確認ライダーが行く

第18回 無印良品の確認

 たとえば、待ち合わせの時間まであと15分。お茶するには、ちと足りないし、コンビニに滞在するには、ちと長い。そんなとき、無印良品の煉瓦色の看板が見えると、ほっとする。
 無印良品、入店。
 全体的にスモーキーな色使い、民族楽器を使ったような音楽、客の歩く速度や店員の所作。からだの中に、一瞬にして無印良品的なものが入り込んでくる。
 思えば、あの頃から変わっていない気がする。
 わたしの高校時代だから30年以上前の話になるのだが、地元の西武百貨店の中に無印良品ができた。地味なフロアの、さらに隅のひっそりした場所だった。まだよく名前も知られておらず、しかし、一歩足を踏み入れると不思議な空気にからめとられた。なんなのだろう、この店は?
 当時の無印良品の商品で記憶に残っているのはノートである。
「あの店、ノート安いで」
 学校でじわじわ話題になっていた。無地の茶色い表紙。厚紙のようなそっけなさ。貧乏印。最初は、みな、ふざけてそう呼んでいたほどである。
 全然、かわいくないノートだけど、節約になるから買う。そんな位置づけだったのに、シールを貼ってオリジナルのノートを作る子が出てきた。次第に愛用者が増え、貧乏印とは呼ばなくなっていった。

 家に帰る前、ちょっと運動でもしていくか、と無印良品の店内を歩き回ることもある。もはや、軽いジム代わりにもなっている。
 さまざまな商品を、ひとつひとつ眺めながらのウォーキング。
 これ知ってる、買ったことある、これも知ってる、買ったことある。
過去に買ったものを、なんとはなしに確認しているわたしがいる。
 ポリプロピレンの収納ケースは、これまで何個買ってきたかわからない。引っ越しのたび、押し入れのサイズに合わせて買い替えてきた。今もいくつか使っているけれど、我が人生において収納してきたさまざまな物が、思い出とともに、無印良品のポリプロピレン収納ケースごと心の中に積まれている。そんな気すらする。
 あとはなんだろう、パルプボードのボックスも何個も買って組み立ててきたっけ。カーテンも様々なサイズのを購入した。スリッパ、姿見、クッション、布団に枕。手放したものも数多くあるが、この店がなかったら、わたしはどこで代用のものを買っていたのだろうと思う。
 これ知ってる、買ったことある、これも知ってる、買ったことある。
あれこれ確認しつつ、その中に新商品を見つけると、
「ふむふむ、がんばって開発しておるのだな」
 長年の顧客ゆえの妙な上から目線に。
 顧客どころか、少しの間だったけれど、昔、無印良品でアルバイトしたこともあった。
 出勤し、売り場に出る前は、必ず発声練習があった。「いらっしゃいませ」とか、「ありがとうございました」とか。
 その中に、「ウイスキー」というのがあった。
「ウイスキー」
「キー」のときに笑った口元になるから、笑顔の練習だったのかもしれない。今も「ウイスキー」が、あるのかないのかはわからないけれど、ごくたまに、あれ? 今日、わたし、まだ笑ってない? という夕暮れ時。仕事場のパソコンの前で、「ウイスキー」と、口パクでやってみることがある。
 無印良品、これからも、なんやかんやと利用していくことだろう。ゆくゆくは、こざっぱりしたデザインの介護用品もラインナップされたりするのだろうか。わたしはそれらのものを利用しつつ、散歩がてら、ゆっくりと店に向かうのかもしれなかった。