確認ライダーが行く

15 宝塚の確認

 宝塚ファンである友人、知人たちは、めちゃくちゃ忙しそうだ。公演チケットを入手するために日々奮闘しているようだし、お茶会と呼ばれる集いもあるらしい。ご贔屓の引退公演ともなれば、寝る間も惜しんで(お金は惜しまず)、観劇している様子。
 などと憶測で語るわたしは、いわゆる「ヅカファン」ではないわけだけれど、宝塚の舞台が大好き! ヅカファンの友人、知人を頼りに、年に2、3回、東京、日比谷の劇場で観劇している。
 宝塚観劇は、誰かと一緒のこともあるが、基本、単独で行くのが好み。すぐには感想を述べたくないというか、言葉にしたくないというか。ひとり余韻に浸りながら劇場を後にし、カフェに入ってしばし放心する。そこまでが、わたしの宝塚観劇に組み込まれているのだった。
 それに、劇場にいる間も、いろいろとすることがあるので忙しい。
東京宝塚劇場の2階には、セルフサービスのカフェコーナーがある。まずは、開演前にそちらで腹ごしらえ……をしている人々を確認せねばならない。
 カフェに設置されている丸テーブルに椅子はなく、立食スタイル。売店で買ったものを、食べたり飲んだりできるようになっているのだが、持参したものを食しているお客さんもちらほら。それが意外に、コンビニのおにぎりや菓子パンだったりして気負いがないのだ。
 夢の世界に入る前の、超現実的な腹ごしらえ。日常に宝塚が溶け込んでいるからこその選択。わたしのように、「せっかく電車で日比谷まで出るのだし」と、グルメ本を開き、「劇場近くにピザトースト発祥の店がある!」などと立ち寄ってから行く「お出かけ感」など、邪道であろう。
 観劇前はパパパッとコンビニで買えるもので十分。
 そんなこなれた風景を確認するたびに、わたしは、いつもシビれてしまうのだ。
 おそらくそれは、なにかに心底ハマったことがない人(わたし)特有の憧れ・・・・・・。
 熱狂的なファンになる、という夢が叶わないまま四十数年生きてきた。そういう性分なのだとあきらめてはいるのだけれど、そのぶん、年々、ファン体質の人への憧れが増している。一生に一度くらい、誰かの、あるいはなにか(球団やサッカーチーム含む)の熱心なファンになって燃え上がってみたいものだと思う。
 という話を仕事先の女性にしたところ、
「わたしもファンになる感覚がずっとなかったんですが、突然、ジャニーズにハマったんですよ! 雷に打たれたみたいに」
 ということは、わたしにもいつか雷が……淡い期待は湧いたのだが、とにかく、今のところは「好き」の先にある扉を押し開けられぬままの宝塚である。

 さて、宝塚のカフェコーナーといえば、劇場でしか食べられない公演限定スイーツもチェックポイント。
 公演の演目が変わるたびに、カフェのスイーツも一新する。そして、なぜかそのスイーツのネーミングが「おもしろ」なのだ。
 たとえば、一番最近行った『エリザベート―愛と死の輪舞(ロンド)』のデザートに付けられた名は、「最後のダンゴは俺のもの♪」。完全なるダジャレ。されど、白玉の上にチョコレートプリンや、あんずジャムがのっかっていて、結構、手が込んだものだ(食べてないけど)。
 ネットで検索してみれば、過去の公演限定スイーツがたくさん紹介されていた。
『白夜の誓い―グスタフⅢ世、誇り高き王の戦い―』の公演限定スイーツは、「白夜のチーズかい?」。チーズケーキ系のスイーツのようだが、誓い、と、チーズかい? が結びつくまで多少の時間がかかってしまった。『1789―バスティーユの恋人たち―』の公演スイーツに関しては、なんだかすごいことになっていた。その名も、「1789―イイナパクパク―」。イイナパクパク?
 しかし、すべてが計算済みなのだ。一幕目が終り、気分が高揚している幕間に食べるものといえば、このくらい浮かれたスイーツでないとバランスが取れぬ。今後も公演限定スイーツから目が離せそうにない。

 でもって、宝塚観劇において、わたしがもっとも惹き付けられ、楽しみにしていること。
 それは、恋に落ちる瞬間、である。
 美しいトップスターと美しい娘役。ふたりが見つめ合い、今、まさに恋に落ちました、とわかりやすく教えられるシーンに、毎度、毎度、胸が熱くなるのだった。
 ああ、知っている、この気持ち。
 むろん、わたしの恋が宝塚のようにキラめいていたはずはないのだけれども、我が人生においては眩い思い出。あの、腕がこそばゆくなるような感覚を忘れていないことに安堵する。
 恋に落ちるシーンには華がある。
 それが豪華絢爛である宝塚ならば、なお華々しい。美しいから泣けてくる。美しすぎるせいでこぼれた涙の成分を、科学者たちは調べたことはあるのだろうか? とてつもない免疫力が宿っているのではないかと思うんだけど、いかがなものか。