冷やかな頭と熱した舌

第12回 
さわや書店が本当に売っているもの―「さわベス2017」を通じて

全国から注目を集める岩手県盛岡市のこだわり書店、さわや書店で数々のベストセラーを店頭から作り出す書店員、松本大介氏が日々の書店業務を通して見えてくる“今”を読み解く!
2016年最後は、さわや書店の年末恒例<さわベス>について。

◆さわや書店ホームページ開設されました! http://books-sawaya.co.jp/
◆さわや書店フェザン店ツイッター 
https://twitter.com/SAWAYA_fezan

 

年末恒例、社内の戦い

  今年も同僚との戦いの一日がやって来た――。
 11月24日、東北地方は休配(本の入荷がない日)だったが、僕はいつもどおり6時半に家をでた。盛岡では例年、11月に一度降雪が観測されることが多い。しかし、その雪は積もることなく消えてなくなることがほとんどだ。ドライバーたちは、その雪を合図にスタッドレスタイヤへの交換を急ぐ。
 上旬に空から落ちてきた六花は地面に触れると同時に散ってしまったが、気温はいつになく低い日が続いていた。まだ薄暗い街並みをマフラーに顔を埋めるようにして歩く。夜の底に溜まった冷気を蹴るように足を運びながら、今夜の戦いはどんなものになるだろうかと思い巡らす。手の内の駒をどのタイミングで繰り出せば効果的か、知らぬ駒を出された時に対処をどうすればよいか。職場の近くに着いてから出社までの間に読了するつもりで鞄のなかに入れてきた一冊は、果たして持ち駒になり得るかどうか。西南へと向かう僕の左手から太陽が昇る。

 レジスタッフの「いらっしゃいませ」の声を聞きながら、スリップを片手に売り場をチェックして歩く。昨日の売上良好書をいくつ追加発注するか判断しながら、眼は別の何かを探して動いていた。忘れている駒はなかっただろうかと。
 結局、出社する前に読み終えた本はイマイチで、今夜の戦いにおける駒としては力量不足だった。文芸書のエンド台を見ていると、左手後方から「ご無沙汰です」と声が掛かった。目を向けると文藝春秋のK田さんが微笑んでいた。K田さんは「オール読物」の編集をやっていて、岩手県の誇る直木賞作家・高橋克彦さんの担当である。盛岡に来た時には、いつもお店に顔を出してくれるのだった。

他店では味わえないような圧倒的な熱量を感じるフェザン店店頭

  「どうもお世話になってます」と返して、いつもどおり話は自然と昨今の文芸事情についてのやり取りとなる。「何か面白い本ありました?」との問いに、僕は今夜の勝負の駒をすすめるとK田さんはすでに読んでらっしゃった。一方、森絵都さんの『みかづき』(集英社)は、まだ読めていないとのことだったので魅力を語りに語ってご購入いただく。かわりにオール読物新人賞作家・香月夕花さんの『水に立つ人』(文藝春秋)をすすめていただいた。話はあちこちへと移り、北村薫さんの短編集『遠い唇』(KADOKAWA)のなかでどの話が一番好みだったかを話し合い、意見が一致した。僕が、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)を読んでいないと言うと「もったいない。めちゃくちゃ良いから読んで」とのお言葉をいただいた。残念。もはや今夜の戦いに間に合わないことを悔しく思う。

さわや書店のオリジナル文芸賞

 そして迎えた戦いの時。この「さわべス」(※注)の1位を決める戦いのために早々に仕事を終え、さわや書店本店へとむかう。「さわベス」とは、さわや書店の有志が決めるオリジナルの文芸賞のことだ。ちなみに選考会は自腹である。第一回から昨年まで戦いの舞台となった居酒屋「座・座」の店長交代に伴い、今年は飲む前に素面で大概を決めてしまおうということを大会本部より通達されていた。

歴代の「さわベス」がポップやパネルで売場を盛り上げる

  かつての「さわベス」の醍醐味は、酒と議論にあった。いかに酒を飲みながら正気を保ち、思い入れ強く自分が推す作品を語るか。「さわベス」の初期の頃は酒ばかりがすすみ、前夜の結果を皆うっすらとしか覚えていない年や、悪乗りしすぎて正気に戻った翌日に入れ替えるということも多々あった。居酒屋の店員と共謀して自分はウーロン茶、酒を注ぎまくって全員酔いつぶれた後にだまし討ちのように「ギャルのパンティをおくれーっ!」と叫ぶウーロン作戦だって、これまでは認められた。しかし、昨年までとは違う展開に戦略を練っていたというわけである。

 僕は悩んだ挙句、数日前に「根回し+正面突破」を選択した。フェザン店の田口幹人店長、文庫Xを考案した長江貴士くん、そして僕の3人で書籍編の1位の意見のすり合わせをしていたのである。世間でいうところの談合というやつだが、これを政治に置き換えると根回しといい、罪に問われることはない。そんな僕の好きな言葉は「我田引水」と「一暴十寒」である。昨年の1位、内館牧子さんの『終わった人』(講談社)も、ほぼ僕の声の大きさにより決定され(もちろん多少の根回しはした)、フェザン店だけで520冊を売り上げた。最低でもその売り上げに肉薄する作品を選ばなければ、前年の売上がこれから重くのしかかるのだ。ただただ、自分の好きないい作品を選べばよいというだけではなくて、売る(=たくさんの人に読んでもらう)ことも考えて選ぶ。

例年とは違う〈さわベス2017〉

 今年は「さわベス2017」の発表の日を、話題の「文庫X開き(「文庫X」の書名を公表するイベント)に併せて、これまで以上に認知度を上げることが目標だ。そのためには「ストーリー作り」と「仕込み」が必要なのである。「ストーリー作り」に関しては、フェザン店で本を売る時の根幹に関わる部分なのでおいそれとは明かせないが、「仕込み」とは次のようなことだ。
 まず「さわベス」受賞した際の独自帯の作成の出版社への打診、受賞作品の必要在庫数を確保するための協力、そして受賞した著者の講演会の日程調整などである。これらを12月9日の開催日に間に合わせなければならない。青写真通りに事が運んだとして、最後の日程調整のことを考えると年に一度の戦いの日=「さわベス」の決定日を待っていては間に合わないと判断した僕は、「ええい、ままよ」とフライングで内定(=出版社への受賞告知)を出した。戦いの1週間ほど前、11月中旬のことである。つまり、「さわベス」の戦い当日にはすでに仕込みを終えていたのである。あとは背水の陣を敷き、死ぬ気で1位を取りに行くという不退転の覚悟だけを持って望んでいたのだった。

 

(※)「さわベス」は、毎年12月に前年12月~当年11月に出版された書籍を「単行本」と「文庫」に分け、ノンジャンルのベスト10を決めるさわや書店のオリジナルの文芸賞。これまでは宴席で決められるために大抵は酒が強く、声のでかい参加者の意見が通っていたが……。
これまでの「さわベス」結果一覧は→
http://books-sawaya.co.jp/sawabes/

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