確認ライダーが行く

第22回 100円ショップの確認

 一難去ってまた一難、みたいな憂鬱な日の夕暮れ。
 調べ物があって図書館に行くと休館日だった。
 ああ、「わたし」が世界からはじき飛ばされているようだ。
 誰もいない図書館の前、自転車にまたがったまま、夕焼けを見た。いつもなら眺める夕焼けを、ただ、見たのである。
 せっかく着替えて出てきたのだし、まっすぐ家に帰るのも惜しい。お茶でもするかと自転車を漕ぎつつ駅前に向かう。途中、仕事で使うクリアファイルが切れていたのを思い出し、一転、巨大百円ショップを目指したのだった。
 店内に入る。ツンとしたビニールのような匂い。冷房がきいた店内には、ないものがないんじゃないか、と思わせるほどの商品が整理整頓されて並べてある。もののない暮らしがブームのようだが、100円ショップの陳列棚を見ていると、これはこれでなんかきれい、という気になってくる。
 クリアファイルを買いに来た。わかっている。しかし、他になにも見ないで帰ることなどできようか? どんなものまで100円なのかを確認したい気持ちでうずうずする。
 まずは、入り口の季節のコーナー。虫関係がにぎわっていた。子供たちが好きなカブト虫やクワガタ虫。虫たちのご飯「虫ゼリー」が並んでいる。わたしも小学生のときにクワガタ虫、いや、カブト虫だったか? とにかく黒くて固そうな虫を夏の間飼っていた。むろん、エサは人間が食べ終えたスイカの皮のみ。普段より、ちょっと赤い部分を残して「おいてあげたよ」という上から目線で、与えていた気がする。今は100均の「虫ゼリー」のほうが、スイカの皮より安上がりなのかもしれない。
 別の棚。ネイルショップさながらのラインナップでマニキュアがずらり。わたしが中学生なら、おこづかいで買うのだろうなぁと眺める。
 夏休み、濃いめのピンクのマニキュアをこっそり塗ったときのドキドキ感。当時よく飲んだ炭酸水の甘ったるさまでがよみがえってくる。
 男性用コーナーの充実には、目を見張るものがある。靴まではなかったものの、ベルト、ワイシャツ、パンツ、靴下。種類も豊富で選べるほど。冠婚葬祭用のネクタイはゴム付きで、結ばずとも首からひょいっとかけられるアイデア商品。これも百円なんだ、すごいなぁと歩いていると、プール用品もなかなかだった。ゴーグルも100円、スイミングキャップも100円。へぇ、これも100円ねぇ、へぇ。
 広い店内には親子連れも多く、子供たちがおもちゃコーナーで「買って買って」とせがんでいる。意外に「ダメ」と言われている子も多く、100円だからといってなんでも買い与えているわけではないことが判明した。
 つづいてお掃除コーナー。トイレをゴシゴシするブラシだけで6種類もある。中にはブラシの柄に鏡がついているものもあり、見えにくいフチ裏もこれならバッチリ。でも、ちょっと見たくないような気も……。
 ひととおり見終え、さてさて、お目当てのクリアファイルコーナーへ。
 すごいファイルを見つけてしまった。世界の名画のファイルである。ゴッホもある、クリムトもある、フェルメールまで。
 フェルメールはこの事実を知ったらどう思うのだろう? 自分の絵が100円のファイルになって遠く日本の店頭に並んでいる。フェルメールのクリアファイルに入れる資料とはいかなるものか。なにを入れてもらったなら、フェルメールは納得するのだろう?
 な~んてことを思いながら店内をうろついていた約30分間。
 わたしは、自分に降り掛っている面倒な案件のすべてを忘れ、ただただ100円商品のことだけを考えていられたのである。
 なにもない場所より、ありすぎる場所のほうが逃避できる。案外、そういうものなのかもしれなかった。

 

 

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