確認ライダーが行く

第20回 植木鉢の確認

 家から駅まで少々あるのでいつもは自転車なのだが、たまに歩くこともあり、その際の楽しみは植木鉢である。
 よその玄関先の植木鉢には顔がある。同じ鉢が揃えて並べられていれば、買った人の几帳面な顔が浮かんでくる。勝手な想像だが、部屋もそこそこ片付いているのではないかと思うし、回覧板も見たらすぐに回すんじゃないかなと思う。同じ鉢で揃えるような家は、長い期間咲く堅実な花を好む傾向がある気がする。パンジーだとか、ビオラだとか。長く咲けば町並みも明るい。地域に貢献する人々の家でもあった。
 鉢の色や種類がばらばらの家もある。毎度、そのときの気分で買い足しているのだろう。
 花の種類にしても、長持ちするかどうかより、
「きれい、欲しい、買っちゃおう」
の精神だから、開花期間が短く、すぐに葉だけになるような鉢物が多い。けれど、これはこれで大らかさが感じられて好きなのだ。こちらもまた勝手な想像なのだが、こういう家の内部には、植木鉢と同じく統一感がないような気がする。洋風の人形の隣りに、こけしを並べるみたいな。実家はこんな感じである。
 多肉植物ばかり並べている家もある。以前は、あんな植物を愛(め)でてなにがおもしろいのだろうと思っていた。
 陰気くさい。ちょっと不気味。
 けれど、なんとはなしに多肉植物の寄せ植えを試してみたところ、忘れたころにひっそりと可憐な花が咲き、なかなか味わい深いのだった。これといった手入れをしなくてよいのも気楽である。となると、多肉植物は面倒くさがりやに好まれているのではないか。ちなみにわたしは、四角い部屋を丸く掃除する派である。
 他にも、盆栽の鉢、菊の鉢、ハーブの鉢など、玄関先の様々な主張を確認して歩いているわけだが、もっとも惹きつけられるのは、枯れ果てた草の鉢、土しか入っていない鉢、そういうものばかりがずらずらと並べてある家である。
 かつてはこれらの鉢も玄関先に彩りを添えていたのだろう。朝夕、水をやり、虫くいの葉を取り、台風の季節には屋根の下へ移動させてやった。そんな鉢だったのかもしれない。鉢が荒れている家は、玄関まわりの雑草の手入れも滞りがちだ。だからと言って、家の中が幸せじゃないとは限らない。過ぎ去った日々と、今、ここにある時間。すすけた植木鉢に思いを馳せながら、わたしは駅に向かうのだった。

『江戸の風俗事典』を開いてみれば、植木職にかかわる商人が、江戸の職業で一番多かったのだとか。空前の園芸ブームがおこり、そこで庭師、鉢物師が生まれたらしい。
 また、『江戸庶民の楽しみ』によると、江戸時代、植木屋は一種の行楽地として注目されるようになり、そんな流れで登場したのが菊人形のようだ。菊人形を見せる名目で、客に草花や盆栽を買わせるというわけである。
そうやって植木鉢が庶民の暮らしに広がり、今の世でも玄関先を華やかにしてくれている。庭がない身としては、もはや植木鉢が庭のようなもの。鉢庭である。
 先日、沖縄の那覇へ旅したとき、満開の赤いハイビスカスの鉢植えを見た。
 ここの家で、この街で生まれ育っていたら、わたしはまた違うわたしだったのだろうか。そのわたしに、ちょっと会ってみたかった。
 ハイビスカスの鉢植え。カメラのシャッターを押す。旅先でもそんな小さな風景にいつも心が惹かれてしまうのだった。

<参考>
『江戸の風俗事典』東京堂出版・石井明著
『江戸庶民の楽しみ』中央公論新社・青木宏一郎著

 

 

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