確認ライダーが行く

第21回  猫の確認

 自転車で駅前のスーパーへと走る夕暮れどき。
 いるといいなぁと確認しながら漕ぐのだけれど、なかなか出会えない。のら猫の話である。
「あ、いた!」
 スピードを落とし、ラーメン屋の店先に寄っていったところ、白いビニール袋だったこともある。目が悪いので、しょっちゅうゴミと猫を見間違えているのだが、猫に見えたのならそれはもう猫ということに決め、確認しないほうがいいのかもしれない。
 そうかと思えば、たてつづけに見られる日もある。
 のろのろと小道を横切り、遊歩道に消えて行く白黒の猫。
 新聞屋の向かいの家でじーっとしているキジトラ猫。
 あとは、ほっそりとした黒猫と、毛が長い灰色猫。
 縄張りなのだろうか。馴染みの猫ばかりである。

 10歳くらいのころだっただろうか。
 雨の夜だった。子猫がミーミーとなく声が団地中に響いていた。
「捨て猫かなぁ」
 家族そろっての夕食中、おそらくそんな会話になったのだろう。夜が更けても、子猫はなきつづけていた。それで、ちょっと様子を見てこようとなり、傘をさして表へ出た。
 子猫は田んぼの用水路のあたりにいて、ずぶぬれだった。とりあえず家に連れて帰ったものの、子猫の色や模様は覚えていない。うちで飼うことはできなかった。
 飼えなかった子猫は一匹だけではなかった。たくさんいた。
 友達と小学校からの帰り道。ドラマのワンシーンのように、数匹の子猫がダンボールに入れられていたこともあった。
「やさしい方、かってあげてください」
 ダンボールに書かれてあるのを見て使命感に燃えた。クラスの男子たちも加わって飼い主探しがはじまった。
 誰かが言った。
「大きい家は金持ちやから、大きい家に頼んだらええやん」
 それで、大きな家のチャイムを鳴らしては、「子猫、飼ってください」と頼んでまわった。
 冷たく追い返された記憶はない。ただ、飼ってもらえることになり、みんなで喜んだ記憶もない。
 ダンボールの子猫たちは、最後はどうなったのか。捨てた人が取りに戻ってくるはずだと、もとの場所に置きに行ったのかもしれなかった。そう締めくくらないと、たぶんわたしたちは家に帰れなかったのである。
 飼い主を探せなかったあの日の帰り道。
 幼いわたしは、自分たちの非力を嘆いたのだろうか。それとも、かわいそうな子猫を引き取ってくれない大人たちを、お金持ちの大人を恨んだのだろうか。
 捨てられた子猫の気持ちに同期して、さぞかし、さみしい気持ちで自宅のドアを開けたに違いない。けれども、みなで飼い主探しをした楽しさもまた、嚙み締めていたのだと思う。
 家をもたぬ猫たちに付随した、いくつもの思い出。
 家猫も、のら猫も、歩く姿は同じであるはずなのに、のら猫のほうがさみしげに映る。そのさみしげな感じが心の中に入り込んでくるのもまた、不思議と心地よく、結局、のら猫を探すのは愁いを求めているからなのではないか、とも思うのだった。

2017年5月19日更新

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益田 ミリ(ますだ みり)

益田 ミリ

1969年、大阪府生まれ。イラストレーター。女性の心の機微とその生き方を丁寧に描く作品が多くの共感を集め、マンガ、エッセイなど多彩な活躍を見せている。著書に、『僕の姉ちゃん』『泣き虫チエ子さん』『沢村さん家はもう犬を飼わない』『そう書いてあった』、小説集『五年前の忘れ物』など多数。ベストセラー「すーちゃん」シリーズは2013年に映画化された。

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