確認ライダーが行く

第6回 海外旅行の確認

海外旅行の確認

 真夜中。
 仕事が一段落したとき、ときどきふらっと海外旅行に出るのだった。
 さて、どこに行こうか。
 今夜はフィンランドにするか。
 パソコンを立ち上げ、「ヘルシンキ地図」と検索。グーグルマップのストリートビューを選択すれば、瞬く間にヘルシンキ駅前に立っている。机の上の『どこでもドア』だ。
 駅を仰ぎ見る。
 美しい駅だ。高い時計台があり、正面口の出入り口には、大きな人(4人)が、ひとりひとつずつ地球儀みたいなのを手にしている像がある。
 「博物館みた〜い」
 観光客になりきって、しかし、真夜中である、口には出さず、心の中でつぶやく。
 ヘルシンキは過去に2度、旅したことがある。駅構内に、セルフサービスの広々としたカフェがあったので、できればそこでお茶したいが、ストリートビューは車が通る道しか進めないので、一休みするのはあきらめる。
 とにかく、一旦、ホテルに荷物を置きに行くとしよう。前回、泊まったホテルまでゆっくりと進む。
 快晴だ。ストリートビューは空も見上げられる。
 季節は夏の初めだろうか、道行く人の中には半袖の人もちらほら。右手には美術館。交差点を、えーっと、どっちに曲がるんだっけ? 
 と、ここで本物のガイドブックを本棚から出してくる。地図のページを開き、場所の確認だ。海外旅行中、という設定でとことん進むのが楽しい。
 手元の地図をあっちこっちと回し見ながら、パソコン上の路地を曲がれば、ようやく到着、「ソコス・ホテルヘルシンキ」。チェックインを済ませ(たつもり)、早速、港のマーケットまで進んでいく。
 そうそう、この道を進むんだよな、あ、待てよ、ちょっとアカデミア書店の前も通って、その後、マリメッコのショップに寄るとしよう。そのまままーっすぐ進めば港だし。
 港へ出て、しばらく海をながめる。
 過去に旅した場所を細々とチェックしながら、深夜のひとり旅。
 チェコ・プラハの街も、飛んで行く場所のひとつだ。
 おととしのクリスマスシーズンに、実際に友人たちと訪れているのだが、「人生でいちばん歩いた」くらい街中を歩いたので、見覚えのある景色が盛りだくさん。
 カレル橋を渡る手前の道路、プラハ駅近くの古本屋街、老舗のビアホール。 
 行ったことのある場所を、もう一度見たくなるのはどうしてなんだろう?
 旅先だけではなく、たとえば、通っていた高校の付近などにも、ストリートビューで出かけて行くことがある。実家に帰ったときに、自転車に乗っていけば、いくらでも本物の道を通れるのだが、卒業以来30年、近づいたことはない。ちらっと確認したいだけ。
 ああ、この道、覚えている。
 授業中、ここの塀を友達と飛び越えて、喫茶店に行ったのだった。覚えている、そうだ、路地を曲がれば、お好み焼屋があったんだよな。ちょっと進んでみよう。
 だからなんなのだ?
 と思いつつも、記憶の断片が自分のからだに残っていることに安堵する。
 「懐かしい」の感情は心地いい。
 明日のことばかり、先のことばかり考えているときほど、懐かしいは、温かいのである。

イラスト 「真夜中にモン・サン・ミシェルに近づいていくことも」