ちくまプリマー新書

自分という、手はかかるが、面白い生き物

『自分をたいせつにする本』(服部みれい)書評

「羊文学」のギターボーカルの塩塚モエカさんが、服部みれいさんのこの本をていねいに書評してくださいました。「体と心をたいせつにしてあげることで、世界の見方を一八〇度変えることだってできる」と!

 自分という生き物は、不思議だ。体も心も自分のものの筈なのに、全然思い通りにならない。考えはしっかりしていても、体と心が邪魔して物事がうまく進まない。みれいさんの本に出会うまで、私はずっとそう感じてきた。もし、あなたも同じように思っているなら、(そしてそのことで少しでも自分を責めてしまっているなら、特に)この本を手に取ってみてほしい。

 この本には、題名の通り、自分をたいせつにすることについて書かれている。ここでの「自分をたいせつにする」というのは、自己中心的になることではない。むしろのその逆で、「ひとりひとりが、自分をたいせつにして、ほんらいの自分に戻ることが、自然やまわりの人をたいせつにすることにつながる」とみれいさんは言う。だが、その「自分」の本質は、案外見失われやすい。だからこの本は、本当の意味での自分とは何か、というところから、丁寧に教えてくれる。

 私達は周りの環境から、良くも悪くも沢山の影響を受ける。親、先生、友達、SNS、テレビ……。他人の価値観が、日々目の前に現れては、知らないうちに身につき、その価値観での正しさを追いかけるのに必死になってしまう。そうして無意識のうちに様々な価値観の「服」を重ね着して「自分風」が完成する。しかし、みれいさん曰く「自分風」は本当の自分ではない。それはあくまで外側の意見を中心に構築した「『こんな感じかな?』という自分」なのだ。特に、まだ自分や世界のことがはっきりしない子供時代に、外部から価値観を植え付けられると、自分の心の声を聞く作業がすっ飛ばされて大人になってしまう。私にも思い当たる節がある。

 私はミュージシャンだが、その道に進む決断をするのは簡単ではなかった。父はサラリーマンで、母は専業主婦。両親の考えや、通っていた進学校の環境も影響し、大企業に就職して、安定した暮らしを送ることが何よりも「良いこと」だと、ぼんやりと信じて育った。一方で、それは本当に自分の幸せなのか? という疑問も抱いていた。音楽が好きだったが、両親に「仕事にするのは厳しい」と言われ、正直、自分でも自分を信用しきれなかった私は、いつもどこか塞ぎ込んでいて、小さなことで動揺しては、周りとの衝突が絶えなかった。自分の思っていることとやっていることの間にズレがあり、何をやっても満足できなかった。本当の自分が何なのかはわからないが、少なくとも今の自分ではない、といつも思っていた。私は「自分風」の違和感に気づきながら、長い間そこを抜け出せずにいたのだ。そんな中で出会ったみれいさんの言葉は、その違和感を言語化し、頭の中で整理するのを助けてくれた。今、私は本の中で紹介された知恵を実践し、本来の自分へ戻る道を少しずつ進んでいる。そして、そんな毎日にとてもワクワクしている。

 みれいさん自身も、初めから自分をたいせつにできていたわけではないそうだ。でも一度ボロボロになって、自分の体と心に優しくすることに気づいた。そのなかで実践してきた知恵が、この本には詰まっている。本当に沢山の、そして具体的な知恵が紹介されているが、私のお気に入りは、「自己卑下する言葉をやめること」。自分をやたらと責める意識を、まず言葉から絶ってみる。不完全なことや自信がないことは悪いことではなく、成長を楽しむ方向に考え方をシフトしていく。できないこと万歳! あとは、できるようになっていくだけ。

 自分とは、とても不思議な生き物だ。今、自分のことを厄介だ、手に負えないと思っている人も、もう一度自分の声を聞き、言葉を変え、体と心をたいせつにしてあげることで、世界の見方を一八〇度変えることだってできる。今、大きな変化の時代を、健やかに、軽やかに生き抜くために。私はみれいさんの言葉から、もっともっと、学んでいきたい。

 

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