上田麻由子

第5回・まぼろしのイケメン小学生

『TEEN×TEEN THEATER「初恋モンスター」』

 大地主のお嬢様ゆえに、友人や先生から腫れもののように扱われる「こけし」のような状態から脱け出すため、15歳の少女は東京にある下宿屋「華すみ荘」で一人暮らしを始める。引越し当日、車に轢かれそうになったところを助けてくれたのは、すらりとした長身の男性。かぶったフードからは銀色の髪がのぞき、その下には好戦的な瞳が光る。まっすぐな言動に心奪われ、好きだと告白した彼女を待っていたのは、意外な言葉だった――「付き合ってやってもいいぜ、本当の俺を知ってもまだ好きだって言えるなら」。

 

小学生って最高かな

 アニメ・ゲーム・漫画の舞台化として、人気を博している2・5次元の三大人気ジャンルは今のところ、スポーツ、アイドル、戦国ものだ。どのジャンルでも、キャラクターたちが矜持を胸に、芸や技を磨き、目的のために邁進する姿は胸を打つし、それはキャリアの浅い若手俳優たちが切磋琢磨する姿と重なって、現在進行形の有機的な物語を紡ぎ出す。また、試合、歌とダンスのステージ、殺陣はそれぞれショーとして見応えがあり、繰り返し劇場に足を運ぶことにつながる。

 そういう意味では、下ネタとギャグがちりばめられたラブコメ『TEEN×TEEN THEATER「初恋モンスター」』は、いわゆる「王道」からは、かなり外れた2・5次元作品だ(それはタイトルを音読してもらえれば嫌でもわかるだろう)。原作漫画が「非日常的ガールズコミック」をキャッチコピーにした少女漫画雑誌『ARIA』(講談社)に連載されているだけあって、高校1年生の女の子が好きになったのは、実は小学5年生という突飛な設定になっているからだ。4歳という年齢差は、大人の感覚からすると普通のことのようだが、相手が小学生男子となると話は違ってくる。俺様ドSキャラの王道のような端正なルックスの彼、高橋奏が半ズボンの体操服を着て、173cmある体躯には不釣り合いなランドセルを背負い、そこから縦笛が突き出ているところには、なんだか見てはいけないものを見てしまったような背徳感がある。

『初恋モンスター』のほとんど「出オチ」のような設定は、一見、漫画やアニメのような2次元だからこそ説得力を持てるように思える。アニメ版ではコメディエンヌとしても定評がある堀江由衣と、本気を出せば落とせない女子はいない櫻井孝宏ら20年以上のキャリアを誇る声優陣の安定感ある演技によってリアリティが担保されているのに加え、中性的な歌声を存分に発揮したオープニング曲/物語内の男の娘アイドル「レンレン」/遊び心満載なエンディング曲「君に捧げる鎮魂歌」(タイトルを音読してみてほしい)と、自由自在に変化する蒼井翔太の存在感もあいまって、猥雑でケイオティックな愛の場としての「華すみ荘」を賑やかに現出していた。

 

イケメンという名の怪物(モンスター)

 では、舞台版ではどうだろうか。大人顔負けの体格で中身は小学5年生という奏が、2・5次元舞台で今もっとも活躍している俳優のひとり、荒牧慶彦(27歳)の身体をもって表現され、その夢見るような瞳で「で…俺、小学生だけどどうする?」と問いかけられたとき、漫画を読んだりアニメを観たりしていたとき足元にあった安全地帯は崩れ去り、観客たちはヒロイン・二階堂夏歩と同じように、その「初恋という怪物」に襲われる。

 会場である品川プリンスホテル・クラブeXの古風なキャバレーを思わせるインテリア、円形のステージをぐるりと取り囲むように配置された座席、なにより「小学生達が会場の全てを使って遊び回るプレイエリアフリーシステム」と称する、舞台から客席へどんどん飛び込んでくる役者たち(奏と同様、外見はとても小学生には見えないクラスメートの「ギン」や「トム」など)が、恋愛対象としては「ノーマル」な枠からはみ出す「怪物」をあまりにも身近に感じさせ、その魅力の抗いがたさを知らしめる。

 そうやって「見た目は大人、中身は子供」で小学生らしい直截的な下ネタを連発する「怪物」たちに、だんだん感覚が麻痺してきたあたりで、「カズ」こと野口一男が投入され、鮮烈な印象を残す。仲良し四人組で一番かっこいいと憧れられているものの、実はひとりだけ年相応のルックスをしているという「オチ」として登場する彼だが、舞台版ではカズを演じるシェーンは2004年生まれの子役なのだ。首元のリボンやブラウスのフリルがちょっと現実離れしているとはいえ、その圧倒的な「子供感」(身長136cm)によって「怪物」たち小学生の幼さをいまいちど思い起こさせ、彼らに真剣に恋する夏歩の戸惑いを生々しく伝える。

 

さまざまな愛の形

 とはいえ、この作品はあくまでもギャグであり、あくまでもラブコメである。奏たちの小学生らしいおバカさに呆れたり、童心に返って笑ったり、しがらみのない自由さにちょっとうらやましくなったりするのが、作品の本筋である。そして、小学生なりに何事にもまっすぐ向き合う奏と、彼らの短絡的思考につっこみつつも心動かされていく夏歩がお互いに成長していく姿は、恋愛ドラマとしてきちんと丁寧に描かれる。

 ミュージカルとしてみても「知りたいって思う気持ちが、好きってことだ」という奏が「俺のことを教えてあげる」と歌う楽曲は、(『サウンド・オブ・ミュージック』の)「My Favorite Things」のようでかわいらしいし(ただし、ここで挙げられるFavorite Thingsは「友達のかさぶたを剥がす」とか「机の中に揚げパンを貯蓄している」とかだけれど)、終盤、奏が夏歩の前に跪いて、鍵盤ハーモニカで歌う「LOVEソングTO夏歩」は、アニメとは違うしっとりしたアレンジもあって感動的ですらある(アニメ版はアニメ版で、基本的には歌の仕事をしない櫻井孝宏のひさびさの歌唱が聴けて泣けるのだが)。

 ほかにも、この作品は「ノーマル」な恋愛の枠にはおさまりきらない、さまざまな愛の形を提示している。たとえば「華すみ荘」4号室に住む大学院生・長澤嵐は、ついこのあいだまでミュージカル「テニスの王子様」で乾貞治を演じていた田中涼星が演じ、186cmのせっかくの長身をタカアシガニのように奇妙に動かし、美少女フィギュアと男の娘への愛を歌い上げるさまは強烈なインパクトを残す、名シーンのひとつだ。奏が歌っていたように「好き」という気持ちがあれば「なんだか力がわいてくる」。そのエネルギーのほとばしりを、キャラクターたちが体現する多様な嗜好をとおして、この作品は見せくれる。

 

2・5次元のおおらかさ

 小学生が伏せ字やピー音なしの下ネタを連発するのにぎりぎり下品にならないのは、演じている俳優たちの清潔感に拠るところが大きい(同じネルケプランニング制作の『ママと僕たち』という、赤ちゃんに扮したイケメン俳優たちがママたちのために奮闘するコメディシリーズを思い出す)。また、少女漫画という枠組みからブレることなく、むしろノーマルな恋愛ではないからこそいっそうの切実さをともなって物語は着地するところは、男女の恋愛モノが成立しにくい2・5次元において奇跡的だといえるかもしれない。一見、バカバカしいように思えることに、あえて真面目に取り組んでみる。この作品は、2・5次元がもとよりもっていた、そんなチャレンジ精神を思い出させてくれる。

 振り返ってみれば、これまでも主にキッズ・ファミリー向けだが、思春期のあこがれだけでなく、少女が対峙する自己や家族の問題に取り組む2・5次元舞台として舞台『しゅごキャラ!』や、舞台『こどものおもちゃ』があった。また、昨年は舞台版『こちら葛飾区亀有公園前派出所』や、舞台『パタリロ!』のような、古典を掘り起こす流れも続いている(バンコランやマライヒを演じられる俳優がいる2・5次元界に胸を張りたい)。この『TEEN×TEEN THEATER「初恋モンスター」』も含め、少し視野を広げてみれば、今風のキラキラした青春だけではない、下世話なギャグや耽美な世界観まで包み込める2・5次元舞台のおおらかさに、あらためて驚かされることだろう。

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