パンケーキフレームワークで変化をとらえる 

第5回 歴史は繰り返す

技術革新、そしてそれに伴う変化はもちろん、常に起こり続けています。それは後戻りすることは、絶対にありません。チャット文化も「古臭い」と思われる日が必ず来るのです。

 パンケーキフレームワークで変化をとらえる、今回は技術革新によってもたらされる時代の変化は常に同じような経過をたどり、それがこのフレームワークが一般法則として示そうとしていることの例を示しましょう。

 例によって、初めにフレームワークの要点を示します。

 

 

 このフレームワークは、旧→新という技術革新やその他の環境変化に伴う「2つの世界」の移り変わりのパターンを示したもので、特に図の「1」の領域(旧来できたことができなくなる)と「3」の領域(旧来できなかったことができるようになる)への着目がポイントです。

 今回はこのような変化は一度で終わることはなく、一つの目的に対して続々と生まれてくる技術革新に伴って何度も同じことが繰り返され、一世代で「新」だったものがあっという間に「旧」になり、それを置き換えた「次世代の新」がまた「次世代の旧」に変わっていくという変化をたどることを、例を用いて示します。このような構図があるからこそ、このフレームワークを用いると「歴史から先が読めるようになる」というわけです。

 例を示しましょう。仕事におけるコミュニケーション手段の変遷です。まだ電話もなかった時代には、対面で口頭で話すことができる同じ職場の人以外の外部の関係者との伝達手段は、手書きの文書が主流だったことでしょう(この時代は筆者も経験したことはありませんが)。

 


  

 そして電話が登場しました。当然遠隔地の人とリアルタイムに話ができるわけですから、仕事の効率は圧倒的に上がったことでしょう。そして’90-2000年代には電話に代わるメインの伝達手段として電子メールが普及しました。電子メールの便利さは、相手の状況(会議中だとか)にかかわらず非同期でのコミュニケーションが可能になったことや記録が残ること、あるいは添付ファイルを送れるといった多くのメリットがありました。さらに近年ではLINEやFacebookメッセンジャー、あるいはSlack等のメッセージングアプリやチャットといったツールが主流になりつつあります。

 もちろん、各々の「移行」において、旧来の手段が必ず新しい手段に置き換えられるわけではなく、一定の割合では必ず残っていきます(いまだに「手書きの文書」が公式のビジネスの現場で用いられることだってないわけではないし、電話はいまだに特に旧世代の人にとっては重要な内容を伝えるためにはベストの手段と考えられています)。

 これらの伝達手段の移行を見てみると、各々の新旧の関係にある法則が見られることがわかります。それを表に示します。

 


  

 まず、すべての移行においては通信やデジタルのテクノロジーが変革のイネーブラー(実現手段)になっていることから、当然のことながら必ず新しい手段は旧来のものよりも効率的になっていきます。これと合わせて見逃せないのがこの変化とセットで起こっている、コミュニケーションのあり方の違いです。

 旧来のやり方では一回の単位(文書で表現している量とかメールやメッセージの文字数といった点で)が大きいのに対して、新しい手段では概ね相対的に小さくなっていきます。さらにこれと表裏一体の関係でやり取りの頻度が飛躍的に上がっていきます。例えば、文書であればせいぜい一日一回だったものが電話では例えば午前午後の2回、電子メールでは一日数回、そしてメッセージングやチャットでは一日数十回のやり取りというのもめずらしくはありません。

 また新しいやり方というのは常に「インフォーマルで失礼」であるとみなされるというのも共通していて、新しい手段の普及時には必ず「○○にて失礼します」といったような枕詞が利用されたり、それがなくても心の中では皆そう思ってコミュニケーション手段を選択していたりします。

 このように、旧来の手段というのは、特に組織で上の方にいる旧世代の人に深く根付いているために、常にフレームワークでいう「1」の世界が意識されることになり、それは旧世代にとっては「失礼なこと」と映り、新世代にとっては「わずらわしくて古臭い常識」と映るのです。

 つまり、いまはチャットを主流として、メール文化を古臭いと思っている旧世代もいつか次のコミュニケーション世代に移ったときに、同じことをさらに新しい世代から思われる可能性が高いということなのです。