絶叫委員会

【第115回】もやもやするニュース

PR誌「ちくま」5月号より穂村弘さんの連載を掲載します。

 なんとなくよくわからないニュース、というものがある。以前、この連載でも取り上げた「恋が実らずネパール南部で殺人を繰り返しているゾウ=AFP時事」などもその一例である。
「このゾウは過去数年間で少なくとも2回、気に入った雌と夫婦になろうとしたが妨害されて果たせず、荒れるようになった」らしいんだけど、どういう感想を持っていいのかもやもやする。「少なくとも2回」「夫婦」「妨害」「殺人」という言葉がうまく繋がっていかないのだ。「夫婦になろうとした」とは「交尾をしようとした」という意味でいいのか。また、誰に何故どのように「妨害」されたのだろう。「殺人」を「繰り返している」というのも凄すぎて、いろいろわからない感じがある。
 数ヶ月前にインターネットで読んでから、ずっともやもやしているニュースはこれだ。

 指定暴力団「六代目山口組」の司忍組長が5日、新神戸駅に到着した際、分裂した神戸山口組傘下の組員が待ちかまえ、駅構内は一時、騒然とした。組員らは「サインください」と怒号を飛ばした。

 うーん、と思う。「「サインください」と怒号を飛ばした」って珍しい日本語だ。ライバル組織の親分に対して何らかの挑発を行いたいけど警察に捕まったりはしたくない、ということだろうか。気持ちはわかるけど、その結果が「サインください」ってところが意外だ。どうしてそこに着地したのか。あの業界では普通にあることなのか。幾つかのサイトを回って複数の記事を調べたけど、はっきりしなかった。

 警戒していた警察官がその場で持ち物検査を実施したところ、組員らが持っていたのは色紙と黒色のペンだった。

 ちゃんと「色紙と黒色のペン」を持ってきてるところがいい。警察に対する証拠というかアピールってこともあるんだろうけど、他の理由として、「サインください」と叫んで「よし、してやる」と快諾(?)されてしまった時、モノがないと困っちゃうからだと思う。それではヤクザの面子に関わる。

 この怒号に組長を囲んでいた関係者の間にも一瞬緊張が走ったが、抗争などに発展せず、けが人もなく、神戸山口組傘下の組員たちもその場をあとにした。

 無事に収まってよかったけど、気になるのはサイン色紙だ。その件についての記述はどこにも見当たらない。サインはどうなったのか。やはり無しだろうか。万一、貰えたのなら、色紙には為書と本人の署名の他に、どんな言葉が記されたのだろう。普通に「仁義」とか、素直に「ふざけるな」とか、さらに「潰す」とか、余裕で「仲良きことは美しき哉」とか、渾身の「ユルス」とか……、気になる。
 

PR誌「ちくま」5月号

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