世の中ラボ

【第83回】観光と基地の間に隠れた、もうひとつの沖縄

ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2017年3月号より転載

 本土から見た沖縄は二つに引き裂かれている。
 ひとつは「南の楽園」としての顔だ。沖縄が一躍注目を集める存在となったのは、二〇〇〇年代以降だろう。〇〇年には「琉球王国のグスク及び関連遺産群」がユネスコの世界文化遺産に登録され、夏には九州・沖縄サミットが開かれ、翌〇一年にはNHKの連続テレビ小説「ちゅらさん」が放映されて大人気となった。『るるぶ』や『まっぷる』などの旅行ガイドの沖縄の巻は他の巻より厚い。通常の観光情報に加え、マリンレジャー情報が豊富なためだ。いまや沖縄は一大観光地。いわば「明るい沖縄」である。
 沖縄のもうひとつの側面は「基地の島」としての顔だ。こっち方面で沖縄が注目を集めるようになったのも二〇〇〇年代だ。普天間飛行場の辺野古への移設問題、オスプレイの配備問題、高江でのヘリパッド建設問題。本土における報道はけっして十分とはいえないが、それでも米軍基地をめぐって沖縄で何が起きているかは、沖縄タイムスや琉球新報などの現地メディアやネットを通じて情報はそれなりに入ってくる。日本で唯一の地上戦・沖縄戦の舞台だったことも忘れられない。いわば「暗い沖縄」である。
 むろんどんな地域にも明るい側面と暗い側面はあり、両者が渾然一体となっているのが地域の実態ではあろう。ただ、沖縄の場合は「明るい沖縄」と「暗い沖縄」のギャップが激しすぎるのだ。基地問題には一切ふれない旅行ガイド。南の楽園イメージとは一切無縁な基地問題の本。もっとも、以上はあくまで「本土から見た沖縄」である。「二つの沖縄」の間に隠れた、リアルな沖縄の姿はどうなのだろうか。新しめの本の中から気になる数冊を読んでみた。

進む都市化と環境破壊
 仲村清司『消えゆく沖縄――移住生活20年の光と影』は沖縄移住者が変わりゆく島の姿を書きとめた生々しいレポートだ。
 仲村はそもそもは沖縄ブームの仕掛け人のひとりだった。両親は沖縄出身、本人は大阪生まれ。沖縄に移り住んだのは一九九六年。沖縄の文化を紹介する本を何冊も執筆したが、沖縄はこの一五年ほどで消費し尽くされ、すっかり変わってしまった。
 超高層タワーマンション、ビルの隙間を縫って走るモノレール。海岸線は次々埋め立てられ、すさまじい勢いで陸地化が進んでいる。〈観光客が訪れる沖縄本島の海水浴場も実のところ、そのほとんどが他所から砂を運び入れた人工ビーチ〉であり、〈復帰後から三十七年間で姿を消した自然海岸は東京ドーム約五〇〇個分〉。辺野古の海の埋め立てにばかり目が行くが、見方を変えれば沖縄の環境はとっくに破壊が進んでいたのである。
 環境破壊だけではない。人口一〇万人あたりのスターバックスの店舗数は東京に次いで二位。マクドナルドなどのハンバーガーショップやケンタッキーフライドチキンの店舗数は全国一位。〈沖縄はこの十数年で全国有数のファストフード王国になった上に、コンビニや大型スーパーの先進県に躍り出ていたのである〉。
 都市化の波と進む乱開発。なんというか、日本列島改造論の頃(七〇年代)かバブル時代(八〇年後半)の本土のようだ。
 大型工事や海岸の埋め立てが進む理由のひとつは、沖縄のいびつな産業構造だ。沖縄県における建設業が全産業に占める割合は一割弱で、全国平均の約二倍超。一九七二年に復帰してから、補助金行政で生き延びてきた沖縄。巨額な補助金(助成金)や振興策が流れる先の大半は公共事業だ。〈コンクリートに消えてしまう公共工事はいまやこの島を支える成長産業にのし上がり、雇用先もいわずもがなで土建建設業に集中し、離農者や漁業をやめる人の多くが同業界に流れている〉のが現状だ。
 町が変われば、当然ながら古い文化は失われる。〈おそらくこの先も「こんなはずではなかった」という思いはついてまわるだろう〉と仲村は嘆息する。〈永住を決め込んで沖縄に移り住んだつもりではあったが、余生をこの地で暮らそうという思いは、いま僕のなかでずいぶんあやしくなっている〉。
 では、当の行政はこの状況をどう見ているのだろう。
 高良倉吉編著『沖縄問題――リアリズムの視点から』は沖縄の行政マン数人が経済復興と基地問題をつづった異色の一冊。編著者の高良は琉球史研究の第一人者だが、仲井眞弘多知事時代(二〇一三~一四年)に副知事を務めた経験を持つ。
「沖縄問題」とは多様な安全保障観が混在する基地問題についての言説空間を指すが、現場の地方行政マンたちは理念で動くわけにも行かず、常にクールで現実的な対応を迫られてきた。
 戦後、壊滅的な被害を受けた状況から出発しなければならなかった沖縄。復帰前も復帰後も〈人びとは自立経済を模索し、かつ自治権の拡大を求めつづけていた〉のだと彼らは力説する。復帰後の沖縄が目指していたのは、なんと(といっちゃうが)他の地域と同様の工業化だった。だが、地理的なハンディ(本土から遠く離れた辺境の地であること)と、沖縄固有の事情(県土の一〇%をしめる米軍基地の存在)が経済復興の前に立ちはだかる。
 産業の育成がままならない状況の中で、沖縄の経済は公共投資に頼らざるを得なくなった。国の主導による第一次~第四次「沖縄振興開発計画」(一九七二年~二〇一一年)を見ると、なるほど仲村が嘆いた理由がよくわかる。そこに並んでいるのは道路、橋、空港、ダム、港湾などの整備事業、公園、大学、ホール、県庁舎などの建設事業、いずれも大型公共事業ばかり。
 インフラの整備はもちろん重要だし、基地の返還は県民の総意だろう。だが次のような部分を読むと、やっぱ役人は役人だと思わざるを得ない。〈問題は基地の返還に止まらない。実際に返還が実現しても、その跡地をどのように利用・活用すべきかという、新たな課題が浮上するのである〉。それでも〈沖縄本島の中南部都市圏に存在する米軍基地は、そのロケーションからして土地の開発ポテンシャルが高く、都市的利用に適したものといえる〉。
 真っ先に頭に浮かぶのは土地利用。行政の仕事は土地活用? これもまた七〇年代~九〇年代の本土の発想に近くないですか。

背景に横たわる貧困と階級社会
 こうしてみると、現地で問題になっているのは「明るい沖縄/暗い沖縄」ではなく、「新しい沖縄/古い沖縄」のせめぎ合いなのかもしれない。その意味でも、大久保潤+篠原章『沖縄の不都合な真実』はちょっと衝撃的な本だった。基地問題はズバリ経済の問題だと彼らはいいきる。〈基地負担の見返りに投入されている振興資金は、保革を問わず沖縄では大歓迎されます。振興資金は、基盤の脆弱な沖縄経済を支える屋台骨だと考えられているからです〉。
〈「カネを落とせば、沖縄はおさまる」。これが日本政府の沖縄政策の基本です。/そして、沖縄の行政も多かれ少なかれこの政府の沖縄政策を利用して税金に依存してきました〉。〈復帰以来、米軍基地の代償として一〇兆円を超える財政資金が投入されましたが、経済実態はインフラ整備を除いて改善されていません〉。
 このように行政を批判しつつ、彼らが基地以上に重要な問題だと指摘するのは、県民の貧困問題と格差問題だ。
 実際、沖縄はネガティブな指標に事欠かない。
 一人当たりの県民所得は、全国平均の二八八万円に対して二〇三万円で全国最低(最高は東京都で四三一万円)。約五〇%の家庭が年収三〇〇万円未満。失業率は全国最高、離婚率全国一、父子家庭比率・母子家庭比率全国一、待機児童数比率全国一、DV発生比率全国一。高校進学率・大学進学率は全国最低。最低賃金も国民年金納付率も全国最下位。反対に、非正規雇用率、国税滞納発生割合、男性肥満率などは全国最高(以上二〇一四年現在)。
 なぜこうした問題が放置されているのか。
 背景には、沖縄特有の「階級社会」があるという。
〈本来、こうした社会的弱者の立場で活動をすることを期待されているのが、「左翼」や「革新勢力」です。ところが、沖縄では彼らは機能していません〉。〈なぜなら、革新勢力は支配階級である公務員・教員の労組に支持されているからです〉。
 産業が育っていない沖縄では、相対的に高給取りの公務員と教員が「富裕層」「支配階級」だという。明治の琉球処分(沖縄県の設置)以前の琉球王朝時代から沖縄では「士族=公務員」が優遇される歴史があった。さらにはここに琉球大学OBのネットワークが加わって「支配階級」が形成される。〈琉大出身者が県庁、政財界、マスコミ、学識者の中枢を占め意思決定に関わっています。これほど一つの大学出身者が社会を支配し、尊敬を集めている県はほかにありません〉。すなわち〈沖縄には本来の左翼がいないので、県内の差別問題には鈍感なのです〉。
「日本」対「沖縄」という構図の中では沖縄は反権力でも、県内の権力に対する批判勢力が存在しない。本土からは一枚岩に見える「オール沖縄」も、こうしてみると中はいろいろ複雑なのだ。
 いやー、でもよくわかりました。「明るい沖縄」も「暗い沖縄」も本土人の思い込みだということが。〈「戦争と基地の島」「自然の楽園」というイメージは沖縄の一面であり、一種の幻想です。この沖縄幻想を支えているのが本土のマスコミや沖縄フリークの学識者です。この構図が沖縄問題をややこしくしています〉とは『沖縄の不都合な真実』の一節だが、立ち位置こそちがえ、他の二冊にも根底には同様の戸惑いが流れているように思われる。
 とかくカッカしがちな沖縄問題。だが、私たちは自分の思いを沖縄に勝手に仮託していないだろうか。少し反省いたしました。

【この記事で紹介された本】

『消えゆく沖縄――移住生活20年の光と影』
仲村清司、光文社新書、2016年、780円+税

 

大阪で18年、京都で4年、東京で16年暮らした後、九六年に沖縄に移住した著者による沖縄近況レポート。空前の沖縄ブームと、少女暴行事件(九五年)や普天間飛行場の返還発表(九六年)による反基地闘争の高まりという、二つの流れの中で格闘した20年。オール沖縄に熱い思いを寄せつつも、島のあまりの変化に戸惑う自身を率直に語っており、共感を誘われる部分が多い。

『沖縄問題――リアリズムの視点から』
高良倉吉編著、中公新書、2017年、820円+税

 

高良倉吉編著、中公新書、2017年、820円+税
仲井眞弘多知事時代の副知事、知事公室長、総務部長、土木建築部長が、行政の立場から沖縄の経済復興と基地問題を記した本。「よくも悪くもお役人」という印象は否めないものの、琉球王朝時代の歴史にまで遡り、問題の背景まで明らかにしている点は真摯で好感度大。基地を「沖縄問題」として特殊化せず「日本問題」と考えよ、差別ではなく不公平ととらえよ、などの提言が前向きだ。

『沖縄の不都合な真実』
大久保潤+篠原章、新潮新書、2015年、740円+税

 

日経新聞の元那覇支局長(大久保)と沖縄に関する著書も多い評論家(篠原)による、かなり辛口の沖縄論。沖縄が抱える多様な問題をあぶり出し、復興資金に頼った経済構造から脱却しない限り、基地問題の解決もないと説く。ともに本土の出身者であり、反基地闘争を痛罵するあたりは一見保守派の言説に見えるが、沖縄県人が口にしにくいだろう現実に言及している点は貴重かつ痛快。

PR誌「ちくま」3月号

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