アイドルになりたい!

第3回『アイドルになりたい!』第1章を大公開!

『アイドルになりたい!』刊行記念特設ページ

 いよいよ『アイドルになりたい!』の刊行です。

アイドルの必要条件って、なんだろう? 歌がうまいこと? ダンスがうまくなきゃダメ? いやいや、そのどちらも、必要条件じゃないよね。

ならば、アイドルとは何をする仕事なのか? 

そんなことが書いてある、『アイドルになりたい!』第1章を大公開!

きっと、「なるほどー!」を連発しちゃうはず。

ぜひぜひ、読んでみて!

 

第1章    アイドルって何だろう?


   きみがなりたいものの正体は?


 アイドルって何だろう?
 そう訊かれたら、きみはどう答えるかな。
 若い女の子たちがきらびやかな衣裳を着て、唄ったり、踊ったりする。それをファンが大きな声援を送って、盛り上げる。
 そんな場面を想像するんじゃないだろうか。
 すると、アイドルは歌手?
 いや、アイドルは歌がヘタだ、とよく言われる。もっと歌のうまい人は、いっぱいいるよね。
 ダンスだって、そうだろう。あきらかにプロのダンサーとは違う。
 かわいい女の子ってこと?
 でも、美人かな。美人が、かならずしもアイドルになれるわけじゃない。アイドルグループで一番人気の子が、美人とは限らない。
 わかるよね?
 スタイルばつぐんとも言えるか、どうか。ファッションモデルとアイドルでは、全然、体型が違うでしょ?
 うーん。
 すると、アイドルって何?
 歌がうまくない。ダンサーとも違う。美人とは限らない。スタイルばつぐんじゃない。
 アイドルって、じゃあ、どこがすぐれているんだろう?
 いったい何のプロなのかな?
 これは大切なことだよ。
 アイドルになりたい――きみは、そう思っている。
 じゃあ、アイドルとは何か? いったい何をする仕事なのか?
 それがわかっていなきゃ、ダメだよね。
 自分のなりたいものが、本当は何なのか? わからなかったら、絶対になれるわけなんてない。

なぜオーディションに落ちたか


 たとえば、きみがアイドルのオーディションを受けたとする。
 きみが落ちて、別の女の子が受かった。
 その子は、きみよりかわいくない。歌もうまくない。ダンスもパッとしない。スタイルもよくない。
 あきらかに自分のほうが、すべてすぐれている。きみはそう考えている。
 でも、きみは落ちて、彼女は受かった。
 わけわかんない! きみはそう思う。
 自分の何が劣っていて、何がたりないか、それがわかっていなかったら、じゃあ、どう努力していいか、わからないじゃん。
 たとえば、百メートル走とは何か?
 百メートルを一番速く走った人が勝つ競技だ。
 サッカーとは何か?
 十一人のチームで、ボールを蹴って、点を取り合うゲームだ。
 みんな、それをわかっている。
 わかっていない百メートルランナーやサッカー選手なんているわけないよね。
 でも、アイドルになりたいきみは、アイドルが何かわからない。自分が参加しているスポーツのルールを知らない選手みたいなものだ。当然、それで勝てるわけがない。
 百メートルランナーがスタートダッシュに失敗した。反省して、何度もスタートの練習をする。途中でバテて失速した。スタミナをつけるため筋トレをはじめる。
 こんなふうにがんばるのが普通だよね。
 しかし、きみは、どうして自分がオーディションに落ちたか、わからない。
 失敗した理由がわからないから、どう反省して、これから、どうがんばったらいいか、わからないんだ。
 それでアイドルになりたい女の子は、結局、ダイエットぐらいしかやることがなくなるんだね。
 きみにとって一番大切なこと。
 まず、最初にやらなきゃいけないこと。
 それは――。
 アイドルとは何かを知ることなんだ。

何の仕事なの?


 アイドルとは、いったい何をする仕事なのか?
 よし、ぼくが教えてあげよう。
 たとえば、きみがアイドルのCDを買ったとする。なぜ、買ったんだろう?
 よーく、考えてごらん。
 歌がうまいから買ったんだろうか?
 さっきも言ったように、アイドルより歌のうまい人は、いっぱいいるよね。
 でも、カラオケマシーンで百点を取るような、どこかの歌のうまいオジサンのCDを、きみは買うかな?
 買わないでしょう。
 音楽大学の声楽科を卒業して、完璧に正しい歌い方のできるオバサンのCDなら買う?
 買わないよね。
 なぜ、きみはそのアイドルのCDを買ったのか?
 そう。
「好き」だから買ったんでしょう。
 そうなんだ。
 アイドルとは、「好き」になってもらう仕事なんだ。
「好き」であることにお金を払ってもらう仕事――と言ってもいい。
 それをCDや写真集やライブの形で表現しているんだね。
 どれだけ歌がうまくったって、唄い方が正しくったって、「好き」にならなければ、誰もそのCDを買わない。
 それがアイドルなんだ。
 きみはこの本を読んで、一つ重大なことを知った。
 自分があこがれているもの、なりたいものの正体を、たった今、ついにはっきりとつかんだんだから。
 アイドルとは「好き」になってもらう仕事。
 いいね、このことを絶対に忘れないように。

「好き」のプロ


 さて、それでは、どうしてファンはそのアイドルを「好き」になるのか、考えてみよう。
 人は、なぜ、その人を「好き」になるのか?
 まず、知っているからでしょう。
 あたりまえだよね。知らない人を好きになることなんてできない。
 じゃあ、アイドルや芸能人を、ぼくらはどうやって知るのかな?
 そう、テレビや雑誌やインターネットや、そうしたメディアを通して知るんだよね。
 たとえば、ある新人アイドルが、毎日、たくさんのテレビ番組に出たとする。
 たちまち多くの人が、そのアイドルを知る。その中から「好き」になる人たちが出てくる。
 それが「ファン」だ。
 好きになったアイドルのCDや写真集やDVDを買う。ライブへ行く。
 そういう仕組みだね。
 けれど、どうだろう。
 テレビに出るから有名になるし、有名な人がテレビに出る。
 でも、最初から有名だった人はいない。
 どんな有名人、人気アイドルや、大スターだって、最初は無名だったはずだ。
 今のきみと同じようにね。
 何か、きっかけがあったはず。
 つまり、そのアイドルを一番最初に「好き」になった人がいるんだ。
 ぼくはアイドルのオーディションや新人コンテストの審査員を、たくさんやったことがある。
「どういう基準で選んでるんですか?」
 そんなふうに訊かれたことがあった。
 男子大学生たちにね。
 彼らは、〈街で見かけた美女〉みたいな雑誌グラビアを見て、「おれ、この娘がいい!」「いや、おれはこの娘だな」「じゃあ、ボクはこの女の子!」とそれぞれ自分の好きな女子の写真を指さしていた。
「中森先生がオーディションで女の子を選ぶのも、単に自分の【好み】で選んでるんじゃないですか?」
 そうだよ、自分の【好み】で選んでるんだ、とぼくは答えた。
 ただ、きみたちと違うところがある。
 ぼくは「好き」のプロなんだ。
 ぼくの「好き」には責任があるんだよ。
 だって、そうでしょう。
 ぼくがオーディションで一人の女の子を選んだとする。その瞬間から、彼女の人生が大きく変わってしまうんだよ。

彼女を選んだ理由


 全日本国民的美少女コンテストの審査員をつとめたことがある。第7回のその年は、1万5千人以上もの応募があった。最終審査のステージには20人の女の子たちが並んだ。
 審査会の合議でグランプリや各賞の受賞者が決定したんだ。
 でもね、ぼくは納得がいかなかった。
 とても気になる候補がいたんですよ。
 ひときわちっちゃな女の子だった。
 歌がうまいわけじゃない。演技も上手じゃない。顔もスタイルもばつぐんってわけじゃない。
 でも……なんだか胸騒ぎをおぼえたよ。
 道ばたに捨てられた子犬みたいな女の子だった。
 放っておけない。このまま見すてたら、絶対に後悔する。ぼくが、なんとかしてあげなければならない。
 正直に言おう。
 ぼくは、その子を「好き」になっていたんだ。
 なんらかの賞を彼女に与えるべきだ、と強く訴えた。ほとんどの審査員からは賛同をえられなかったけどね。
 たった一人、まったく同じ意見の人がいた。コンテストを主催する芸能プロダクションの社長さんだった。
「いや~、だけど表彰状もタスキの用意も、もうないんだよな……」
「社長! 表彰状なんかいいじゃないですか。あの子を選ばなかったら、絶対に後悔しますよ‼」
 急遽、審査員特別賞がもう一枠、もうけられることになった。
 司会者から名前が呼ばれて、驚いた表情の女の子が立ち上がる。階段を上がって、ステージの中央へと歩み寄る。
 そう、あのすてられた子犬みたいな女の子。
 はじけるような笑顔だ。
 ああ、よかった。ぼくは、この笑顔が見たかったんだよ。
 まばゆい光のステージの中心に、ちっちゃな女の子がぽつんと立っている。
 11歳の上戸彩だった。

一番最初のライブ


 あるいは、こんな話はどうだろう?
 昔からの知り合いのプロデューサーから連絡をもらった。
 ぜひ、見てもらいたいものがあると言う。
 新人アイドルグループのおひろめライブへ招待されたんだ。
 客席は業界関係者ばかり。
 ステージには20人の女の子たちが並んで、唄い、踊った。
 正直、歌もダンスも未熟だったよ。すごい美人やスタイルばつぐんの娘もいない。みんなガッチガチに緊張していてね、表情がこわばっていた。
 ただ、女の子たちの必死さや熱気だけが伝わってくる。
 ステージを見ているうちに、おっ、この娘はいいなあ、「好き」になれそうだな、というメンバーの顔が目にとまった。
 当時は〝アイドル冬の時代〟と呼ばれていてね、女の子アイドルはまったく人気がなかった。テレビでも見かけなかった。
 大丈夫かな? こんな時代にデビューして、彼女たちは生き残っていけるんだろうか? と、心配になったな。
 2005年12月7日のことだった。
 そう、AKB48だ。
 ぼくが見たのは、AKB48の一番最初のライブだったんだよ。
 ぼくを招待してくれたのは、秋元康さんだった。
 ライブ終了後、「とても楽しめました、がんばってください!」と声をかけ、秋元さんと握手したのをおぼえている。
 ぼくが目にとめたのは、当時14歳の前田敦子と同じく14歳の高橋みなみだった。
 今でも、目を閉じると、ガッチガチに緊張したまだ幼い顔の前田敦子や高橋みなみを思い浮かべることができる。
 つまり、この本は、11歳の上戸彩を一番最初に認めて芸能界にデビューさせ、AKB48の一番最初のライブを観た、ぼくが書いているんだ。

もっともすごいアイドルは?


 日本のアイドルの歴史は1971年にはじまったと言われている。当時、ぼくは11歳。その一番最初からアイドルのファンになった。20歳でライターデビューして、アイドルについて数多くの文章を書いてきた。たくさんのアイドルに会って、話を聞いた。オーディションやコンテストの審査員もやった。
 もっとも長く、多く、アイドルを見てきた、アイドルの魅力を伝える仕事をしてきた人間だ――という自信がある。
 そんなぼくのつかんだ答え。
 それが
〈アイドルとは「好き」になってもらう仕事〉
 なんだ。
 そうして、ぼくの仕事はといえば、
〈誰よりも早くそのアイドルを「好き」になること〉だ。
 上戸彩やAKB48を一番早く目撃して「好き」になったようにね。
 もちろん、ぼくだけじゃないよ。
 芸能界には、ぼくよりはるかに長いキャリアを持つ大先輩たちがいる。
 いわば「好き」の【達人】たちが、いっぱいね。
 その一人を紹介しよう。
 サンミュージックという芸能プロダクションがある。創業から半世紀近い老舗事務所だ。
 ちょっと名前を挙げてみようか。
 桜田淳子や早見優、酒井法子、安達祐実など、たくさんのアイドルを世に出してきた。
 最近だと、ベッキーが有名だよね。
 その創業者が相澤秀禎さんだ。残念ながら、2013年に83歳で亡くなった。
 この人はすごかったよ!
 生前、親しくさせてもらった。何度も目からウロコが落ちるような言葉を聞きました。
 日本の芸能界史上、もっともすごいアイドルって、誰だと思う?
 そうだなあ……。
 松田聖子だ。
 ぼくは、そう確信している。

松田聖子はなぜブレークしたか?


 1980年春にデビューした。アイドルのモードを一気に変えた。
 当時の後輩アイドルらは、みんな〝聖子ちゃんカット〟をしていたよ。
 いや、日本中の女の子たちが聖子の髪型やファッションを真似ていた。
 デビュー当時の松田聖子の写真を見てごらん。
 決して美人じゃない。正直、どこにでもいそうな女の子だ。
 スタイルばつぐんじゃない。声に伸びはあったけど、歌がめちゃくちゃうまかったとも言えない。
 不思議だね。なぜ、あんなに人気があったんだろう?
 その松田聖子の育ての親こそ、そう、相澤秀禎さんなんだ。
 聖子は18歳の時、福岡県久留米市から上京した。相澤さんの家に下宿した。毎朝、一緒にランニングしていたというんだ。
 相澤さんがぼくに教えてくれた。
「松田聖子はO脚なんですよ。それが理由である大手芸能プロの最終審査で落とされたという。だけど、わたしはダメだと思わなかった。いや、むしろミニスカートでデビューさせた。彼女が欠点をかくしてロングスカートでデビューしていたら、きっと売れなかったでしょうね。断言しますよ。そしたら、今の松田聖子はいなかったはずです」
 なるほど!
 すごい話だ。
 そうか、アイドルって、欠点が魅力なんだな。短所が長所になっている。アバタもエクボ、と言うけど、いや、アバタがエクボ……いやいや、アバタ【こそ】エクボ! なんだ。
 つまり、それが【個性】でしょう。
 個性とは「魅力的な欠点」のことなんだ。
 美人で、スタイルがよくて、歌もうまくて――といった欠点のない芸能人が、あまり人気が出ないのもよくわかるね。

欠点を魅力に変える
 それでは、きみにやってもらいたいことがあります。
 ノートを開いて。さあ、そこに自分の欠点を書いてみよう。
 ◎脚が太い
 ◎背がちっちゃい
 ◎声がヘン
 ◎アガリ性
 ……いろいろあるよね、きっと。
 自分が気にしている欠点を、決して包みかくさず、ぜぇーんぶ書くこと!
 欠点をかくしたり、ごまかすんじゃない。
 そしたら、きみは普通になってしまう。
 欠点を魅力に変えるんだ!
 ◎脚が太かったら――さらけ出して、健康さをアピール。
 ◎背がちっちゃい――むしろ、かわいいじゃん!
 ◎ヘンな声――耳に残るよ、その声でわたしを忘れられなくなる。
 ◎アガリ性――カミングアウトしちゃえば? アガリ性のわたしを、ファンは応援したい! と思うはず。
 ほら、こんなふうにね。
 自分の欠点を包みかくさず、さらけ出す。それを魅力に変える方法を考える。ノートに書いて、しっかりと意識する。
 どう? アイドルっておもしろいでしょう?
 普通、学校の勉強だったら、どうかな?
 不得意科目を征服しよう! なんて先生は言うはず。
 欠点を克服しよう! って教えられる。
 でも、アイドルは違うんだ。
 欠点が魅力なんだ。
 欠点のない女の子は、むしろアイドルにはなれないんだよ。
 ある人を「好き」になる。それは、欠点に目をつぶることじゃない。欠点をも含めて、丸ごとその人を「好き」になるってことなんだ。
 その人の存在を肯定するってことだ。
 いいかい?
〈アイドルとは「好き」になってもらう仕事〉
〈アイドルは欠点が魅力〉
 この二つを、ぜひ、おぼえておいてください。
 絶対に忘れないように!
 そしたら、どうなると思う?
 きみは、もう昨日までのきみじゃない。
 大きく変わるんだ。
 あこがれのアイドルへと近づくんだよ‼

 

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