ちくまプリマー新書

日本がダメでも自分がよければそれでいい…のか? データが明らかにする若者世代の低い「自己効力感」
『「日本」ってどんな国?』より本文を一部公開

好評発売中の本田由紀『「日本」ってどんな国?』(ちくまプリマー新書)は、「家族」「ジェンダー」「学校」「友人」「経済・仕事」「政治・社会運動」といった日本社会のさまざまな面を世界各国とデータで徹底比較する一冊。「あたりまえ」だと思い込んでいたことが、実は「変」だったことに気付かされます。この国のグダグダな現状に慣れ切ってしまった私たちに「幸せ?」と問いかける第七章より、本文の一部を公開します!

「自分」にとっての「日本」

 では、無意味さ、自己否定、不安、ストレス、暗い将来像の中で生きている日本の若者たちは、本当に「国なんて関係ねえ!」と思っているのでしょうか? 実はこれについては、そうでもなさそうなことを示すデータがあります。NHK放送文化研究所がほぼ10年おきに実施している「日本人の意識」調査で、国についてどう思うかを、調査時点別・生年別に示したものが図7-4です。この図の2つのグラフそれぞれの下の目盛りは調査対象が生まれた年で、右ほど高齢、左ほど若年であることを意味します。書き込まれている複数の折れ線は、調査が行われた時点を表しています。


 (画像クリックで拡大)

 2つのグラフは、「日本に生まれてよかった」「日本のために役立ちたい」という、いわゆる「愛国心」とか「ナショナリズム」とか呼ばれる意識を肯定する割合を示しているのですが、どちらのグラフからも、かつては若い世代ほど年配層よりも「愛国心」は低かった(折れ線が右上がりになっている)ものが、最近になるほど総じて若年層も年配層と同様に「愛国心」の水準が高くなっている(折れ線が平らになっている)ことが読み取れるのです。「関係ねえ!」どころか、むしろ「日本、好き♡」の傾向のほうが強まっているような……?

 ただし、この図7-4は、調査の回答分布を単純に示したものですから、この結果が「世代」によるもの(特定の時期に生まれた人たちの特徴)なのか、「時代」によるもの(調査が行われた時期の特徴)なのか、あるいはそれ以外の要因によるものなのかはわかりません。この点に踏み込んだ統計的分析を行った社会学者の松谷満さんの研究(※「若者―「右傾化」の内実はどのようなものか」(第10章)田辺俊介編『日本人は右傾化したのか』勁草書房、2019年)によれば、もっとも若年である「平成世代」(この研究では1990年以降に生まれた人たち、と定義しています)では、特に「愛国心」が高まっているわけではない、という結果が見いだされています。若い世代が愛国的になっているというよりも、近年(具体的には2010年代後半)に、世の中の雰囲気として「愛国的」な意識、さらにはいわゆる「排外的」(近隣国に対する差別的な意識)も高まっているということのほうが現実を言い当てているということを、松谷さんの研究結果は意味しているのです。

 他方で、松谷さんの分析によれば、「平成世代」に固有な特徴は、「愛国心」の強さではなく、「権威主義」の強さにあるということも明らかになっています。「権威主義」とは、要するに「エライ人には従っとけ」という意識です。より具体的に質問項目の言葉遣いに即して言えば、「権威ある人々には敬意を払う」「伝統や慣習に疑問を持たない」「指導者や専門家に頼った方がいい」といった項目を統計的に合成したものを、この分析では「権威主義」と呼んでいます。

 日本という国の仕組みによって打ちのめされている若者は、日本という国を特に好きなわけではありません。でも、打ちのめされているからこそ、強そうで安定した存在には従順に従う傾向があるようです。それは結局、この国のだめだめ・ぐだぐだな現状をもたらしたり、少なくとも解決できてはいないくせに、なぜか威張っている大人たちに、強烈なNOを突きつけることができない現状をもたらしていることになります。そうした「もじれた」(もつれる・こじれる・もじもじするなどを合わせた私の造語です)状況こそが、実は若い人たちの自己意識の暗さの中核にあるのかもしれません。

……だめだめ・ぐだぐだな現状をどのように脱していくべきなのか?――続きは『「日本」ってどんな国?​』でお読みください。


 

・「女は理系に弱い」などステレオタイプが強固
・男性の家事・育児・介護時間は30カ国で最少
・通う高校で人生が左右されてしまう構造
etc.
私たちの「ふつう」は世界では「変」だった。

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