ちくま新書

グローバル資本主義の萌芽

入試に使える世界史わしづかみ

9月のちくま新書『銀の世界史』の冒頭を公開いたします。

 現代はIT(情報技術 Information Technology)革命の時代といわれる。米ソ冷戦時代が終わった頃だろうか、インターネットが世界的に広まったのは。たくさんの情報が、瞬時に国境を越えて人びとのもとに届く。自分からもアクセスできる。情報の国際化は「地球市民」をつくり出していると言っていい。
 だが、国際化とは国を越えて同じ情報をキャッチし、ネット上で、あれこれ議論するだけの話ではない。興味深いのは、情報の国際化が進んだことで、アメリカ合衆国の価値観がグローバル・スタンダード(国際標準)と見なされるようになったことだ。
 すべてが、どうのこうのというわけではないが、凄まじいのは、コンプリートなまでに市場経済を追い求める姿勢である。社会主義の消滅(=冷戦の終結)が後押しとなって、その原理は地球を包み込み、日本社会でも徹底されつつある。儲けるためには、昔ながらの人間・血縁関係を失うことも厭わない。
 儲けることが悪いとは思わない。が、企業も個人も、天下御免の自由競争の下で、忍者のように人知れず株を買いあさり、それをもって闇討ちのように企業買収を行なう。まるで、仁義なき戦いだ。激しく火花を散らすのも当然である。
 こうした株の売り買いや資金調達といった経済劇場でも、電子情報技術が活躍している。いまさらながらではあるが、兜町や船場で見られた、あの競り売りのような活気ある姿はもうない。IT革命が経済シーンを変えたのである。
 情報の伝達・通信手段の発達は、IT革命を世界規模で実現し、それは「世界同時革命」とよんでいいほどである。そのシンボルこそ、インターネットや携帯電話(スマートフォン)であろう。
 情報技術の革命状況がグローバリゼーションを密にした。世界が一体化に向かったのは、いつ、なにがきっかけだったのだろう。それは、コロンブスの大航海。「西インドの発見」(一四九二年)のときか。これがきっかけとなって、地球をひとつの単位とする世界史が出来上がった。
 地球上の各地域が互いにつながり合うことで、グローバルな関係は築かれ、世界はひとつにまとめ上げられた。地域をひきつけ合う世界史の磁力、引力とはなんなのか。パワーの源は。本書の関心は、この点にある。
 世界の一体化は、大航海時代を皮きりに進んだが、その後どうなったのか。本書をつくる際のヒントは、大学の「世界史」入試問題にあった。それを次に紹介しながら本編に入りたいと思う。

■東京大学入試問題「世界史」(二〇〇四年度)
【設問】
 1985年のプラザ合意後、金融の国際化が著しく進んでいる。1997年のアジア金融危機が示しているように、現在では一国の経済は世界経済の変動と直結している。世界経済の一体化は、16、17世紀に大量の銀が世界市場に供給されたことに始まる。 19世紀には植民地のネットワークを通じて、銀行制度が世界化し、近代国際金融制度が始まった。19世紀に西欧諸国が金本位制に移行するなかで、東アジアでは依然として銀貨が国際交易の基軸通貨であった。この東アジア国際交易体制は、1930年代に、中国が最終的に銀貨の流通を禁止するまで続いた。
 以上を念頭におきながら16~18世紀における銀を中心とする世界経済の一体化の流れを概観せよ。解答は、解答欄(イ)を使用して、16行(480字)以内とし、下記の8つの語句を必ず1回は用いたうえで、その語句の部分に下線を付せ。なお(  )内の語句は記入しなくてもよい。


グーツヘルシャフト(農場領主制)  一条鞭法  価格革命  綿織物
日本銀  東インド会社  ポトシ  アントウェルペン(アントワープ)

 右の問題文にあるとおり、世界を一体化の方向へと引っぱったのは、銀である。一六、一七世紀に大量の銀が世界市場になだれ込んだこと。銀パワーが世界史を動かし、「世界経済の一体化」を導いたというのが、テーマになっている。
 銀の流れを追うことで、西ヨーロッパを中心とする近代工業社会の姿が見えてくるということであろう。世界史のダイナミズムを感じさせる、大きな話である。
 たしかに、銀は世界経済をつなぐ役割を担った。だが近代世界の覇権は、植民地に〈銀山を持たない国〉イギリスが手にすることになる。逆に新世界に〈銀山を持つ国〉スペインは凋落の一途をたどった。そこにはどういった事情があったのか。
 銀をストーリーテラーにしよう。銀に語ってもらおう。コロンブスの時代から産業革命の世紀までをわしづかみにする世界史を。途中、必要とあらば、二四歳の若さで英首相に就いたピットや徳川家康、李鴻章、伊藤博文にもご登場を願おう。
 銀が世界経済の一体化を促しながらも、それをイギリスがどういうかたちで引き継ぐのか。そんなところにバイアスをかけて、世界史の旅に踏み出そう。

 

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