丸屋九兵衛

第43回:木下ふみこ都議会議員の悪名伝説! そして三権分立と議員の仕事について考える巻

オタク的カテゴリーから学術的分野までカバーする才人にして怪人・丸屋九兵衛が、日々流れる世界中のニュースから注目トピックを取り上げ、独自の切り口で解説。人種問題から宗教、音楽、歴史学までジャンルの境界をなぎ倒し、多様化する世界を読むための補助線を引くのだ。

 木下ふみこ(富美子)は、東京都板橋区でいま最もノトーリアスな人物だろう。

 わたしは、東京都議会の議員名簿にある「木下ふみこ後援会事務所」から1km圏内に住み(先日、見に行ってきました)、木下が事故を起こした高島平を「日本のノイバウテン」として幾度も語ってきた板橋区民。木下のインファミー(悪名)がビンビンと伝わってくるのも当然だが、区内に限った話ではなく、少なくとも東京都ローカルでは「最も憎まれる都議会議員」の地位を獲得しているように見える。
 では全国区ではどうか?
 東国原英夫(64)が都民ファーストの会の国政進出デンデンに関して「木下富美子都議の製造者責任を果たすのが先」と書いていた……が、我が親戚や友人たちに聞き込みをした限りでは、木下のノトライアティ(悪名)は全国に轟いているわけではないようだ。そのあたりは、やはり地方自治体議員の限界だろうか。

 とはいえ、このコラムは板橋区民専用でも東京都限定でもない。
 そこで全国の読者向けに、木下ふみこの活躍をまとめてみた。

●免許停止処分、数年で5回
●その無免許のまま板橋区高島平で運転
●自動車事故を起こす(後続車のクラクションを聞いてからバックして衝突……故意か?)
●相手がケガしているのに現場から逃走を図る
●都民ファーストの会から「党員資格停止」、その後で「除名処分」に
●都議会の当選証書付与式を無断欠席
●自動車運転死傷処罰法違反や道路交通法違反(報告義務違反)で書類送検に
●振り返ってみると、選挙中のビラ配りや看板やFacebook広告で公職選挙法にも違反していたかも
●そして「事務所開き」写真の中に、同じ選挙区の対立候補の父親(元板橋区議会議員。しかし故人!)からのメッセージを「天国からの応援」として掲載していたことも判明……霊言シリーズか?
●さらに振り返ると、2019年の予算特別委員会では自民党の小松大祐都議を実力行使で押し倒す(なかなかパワフル)

 

●(ここから現在に戻って)都議会から全会一致で辞職勧告決議を二回出されるも、「これからの議員活動でご奉仕する」と拒否
●都議会議長室での見解説明を求める「召喚状」が出されるも、体調不良を理由に無視
●一度も出席しないまま、都議会定例会の閉会を迎える

 この傑物ぶり。
 彼女の元同僚、おじま紘平(都民ファーストの若造。バカ田出身)が木下について書いたツイートを読むと、ちょっとサイコの香りもする。そういえば、犯罪心理学者ロバート・D・ヘアは「サイコが多い職業」の一つに政治家を挙げていたっけ。
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 そんな木下ふみこを木下ふみこたらしめているのは、その鉄面皮である。
 悪事がバレると、即座に体調を崩し(たことにし)て引きこもる……という技は、映画『マチェーテ』でマクラフリン議員(ロバート・デ・ニーロ)も披露していたが、「何かあるたびに体調が悪化して外出できなくなる折れやすい心」を演じ続けるには、極太鋼のような強い精神が必要である。それだけで感服を禁じ得ない。

 しかし。
 木下ふみこがこれだけ叩かれているのも、その引きこもりのせいである。
 当選直後に悪行が発覚して程なく勝手に謹慎、公の場に姿を現さずに3ヶ月が経過。そうこうするうちに、この10月13日には都議会定例会が閉会してしまった。つまり木下は仕事をせずに、議員報酬と政務活動費で総額約395万円を得たというから、極悪タダメシ喰らい以外の何物でもない。アッラーは不労所得を許さないが、我々とて議員に対してはそうだ。

 だが同時に、わたしはこう問いたくもなるのだ。
 木下ふみこを責める人々は、議員という存在、議会というものをどう考えているのか、と。
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 どちらの側にもアレな人はいる。

 ネトウヨの皆さんのお家芸である血の巡りの悪そうなツイートに「#日本の底辺by丸屋九兵衛」とハッシュド・タグを付けて収集しているわたしだが、時として、「こちらサイド」と見える人たちの中にも同種の逸材を発見して困惑することがあるのだ。

 それはたとえば、自身が長らくボディシェイミングされていたという過去があるにもかかわらず、他人の体型に関して「細すぎるモデルや女優」「非現実的な女性の体型が美しいという間違った考え」と言ってのけたプラスサイズモデルであり。

 あるいは、自己認識はリベラルなのだろうが他人に自由を許さない御仁もいる。
 きっかけになったのは、わたしのこんなツイート。

わたしはハードコアな大麻解禁論者というわけでもないのだが、法律を変えたい人たちを迷惑がる感覚がわからない。
マンションの住民集会から衆議院&参議院まで、さまざまなレベルの立法機関(?)が存在するのはそのためではないのか。

 それに対して、唐突に町山智浩先輩の名前を持ち出して絡んできた御仁。

 そこからの経緯は引用ツイートの引用ツイートを追ってもらうとして。
 先の我がツイートは立法機関の存在理由をリマインドするものであり、たまたま対象がマリファナなだけだ。なのにガンジャを話の主軸に据えたのは、この人物自身。つまり最初に自分が論旨をすり替えたにもかかわらず、後でこう言い出した。

丸屋さんともあろうものが
こんな幼稚な論のすり替えをするとはガッカリです

現在、大麻が禁止されている日本で
わざわざそれを解禁することの是非の話をしていたのですよ

 アホらしくなったわたしが放置したら、「丸屋氏から何の返答も無い」とゴネる思考回路。「返答があって然るべし」と本気で信じているなら、弱気に見えてメガロなのではないか、とも思う。

 だが、とにかく、anyway.
 わたしの信条は「人は自由であるべきである。その人の自由が、他の人の妨げにならない限り」というものだが、それすらここでは肝心ではない。
 ポイントは「法律というのは時代に応じて変わっていくものであり、立法機関はそのためにある」ということだ。
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 木下ふみこであれ、もともと「残酷」で有名だった小坪慎也であれ、議員である。大臣でもなく官僚でもなく役所の人でもなく。
 議員は、例えばコロナワクチン接種の手続きをやってくれるわけではない。我々の生存に必要なさまざまな実務には関わらない、現場のことは何一つやってくれない。
 実務や現場が機能するための法律を制定するのが彼らの仕事。だから英語では、議員のことをlawmakerという。

 我々が頼りにしている脆弱なシステム、この「民主主義」というもの。少なくとも日本において、それは三権分立の原理に基づいている。「三権」とは立法・行政・司法であり、そのうちの立法を担うのが議会。
 世の中には、新しい法律を作ることで対処せねばならないことがたくさんある。極論すれば、そのためにいるのが議員だ。

 国民が議員の不祥事に敏感なのはもちろん理解できる(が、そろそろ人格ではなく実績と実力をこそ問うべきではないかと思っている)。しかし、その同じ国民たちが、議員の仕事・立法そのものを半ばタブー視している気がしてならないのだ。
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 昨今のわたしがうんざりしている言葉の一つに「ミスリード」がある。

私達は別姓反対派などではなく、単なる現状の #夫婦同姓維持派 です。あなた方こそ、現行制度を破壊したい同姓反対派なんです。先に存在するルールを守っている私達に、無理矢理新しいルールを持ち出して来て「反対するの?」と、ネガティブに誘導する卑怯なミスリードは超絶カッコ悪いですよ。

 はいはい。
 このツイートそのものも、添えられたマンガもミスリード全開である(選択的夫婦別姓派を「新参者」として描く、等)。トランプがFOXやNewsmaxや One America News以外のメディアに「フェイクニュース!」呼ばわりしていたのと同様、ミスリードしている側が相手を「ミスリード」呼ばわりしている例が多すぎて、わたしは気が滅入るのだ。

 言っておくが、私はとても保守的だ。
「保守を英語で言うとメンテナンス」と信じる(そしてresistをレイシストと読む)自称「保守」の皆さんより、わたしのほうがずっと保守的で、伝統的だと思う。その「伝統」すら傳統と書く、「漢字は画数が多ければ多いほど良い、つまり劃數が多ければ多いほど良い」という主義。日本古来の傳統に従って舊暦(旧暦)で生き、日本が誇る古典『とりかへばや物語』や『男色大鑑』に慣れ親しみ(実は『偐紫田舎源氏』も好き)、日本の基盤である稲作に感謝して暇さえあれば稲荷神社に詣でる。

 そんなわたしだが、「先に存在するルールを守っている」だけでは、世界が良くならないことを知っている。
 徴兵制、ヒロポン、トランス脂肪酸。やめたり変えたり規制したりで、世の中が良くなったケースはたくさんあるから。
 そして選挙。守旧に徹すれば、今でも日本は「参政権は男性のみ」の国だったはずだ。
 さらに言えば、かつてのように「どこでも喫煙可能」な社会が続き、マイ・喘息・ピープルもマイ・アトピー・ピープルも、さらに生きづらいことになっていただろう。

 そういう状況を変えるのに必要なのがlawmakerだ。
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 猪苗代湖のボート事件を記憶している人も多かろう。

 2020年9月6日のことだ。無謀運転で暴走するボートに巻き込まれて8歳の少年が死亡、彼の母親も両脚の膝から下を切断するほどの重傷を負う。当初は捜査が難航するも、9月14日には土木会社社長・佐藤剛(つよし)容疑者が逮捕される。そして佐藤が、事件の後も素知らぬ風情で1時間にわたってクルージングを満喫、さらに同乗者に対して口止めをしていたことが判明した。
 普通に考えれば、この極悪人は相当に重い刑を申し渡されて然るべきところ。
 しかし! ここ日本では、船舶に「ひき逃げ」という罪が設定されていないのだ。

 この事件、場所が道路で、乗り物が自動車ならば。事件の後も1時間にわたってクルージングをしていたのだから、まず間違いなくひき逃げと見なされるだろう。
 ひき逃げの場合、量刑は最大15年の懲役だ。

 だが、いかに暴走しても爆走してもボートはボート、自動車とは違う。人を殺しても業務上過失致死傷罪にしかならない。その刑は「5年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金」である。今回のケースでは――こんなに悪質なのに――懲役2年半程度と思われる、とか。

 こういう醜い浮世の鬼に、もっと長い刑務所生活を課して根性を叩き直そう。
 そのように法律を改めるのも、議員にしかできない仕事である。

 あるいは、議員の仕事をしない議員から議員資格を剥奪するのも。