世界マヌケ反乱の手引書刊行記念鼎談

マヌケ世界革命は始まっている【前編】

『世界マヌケ反乱の手引書――ふざけた場所の作り方』刊行記念トーク

●『世界マヌケ反乱の手引書』の使い方

松本 ここからは本の話をします。今はとにかく、いろんな国が窮屈な感じになっている。アメリカの大統領選もトランプになるみたいだし、危ないですよね。そんな時代だからこそ、マヌケな奴らが勝手なことをし始めるしかないなと思って。

柄谷 ただ、ヒラリーが大統領になっても困るけどね。

松本 そうですよね。今、韓国でもデモを毎日やってて、大変なことになってる。韓国のパク・クネ大統領が謎の人物に操られていて、実は傀儡政権だった。

 昔みたいに革命とかを起こして、全てをひっくり返して悪い奴らを倒したほうがいいのかもしれないけど、それってすごく大変だし、革命が失敗したらまた超こわい世の中になる。仮に成功しても変な革命の起こし方をしたら、もっと悪い世の中になるかもしれない。だったら自分たちで革命後の世界を勝手にイメージして、少しでもいいからどんどん先につくっちゃったほうがいい。それはたくさんできると思うんですよ。そういうのをひとつでも多くやっていって、いろいろな人たちが関わっていけたらいいなと思って。

 原発事故以降、海外に行きまくってマヌケな奴らが勝手なことをやり始めるという活動をしていたらだんだんつながってきたので、これは1回本にまとめなきゃなと思って、世界各地でいろんなことをやっている人たちがいて、こんな感じでつながってきてますよ、と。その中で一番大事なのは個人でやってるお店やスペースなど、オープンな場所なんですよね。そういうのがあると人と人はつながりやすくなるから、それを大事にしていきたいなという気持ちがすごくあります。だからこの本では店の開き方や面倒なことの対処法、あるいは「これだけ突き抜けた感じで店をやりまくったら、1年間でつぶれますよ」とかいうことを詳しく紹介しています。さらには電話帳みたいに各地で場所作りをやっている人たちの情報をリストアップしてあるから、これをたどって海外とかあちこちに行きまくってもらえれば、謎の文化圏に一瞬で触れることができる。そうしたら死ぬほど海外の友達ができるから、なかなか便利なんじゃないかなという感じで本を書いたんです。

●「素人の乱」のレノン&マッカートニー?

井野 この本は今の松本さんみたいなノリで、一見すると勢いだけで書いているように見えるんですよ。口調もちょっとテキ屋の口上みたいで「何だバカ野郎!」という感じで、読んでて本当にゲラゲラ笑っちゃうんだけど、意外とスーッとは読めない。いろんなヒント、情報が凝縮されているから、けっこう立ち止まりますね。ちゃんと読むとけっこういろんなことが書いてあるから、読み飛ばさないでほしい。

 2007年に外山恒一さんが都知事選に出た時、日本で唯一まともな人たちとして「素人の乱」を紹介していた。その時、名前だけは覚えてたんですよ。ちょうどその頃、ベルクは大家であるルミネから立ち退きを要求されてたんですけど、それを心配した山下陽光(ひかる)さんから「素人の乱の山下です」ってメールが来て、「ああ、あれだ」と思って。もちろんリサイクルショップや古着屋であることは知ってたんですけど、「素人の乱」って何なのかなと。山下陽光さんは子どもが生まれてから高円寺から離れ、今は長崎で「途中でやめる」というリメイクファッションブランドをやっている。「素人の乱」というのは2005年に、松本哉さんと山下陽光さんの2人で始めたんですよね?

松本 ええ。あと何人か友達がいたんですけど。

井野 これは僕にとっては、レノン&マッカートニー以来の衝撃で。さっき、それを言ったら柄谷さんに「どっちがレノンで、どっちがマッカートニーなの?」って聞かれたんですけど、そういうことではなくて(笑)。これは直感的にしか言えないんですけど、本来合わない者同士が一緒に店を始めたわけですよね。松本さんと山下さんは全然タイプが違う。これは外山さんも言ってたことなんですけど、本来出会わない者同士が出会って始まったというのがビートルズと重なるなと思って。

 

●資本主義を揚棄する運動は……

柄谷 今で言えばピコ太郎ですかね(笑)。ペンとアップルの出会い(笑)。僕が今回の本を書評したのは、感心した部分が多かったからです。でも感心したのは、具体的な内容ではない。内容的には、昔から、いろんなタイプのアナーキストがやってきたことです。アナーキストというと、テロとか爆弾闘争というイメージがあるけど、別にそうではない。また、今なら、アナーキズムはロックとかパンクのようなアート系や音楽系と結びつけられるけど、たんにそういうものではない。それは、国家に依拠することなく社会を変えようとする運動です。しかし、アナーキズム(無政府主義)というと、コミュニズム(共産主義)と同様に、やはり固定観念が強くある。

 だから、僕は15年ほど前に運動をやろうとしたとき、その言葉を避け、「アソシエーション」と言った。そして、新しいアソシエーショニスト・ムーヴメント(New Associationist Movement)、略してNAMという活動を立ち上げたのです。その時点で、『世界マヌケ反乱の手引書』に書かれているようなことは言っていました。地域通貨の普及にも取り組んでいたので、そういう企て自体が新しいとは思わない。では何が新しいかと言うと、「マヌケ」が新しいんです(笑)。今まで反体制運動、反資本主義的運動、資本主義的でない経済をつくりだす試みはなされてきたけれど、これらは全体的に暗くて気が滅入る。それに比べるとマヌケは陽気なんです。

松本 そうですね。暗いマヌケって何か変ですから(笑)。

柄谷 僕は、そこが新しいと思ったんです。「デモで社会が変わる」というのと同じぐらい新しい名言があります。

松本 新しい名言ですね。「名言」って、柄谷さん、自分で言ってますけど(笑)。

柄谷 それは、こういうことなんですよ。「資本主義を揚棄する運動は、陽気でなければならない」(笑)。揚棄っていうのは、てっとり早くいえば、廃棄すること。

松本 なるほど。それは揚棄っていう言葉がわからないと、笑えないですよね(笑)。

井野 レべル高いですね(笑)。

柄谷 その思想がこの本にあると思うんです。

●自由に生きるための強力な武器としての国際語マヌケ

柄谷 バカという言葉は、地域的、国際的に問題があると思います。本の中では「バカセンター」とか、バカという言葉も頻繁に出てきますが、やはりマヌケでなければいけない。たとえば、関西では、バカはひどい悪口になる。マヌケに当たるのはアホですね。だから、俺はいかにアホかということを誇示する傾向がある。ただ、マヌケという言葉はあまり使わないので、無難でしょうね。

井野 柄谷さんは関西出身ですよね。

柄谷 ええ。英語でも、バカに対応する言葉がたくさんあります。たとえばfoolという言葉があるけど、あれも昔はなかなか偉いものだったんですよ。シェイクスピアの戯曲『リア王』にも、最後まで王に付き従う道化がいます。あれがフールです。フールということで、ずけずけと何をいってもよかった。実は、すごく知恵があり洞察力がある。このように、フールは由緒あるものです。松本さんが言ってるマヌケは、それに近い。

松本 なるほど(笑)。たしかに、けっこういい加減に考えたり言ったりしてますからね。

柄谷 韓国では、マヌケのことをパボ(바보)って言いますよね。この前、韓国の人に「パボにポジティヴな意味はありますか?」と聞いたら「ある」と言っていた。東京ではバカとマヌケは同じような感覚で使われているけど、大阪では、バカとは言いませんから。

松本 なるほど。じゃあマヌケにしたほうがいいですね。

柄谷 マヌケで統一しよう。バカ追放(笑)。今度この本の翻訳が中国で出るそうですが、その時には訳語に注意しないと。

井野 えっ、中国で出るの?

松本 ええ。たぶん中国語、韓国語にはなると思います。

柄谷 さっきの「NO LIMIT 東京自治区」の「マヌケ社区」イベントに来ていた中国人が、僕が『朝日新聞』に書いた書評を使いたいと言ってきた。中国では当局に出版許可を求めなければならないし、検閲がすごく厳しい。おまけに「反乱」っていう言葉が出てくるから、当局も「これは普通の本じゃない」ということで、何か言ってくるに違いない。しかし、僕の書評があると違う。中国では僕の本は7冊出ている。これは向こうで検索すれば、すぐにわかるでしょう。あと、朝日新聞社がどういう新聞社かということもわかる。それならいいのかな、と当局が思うかもしれない。とにかく翻訳する場合は、訳語にも注意しなきゃいけない。翻訳する人が、日本語を本当に理解しているかどうかわからない。日本でも、東京の人は大阪の人の言葉をわかってないでしょう。

松本 最近ちょっと面白いのは、「マヌケ」っていう単語が国際語になりつつあることで。

井野 えっ、この本で?

松本 僕は死ぬほど海外に行きまくってるじゃないですか。いろいろな国や地域に行って、こういう感じの人たちが集まるカフェ、飲み屋、ライヴハウス、アートスペースに行きまくって飲みまくるのが僕の任務だと思ってる。だから新しいところに行って飲みまくって友達をいっぱいつくるというのをひたすら繰り返してるんですけど、自分が何かやるときに一番大事にしてる状態を伝えたい時にマヌケマヌケって言ってたら、向こうもだんだん「ああ、そうか」っていう感じになって。

柄谷 そういう可能性はあるね。

松本 それで、やたらいろんな人から「マヌケってこういうことでしょ」って言われるようになった。

柄谷 もう「マヌケ」は「マヌケ」のままで翻訳するな(笑)。

松本 じゃあ、マヌケで行きますか(笑)。

井野 言葉の響きがいいですもんね。

松本 ただ、マヌケってたしか、アフリカのどこかの国では「大量の核兵器」っていう意味らしくて(笑)。これはやばいなと思いました。

柄谷 その国ではやめましょう(笑)。国によっては、その言葉だとまずい場合もあるんですよ。わいせつな意味だったりすることもあるし。だから気を付けなきゃいけないんだけどね。

松本 マヌケをキーワードにした交流っていうのはすごくよくて。たとえば社会運動とかになると、すごく真面目な人ってけっこういるじゃないですか。全然融通が利かなくて、面白くも何ともない。それでやたらと命令してきて、「逆にこの人、味方じゃねーよな」と思っちゃうような人とか。そういう人とはたとえ考え方は同じかもしれないけど、生き方は違うなと思って。マヌケ感が出てくると、だいたい似通ってくる。マヌケっていう言葉をプラスしていくと、本当の仲間になれそうな人が見えてくるんじゃないかと思います。

 みんな頑張らなきゃいけないということだとすごいストイックになって、しまいには疲れてしまう。もっといい加減でもいいから、やりたいことを全部やればいい。もうちょっと油断しながらやっていこうという感じのスタンスもあると思うんです。僕が今ここでやろうとしてるのは、もうちょっと自由に生きるための強力な武器としてのマヌケです。

柄谷 『ベルク通信』に「ノラカバ」っていう漫画が載ってるんですけど、ものすごくマヌケで(笑)。僕、それが印象に残ってる。

井野 そんなことを言われたら、漫画の作者が喜びますよ。

                          (後編に続く)

 

関連書籍