●われら多摩育ち
大竹 根詰めたら馬鹿ですね。だって下るんですから(笑)。高野さんもご出身が八王子市なんですよね。僕が今住んでいるのは、八王子市の隣の多摩市です。昔の三多摩(西多摩郡、南多摩郡、北多摩郡)のうち、南多摩郡に当たるところです。高野さんが住んでおられたのは多摩の支流のほうですよね。
高野 北野のほうです。
大竹 京王八王子に行く電車と、高尾山口に行く電車が分かれるところ。
高野 そうですね。だから大竹さんのほうが偉いんですよ。本流の上流ですから上流階級なんです(笑)。僕は支流の支流ですから。
大竹 湯殿川で高野少年がいかに遊んだかということは、小説『またやぶけの夕焼け』(集英社、2012年)に書かれています。僕はそれを読ませていただいて、湯殿川の周辺を訪ねました。僕は三鷹で育ち、高野少年はこの川の近くで育った。やっぱり、似た感じがあるんだなと思って。生き物がいるし、探検しようと思えばいくらでもできる。その川が浅川に合流し、日野市を流れる程久保川と合流する。その直後、多摩川に合流して府中で太い流れになるんですけど。ここですね。
高野 素敵ですね。
大竹 疾走していくところがいいですよね。そこで多摩川と合流する。これが府中四谷橋、向こうに見えるのが関戸橋です。こちらが聖蹟桜ヶ丘で、こっちが高幡不動です。ご存知ない方にはまったくピンと来ない、ただの川の映像だと思いますけど。これぐらい空が広い風景が広がってくると、河原に降りてビールを飲んだりするのも大変美味しくなる。多摩川の中流階級に入るところですね。
高野 このへんは広いですよね。
大竹 ええ、このへんになるとすごく広くなって。
高野 おそらく、何か言わなきゃまずいと思ったんでしょうね(笑)。こんなところでビール飲んでる人がいるから、ほっといたらいかんと。
大竹 僕たち多摩育ちからすると、こういうのってそんなに縁遠い光景じゃないですよね。
高野 なんか、原風景に近いものがありますよね。
大竹 先ほど「東京は奥深い」とおっしゃいましたけど、本当にここは東京なのかと。そういうところをのんびり歩いてきて文章にしたら、筑摩書房という大変奇特な出版社が本にしてくれたという(笑)。それで本日があるという感じですけど。