単行本

ぽーはもうひとりの子とダンボールのなかにいた

『フクロウが来た ぽーのいる暮らし』最初の出会い

「Yahoo!地域ニュース」で近所に「フクロウカフェ」が出来たことを知り、はじめてカフェ・リトルズーを訪ねたのは2012年の初夏。それから繰り返し行くようになり、1年ほどたったある日、鷹匠と鷹のひと言ではとても言えない信頼関係についてマスターから(自慢?)話を聞いた。心の底からうらやましいと思い、「たまに遊びに来てかわいいかわいい、と言うだけじゃなくフクロウや鷹を飼う暮らしはどんなにいいでしょうね」と口走った著者。そのときマスターは、けろりとこう言ったのだった。 「じゃ、飼えばいいじゃない。飼えば?」 ……フクロウを雛から飼い始めて、いったい彼女に何が起こったのか。フクロウの子ぽーの信頼を勝ち得るまで、どんなことが起こったのか。それこそ「心底うらやましい」気持ちになるドキュメンタリーの、ぽーとの出会いの部分を公開します。

 電話が鳴った。

「雛が届きましたよ。見に来ませんか。」

 何日もあんなに迷っていたのに、電話を切ったとたん、「飼わない」という決心が一瞬で固まった。雛を見には行こう、だが、見るだけで満足することにしよう。それが正解だ。

 仲間内で「班長」と呼ばれて愛されている友人がいる。無欲と率直という貴重な組み合わせの個性の持ち主で、たとえば買い物に行った先で、連れが、ちょっと目をひく新奇な物を衝動買いしそうになると、「そんなん、いま欲しいだけで、明日になったらゴミになるわ。後悔するに決まってる。やめとき、やめとき」と冷や水を浴びせ、何度も友人たちを救ってきている。この班長に同行してもらって、カフェに行くことにした。こういう人選ができるようになった自分を褒めたい。

「ケーキセットでも、ランチでも、なんでもご馳走するから、私を止めてね。飼わないことに決めたんだから。雛かわいさに、もしうっかりふらふらしたら、どんなにひどいこと言ってもいいから、目を醒まさせて。」

「わかってる。大事な任務はぜったい忘れへんわ。フクロウなんか飼わんでええねん。シンプルな暮らしが一番やわ。」

「よろしくお願いします。」

 こうしてストッパー同道で乗り込んだ私を、笑顔のミワさんはこっちこっちと手招きして、床に置いた段ボール箱を示した。しゃがんで覗き込むと、ところどころ糞で汚れた古新聞の上に立って、思い切り顔を上げて、真っ黒な目玉でひたと私を見た二羽のフクロウの雛たち。体格に大小があって、何日か違いで生まれたきょうだいたちかと思われた。大きいほうの雛が箱から出たがってしきりにばたつき、箱の側面めがけてジャンプを繰り返していた。その大騒ぎを避けて、ちびさんの方は隅できょとんとした顔をしておとなしくしている。

 箱のそばのテーブルに陣取り、ちびっこたちを眺めていると、ミワさんがタオルを私の膝に広げ「どっちの子を見る?」と聞くので、やんちゃさに惹かれて「大きいほうの子」と答えた。

「大きいほうの子」は、そっと私の膝の上に置かれた。ぽっと温かさが伝わってきた。箱から出してもらってうれしいのか、すっかり落ち着いてちんまりと座り、あたりを見回し、私を見上げる。頭のぽわぽわとした産毛をなでると、とろりとした柔らかさが頼りないほどだ。しきりにぴいぴいと鳴く。

イラスト・中島良二

 ミワさんが小さなガラスの器に餌のウズラ肉を入れ、ピンセットと一緒にもってきた。「この鳴き方はちょうどお腹がすいてきているしるしだから、やってみて。」

 この店に出入りするようになって一年経つが、餌やりをさせてもらったことはない。かなりうれしい。

 小指の爪ほどの大きさに切った肉片をピンセットでつまみ上げ、おそるおそるくちばしの前にもっていく。と、「大きいほうの子」は、なんの躊躇もなく口を大きく開け、その瞬間、目をつぶった。まぶたが閉じる寸前、その内側を、半透明の「瞬膜」が目頭から横にすっと眼球を覆った。そうやって薄目をつむって、「大きいほうの子」はあーむと肉片を受けとった。くちばしがピンセットの先もいっしょに銜え、コツッと軽いプラスチックのような感触が私の指に伝わってきた。そして、今度は思い切り大きく目を見開いて、私を見つめながら、待望の食事をごくりと飲み込んだ。

 私のどこかでカチリとスイッチが入った。

 ストッパーの班長のことばは、耳に入っていたような、いなかったような。確かな覚えがない。

 帰り道、班長が穏やかな声で言った。

「ごめんね。ケーキセットご馳走になったけど、止められへんかったわ。かなりがんばったつもりやったけど、途中で、もうこれは無理やなと思ったわ。任務は失敗やった。……ていうか、もう止めんでええ、って感じやったよねえ。違う?」

 そうだ。誰にも止められない。班長は無欲で率直なだけでなく、察しがいい。あんなに固く決心したのに、「飼わない」という選択肢はいとも簡単に蒸発してしまっていた。

……………

ぽーがうちに来て、さてどんな生活が始まったのか。
続きは単行本にてお楽しみください。

 

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詳細は単行本の帯のソデをご覧ください。

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