ちくま新書

フィレンツェの石

この世に無数に存在する石の中には、目を引く美しい模様を持つ石が多くあり、またそこには様々な物語があります。 6月刊『奇妙で美しい 石の世界』(ちくま新書)の中の一篇「フィレンツェの石」を公開いたします。 (※写真は、実際の本とはトリミング・配置が違っており、こちらでは省かれているものもあります)

 自然には「形をつくる力」があり、これは有機物、無機物に共通してはたらいているという考えは、また別の形で復活をとげたといえなくもない。現在、生物や無機物の世界を横断して、自然が作る「かたち」の中に法則性をみつけようとする試みが盛んに行われている。たとえば、パエジナの「風景」に生える木の形、これは二酸化マンガンの樹状構造だが、植物の枝や葉の構造、山間を縫って流れる川の形、毛細血管や神経構造にいたるまで、枝分かれを繰り返して効率良く空間に広がっていくという、共通した文法ともいうべきものに貫かれている。単純で無限反復可能、全体と細部が相似形をなしているこうした形は、「フラクタル」という幾何学モデルとしてとらえられるようになった。樹状構造だけではない、石の模様の中にたびたびみられる、キノコ状、アメーバ状などと呼ばれる曲線構造の連なりも、フラクタルな形としてとらえることができる。

 パエジナの絵には「自然の造形力」、世界の創造の秘密が隠されているのではないかという考えには、小さな真理が含まれていたといっても決して間違いではないと私は思う。

アルノー川周辺で採れるさまざまな模様の石灰岩。

 

 

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