冷やかな頭と熱した舌

第14回 
本屋の複合化

全国から注目を集める岩手県盛岡市のこだわり書店、さわや書店で数々のベストセラーを店頭から作り出す書店員、松本大介氏が日々の書店業務を通して見えてくる“今”を読み解く!
 

◆さわや書店ホームページ開設されました! http://books-sawaya.co.jp/
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本だけ売っていては駄目?

「書店の複合化が進んでいる」と業界では言われている。
 本だけ売っていては駄目だという意見が大勢をしめる。事実、1996年をピークに書籍の推定販売額は右肩下がりだ。本は利益率がとても低い。1000円の本が売れたとして、本屋には200円ほどの粗利が入る。だがそこから家賃、光熱費、人件費などの諸経費を引いていくと、せいぜい数十円ほどの純利益が残ればいいほうだ。
 いま「本屋」という言葉を聞いて、頭に浮かぶイメージはどんなものだろうか。浮かんだイメージのなかの本屋には、きっと「本以外」の物があるのではないか。ここ十数年ほどの本屋の現場は、本以外の新しい商材を探す「試行錯誤」の繰り返しであったといってよい。今回はその歴史を振り返ってみたい。

いい奴なんだけど暴れる〈文房具〉

 まずは文房具。
 文房具は、僕が業界に入った2000年初頭にはすでに多くの店で販売されていた。地域の学生や勤め人の来店動機にもなり、資格書を筆頭に本との相性もよいため現在も設置店は多いが、ネックなのはほとんどが買い切り(返品できない)商品であるという点だ。

書店の文房具売り場

 ほとんどの商品が返品できる本とは、仕入れ条件が正反対である。書店業界においては「取扱注意」という認識が、いまだ根強いのではないだろうか。買い切りのリスクを負う割には、利益がさほど取れるわけでもない。取引先にどこを選ぶかにもよるだろうが、純利益は1000円の売値に対して百数十円ほどだろう。積極的に仕入れをしすぎると経営を圧迫しかねない、痛し痒しの商材である。
 いい奴なんだけど酒を飲むと暴れる、みたいな。台風に「ハリケーン・カトリーナ」とか友達みたいな名前をつけているのに、被害が甚大みたいな。

マッチョだけどすぐ風邪をひく〈レンタルCD〉

 2000年代も半ばとなって売り場面積は拡大しているのに、売り上げの減少に歯止めが利かない状況が続くとCDおよびDVDの販売やレンタル、続いては古本の買い取りおよび販売を手掛ける店が目立ってきた。いわゆる初期複合型書店だ。

書店のCD、DVDのレンタルおよび販売コーナー

  これらレンタルCDおよびDVDは、利益の出し方が少々特殊だ。一枚当たりの「仕入れ値」を「レンタル代」で割った「回転率」を越えると、それ以降の「レンタル代」がそのまま利益となる。ヒット作が多ければよいが、回転率を超えない作品も一定数存在するだろう。最後はそれらを中古品として販売する。でかい箱に見合うだけの商材をぶっこむも、レンタル業界の値下げ合戦が勃発し、有効な施策とまではならなかった。筋骨隆々でたくましい奴なんだけど、すぐ風邪をひくみたいな。ごついけど燃費が悪いアメ車みたいな。

さわや書店フェザン店のレジ回りで販売されるタオルハンカチ

  その後、取次(卸)の担当者からレジ回り品を強化して「ついで買い」を誘発する商品(ワッフル!)を提案されたこともあった。売り上げとしては微々たるもので、当時の手詰まり感が偲ばれる。
 いつも真面目に勉強している奴なんだけど、テストの点数は伸びないみたいな。広大な米国の全50州の中で、滋賀県ほどの大きさしかない面積最小のロードアイランド州みたいな。
 書店でコミックなどの景品が当たる「くじ引き」などもあった。席替えでたまたま隣になった奴みたいな。米留学におけるホームステイ先みたいな。

より利幅の大きい商材へ

 2010年代に入るとカフェの併設がしきりと叫ばれるようになった。昔では考えられないことだが、現在では店内の本を、併設されたカフェで読めるという形態の書店も珍しくない。ルームシェアしている同居人みたいな。お湯で薄めたアメリカンコーヒーみたいな。
 それらの時代を経て、いまのトレンドは雑貨を扱うことである。「購買客を店に」という発想以前に集客や居心地のいい空間づくりに重点が置かれ、本の売り場を狭めながら、本を読む人が少なくなったからしょうがないとの言い訳が口をついて出る。これら売り場の変遷をみていくと、おおまかに言って利幅がより大きい商材へ手を出していっていると言えよう。じつにアメリカ的発想だ。

フェザン店ではリーディンググラスに杖まで販売している


 

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