確認ライダーが行く

第8回 テレビ欄の確認

今日は、どんな確認をしましょうか? ミリさんが日々疑問に思っていること、わかっているけど毎回、確認せずにはいられない ものごとをつづったミリさん節全開の微笑エッセイ。「あるある」と思って、楽しんでください。

テレビ欄の確認

 その昔、我が家のチャンネル権は、父だけのものだった。
 プロ野球、高校野球、将棋や囲碁、相撲、競馬中継、マラソン中継。
 父が選ぶ番組は、どれも小学生の姉妹には興味がないものばかり。
 でも、テレビは見たい。小さな妹と並んで、仕方なく将棋対局なんかも見ていた。
 対局中の唯一の楽しみは、時計係の女性が秒読みを開始するところだった。とても冷たい声に聞こえた。
「ゆっくり数えてあげればいいのに!」
 将棋盤の前で難しい顔をしている棋士たちが気の毒でならなかった。
 そのくせ、彼らが苦しんでいる姿も見たいのである。
「いつもより早口で数えたらおもしろいのにな」
 意地悪な心も育てながら、人は大人になっていく。

 ジュディ・オングの「魅せられて」が大ヒットしたのは1979年。
 当時、わたしは10歳だった。彼女が鳥の翼のように衣装の袖を広げて歌うところも話題になった。
 小学校では、男子たちが教室にぶらさがっているカーテンを使い、ジュディ・オングのものまねで笑いをとっていた。
 ジュディ・オングが見たい! あのヒラヒラの翼が見たい!
 父が早く寝た夜には歌番組も見られたが、彼が寝る部屋は居間であり、テレビは居間にしかなかった。暗がりの中、父の布団のそばで息を潜めて見たものだった。
 いつか、自由にテレビが見られるようになりたいなぁ。
 あの頃のわたしは、テレビほどおもしろいものを知らなかった。

 大人になり、実家を出たとたん、テレビ欄はわたしの前にひざまずいた。
「さぁ、どんな番組でもご覧ください」
 さすがに一日中テレビの前というわけにもいかないし、見るのは夜の数時間だが、それでも、わたしは毎日、新聞のテレビ欄を隅々まで確認する。どれを見てもよいという幸せを、子供時代の〈わたし〉のために噛み締めてあげたいのだった。
 ちなみに、この原稿を書いている今日は、2016年3月14日の午後。テレビ欄に目を通したばかりだ。通すというより、「読んだ」に近い。
 ゴールデンタイムに、大好きな「しくじり先生」がある。落ち目になってしまった芸能人が先生となり、同じ過ちを繰り返さないよう教えを説く、というステキな番組だ。外出の予定があるので録画しておいた。録画した番組も、チャンネル権のひとつだ。いつだって再生できる。
 すでに放送時間が過ぎている番組までチェックするのがクセになっている。であるからして、「徹子の部屋」ゲストも確認済み。午前中の「算数刑事」という番組は最終回だったようだ。一回くらい見ればよかった。
 夕方のニュースの内容も見比べた。特に食べ物の特集。日テレは、激ウマ喫茶店グルメ。テレ朝は、日米激うまグルメ。TBSは、600個完売の下町パン。録画まではしないが、見るとしたら下町パンだなぁと、心の中で選んでいる。
 子供のころ、欲しくて欲しくってたまらなかったチャンネル権。
 しかし、手に入れたからといって、安心はできない。いつ失うかわからない儚い権利だ。
 病院に入院すれば、消灯時間もあろう。老人ホームのリビングで、この権利をめぐっての争奪戦に巻き込まれる可能性だってある。なんだって見られる今に感謝し、これからもテレビ欄に向き合うつもりである。

 

 


 

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