地方メディアの逆襲

第2回 「視聴率」と「報道の使命」の間で

東海テレビ放送「さよならテレビ」編

地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 自社の内幕を描いたドキュメンタリー『さよならテレビ』で、テレビを問い直した東海テレビ放送に迫ります。

数字に支配される報道現場
 社会や時代とのずれ。表向き掲げる「報道の使命」とのずれ。そして、自分の感覚とのずれ。『さよならテレビ』は、東海テレビディレクターの圡方宏史がテレビ局という組織、報道部という職場の中で感じてきた「居心地の悪さ」が基調をなしている。
 自分たちは権力者から一般人にまでカメラを向けるのに、取材される側になると強く反発する矛盾。女性が圧倒的に少ない男性中心社会で、軍隊のような上意下達や根性主義が幅を利かせる風土。「残業を減らせ。サブロク(労働基準法36条)協定を守れ」と言いながら、定時退社や休みを取るのがはばかられる雰囲気……。
 「昔のよかった時代から変わってないんでしょうね、組織の文化や価値観が。取材現場を離れ、会社の中にいる時間が長くなるほど、自分たちのずれに気づかず、外からおかしいと言われても理解できなくなっていく気がします」
 圡方は、制作部出身という経歴上も、性格的にも、報道部の異端者を自任する。「仕事は好きだけど、会社は苦手。組織の論理になじめない」。それゆえ、周囲を冷徹に観察してしまうのかもしれない。
 たとえば、視聴率への強いこだわり。数字が金科玉条と化し、ほとんど唯一の指標となっているさまが描かれる。毎朝の会議で前日の夕方ニュースの視聴率が報告され、「何をかければ数字が上がるか」「CMの置き所の検討を」「もっと数字に貪欲に」と指示が飛ぶ。競い合う在名古屋4局の表が貼り出され、無情にも「4位」と書き込まれる。そんなシーンが何度も挟まる。
 毎分の視聴率を追うと、硬派なニュースよりグルメや生活情報の方が高い。冷凍食品の話題で数字が上がっているのを見て、圡方が問いかける。「グルメばっかりにしたら4位から脱出できるね」。現実を認めつつ、同僚たちは異を唱える。「でもそうしたら、もうニュース番組じゃなくなる」「数字がいいからといって許されると思うなよと昔は言われとった」。
 自分たちは報道機関であるという気風が、東海テレビにはまだ色濃いという。
 「他局と比べても、いちばん報道の意識が残っているでしょうね。他局がニュースの枠をワイド化し、グルメや街ぶらをどんどんやって情報番組化する中、そこまで振り切れない。良くも悪くもオールドタイプ。だから視聴率が振るわないという面もあって。そこが大いなる矛盾なんですけども」
 長時間化した夕方ニュースの枠を埋めるため、営業絡みのグルメ情報や低予算の街歩きロケをやる。そういうコーナーの方が視聴率を稼ぐので、さらにバラエティー化が進み、報道色が薄まる。そんな悪循環を、この連載の中で毎日放送の関係者も語っていた。
 地方局ゆえの事情もある。夕方ニュースは系列キー局(東海テレビはフジテレビ系)の全国ニュースから続けて放送されるため、前番組の好不調にも左右されるのだ。
 さらに言えば、数字も単に上がればよいというものでもない。最近は世帯視聴率以上に個人視聴率が重視され、夕方ニュースはマーケティングで言うところの「F2層(35~49歳の女性)」、それも子育て中の人を特に意識している。スポンサーの商品購買などにつながるからだろう。しかし、現実には視聴者の高齢化が進み、出演者や話題もそれに合わせていかざるを得ない。『さよならテレビ』に描かれる、中堅からベテランへのキャスター交代の場面は、そんな実情を物語っている。

映画版は「東海テレビドキュメンタリー劇場」の第12弾として公開された

 複合的な要因が絡み合う視聴率競争の中、報道部の面々は「伝えるべきもの」と「見てもらえるもの」の間で悩む。答えはなく、結果も出ない。もがく姿をカメラは容赦なく映し出す。
 こうして「数字に支配される時代」となったことでテレビは方向性を誤ったとプロデューサーの阿武野勝彦は著書で批判している。
 〈視聴率とは、はじめは営業の指標にすぎなかったのだが、いつのまにか組織全体の共通の価値観へと押し上げられていった〉
 〈一度、「数字」の支配が貫徹すると、組織は雪崩を打ったように「数字」の妄信へと傾斜していく。グラフや表を経典のごとく持ち寄っては拝み、地域を、こともあろうにマーケットなどと言い始める〉
 私の取材には、こんな表現で語った。
 「数字に縛られすぎると、野球で言えば当てに行くバッティングになり、小さくまとまってしまうんです。自由度が減り、人の真似やどこかで見た話ばかりになる。そうすると最後はジリ貧になるという危機感が私にはずっとある。視聴率はそりゃあ1位になる方がいいに決まっている。だけど、われわれは順位のためにやっているわけじゃない。それよりも『東海テレビのニュースなら見るよ』という熱心なファンを持つことの方がよほど重要じゃないですか」