり不満だ。食べ物のおいしさというのは、味自体ももちろん大きな要素だけれども、食感というのもとても大事なものなのだなあ、というようなことを書けばいいのです。

 2015年に、「高校生フォーラム〈17歳からのメッセージ〉」というコンテストで金賞を取り、今もSNSで話題になったりウェブの記事などで読まれている、「てんぷら」という作文の主題は食べ物ですよね。一見、ただただてんぷらを食べたい、という気持ちが書かれた文章なのですが、

・てんぷらをどう食べたいか
・種類によってはどうアレンジしたいか
・てんぷらを食べると自分の気持ちがどんなふうになるのか
・今どんな思いでてんぷらのことを書いているか

 とさまざまな角度から余すところなくてんぷらについて書かれていて、てんぷらを大して好きでもないわたしでもてんぷらが食べたくなるすばらしい文章です。

 そこまで好きな食べ物はない! ということでも、好きなゲームやアイドルや球団のことを書いてももちろん良いと思います。自分はそれのどういうところが好きなのかとか、どういうきっかけで好きになったのかとか、それを好きでいることの苦労だとか悩みだとか、楽しいことや喜んだことについて考えているうちに、書くことは生まれてくると思います。

 好きな何かについて、自分なりによく考えてみることは、他のことについてよく考えることの入り口になります。わたしが個人的に大切だなと思うことは、誰か他の人たちがその好きなものについて語っていた内容はいったん忘れて、自分の頭で1から考えてみることです。それが結果的に他の人と似てしまってもかまわないですし、その他の人と自分が同じような人間であるという証明にはなりません。別のあるものに対して、その他の人は自分と違う感じ方をするかもしれませんし、そういうなりゆきを何度もくりかえして、人は個性を身に付けたり、自分自身を知ってゆくのではないかとわたしは思います。作文から少し話がそれてすみません。

 何かとても好きなものについて考えたり文章を書くことができるようになると、まあまあ好きなものや、ちょっとだけ好きなものについても、考えたり書いたりができるようになると思います。望む人はあまりいないでしょうが、嫌いなものについてもだいたい書けるようになります。また、好き嫌いが関係がない課題作文に関しても、よほど相性が悪いものでない限りは書く用意ができるようになると思います。〈自分はそれについてどう思うのか〉を、まずは好きなことを通して考えられるようになることから始めてみてください。

 つけたしですが、わたしが「タワーマンション」について書けないのは、良い感情も悪い感情も持っていないからです。念のため、高校受験用の作文の課題をいろいろ検索してみたのですが、「タワーマンション」はさすがにありませんでした。書く人が何の感情も持てないかもしれないことを、それでも書いてと言われることは、さすがに学校に通っている段階ではないと思います。なので、当面は思い切り好きなことについて考えてください。

 好きなものがまだなければ、最近の晩ごはんや、学校からの帰り道で見かけたものについて考えることから始めて大丈夫です。まだ見かけていないけれども、見たいと思っているものについてでも、なんでも大丈夫です。考えることは自由です。

 

※本文で紹介しました作文「てんぷら」は下の「第15回高校生フォーラム『17歳からのメッセージ』作品集」で読むことができます。

https://www.osaka-ue.ac.jp/data/17message/17message_report2015/index.html#target/page_no=1/

 

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