上田麻由子

第9回・まぼろしのプリンスさま

『劇団シャイニングfromうたの☆プリンスさまっ♪ 舞台「天下無敵の忍び道」』

 戦国時代。忍として任務のために命をかける2つの流派、謝意忍具(シャイニング)流と、早乙女流。華やかな歴史の影で暗躍する、若き忍である音也衛門とセシル丸、真影と翔ノ助は、それぞれ流派ごとに対立することもあれど、良きライバルとして一目置きあう関係にある。そんな均衡を崩したのが、謎の勢力・羅刹流からの襲撃だ。

 謝意忍具流と早乙女流をぶつからせ、共倒れにしようともくろむ羅刹流。その企ては、兄弟のように仲良く暮らしていた、心優しき音也衛門と、彼に付き従うセシル丸との関係にも亀裂を入れ、互いに剣を向け合う最悪の結果を招いてしまう。ふたりの胸の奥にあるものが明らかになったとき、音也衛門は問う。

「どうして自分の気持ち隠したの? そんな大事なこと隠しちゃだめでしょう? 最初から嘘なんてついてないんだよ、セシル丸は。出会った時から、ずっとね。俺の方こそごめん。セシル丸を信じないで、仇討ちしようとしてた」

原作は、架空の演劇公演

『劇団シャイニング 舞台「天下無敵の忍び道」』を、もし何の前知識もなく観たとしたら、そこに描かれているのは、戦国時代に忍者として生きる若者たちの、孤独と葛藤、裏切りと和解の物語だと思うだろう。のんびりとした日常を過ごしているようで、戦いに向けて技を磨き、任務は絶対で、いざとなったら命を投げ出す。そんな、激しくも儚い生を生きる魅力的な4人の忍たちの物語が、華麗な身のこなしの殺陣と、若手俳優のひたむきな演技で表現されている、と。

 しかし、この作品には驚くほど複雑な背景があり、かつてないほどにハイコンテクストな2・5次元作品なのだ。「劇団シャイニング」とは、もともと男性アイドル育成ゲーム『うたの☆プリンスさまっ♪』発のメディアミックス展開のひとつである。アニメ化もされ、現在の男性アイドルものブームの火付け役ともなったこの作品。その芸能専門学校「早乙女学園」出身で、現在はシャイニング事務所に所属する7人組アイドルST☆RISHと、4人組アイドルQUARTET NIGHTの合計11人が、3チームに分かれて演劇公演を行なうという設定で発売されたドラマCDが、企画の発端だ。

 それだけなら、よくあるメディアミックス展開のひとつである。しかし、「劇団シャイニング」が革新的だったのは、そのお膳立てである。同作品が2次元のキャラクターである「プリンスさま」たちを実在のアイドルとして扱う延長として、たとえば期間限定で「プリンスさま」たちの個人SNSで「バックステージ」の様子を実況したり(今日は○○が遊びに来てくれました! 差し入れをもらいました!)、原宿駅に巨大な公演ポスターを掲出したり、アニメ店に本物のスタンド花を置いたり、公演グッズを発売したりと、まるで本当に「劇団シャイニング」の公演がいま世界のどこかで行われているような錯覚を起こさせることで、コンテンツをよりいっそう盛り上げることに成功した。

バックステージ込みのコンテンツ

 言うまでもなく、ここでは当時(2013〜2014年)まさにブームとして世間に認識されつつあった2・5次元舞台における、さまざまなコンテクストが巧妙に取り入れられている。2・5次元舞台というのは、舞台上で完結するものではない。その「バックステージ」もまた、同じくらい重要なものとして消費されているのだ。オフの日に誰と誰がご飯を食べに行ったか? キャストの家でのお泊まり会に参加したメンバーは? 地方公演のホテルの部屋割りは? どうでもいい人には極めてどうでもいい情報が、目に見えない関係性を想像させるヒントとして、ひどく貴重なもののようにファンのあいだをかけめぐる。

 かつては雑誌のインタビューやイベントなどで、事後的にしか知ることできなかったそのような情報が、SNSの発達により、公式ブログや、役者個人のツイッターなどでリアルタイムにアップデートされ、さまざまなディテールという燃料が日々投下される。それをもとにまた劇場に足を運んでは、物語にまた新たなレイヤーを重ねて見ることで、観客のなかで作品はどんどん複雑化していく。こうして2・5次元舞台という現在進行形のコンテンツはつくりだされ、育ってきた。

 つまり「劇団シャイニング」という、非常に洗練された大人の遊戯を成立させたのは、2・5次元舞台というジャンルのさまざまなコードであり、ファンは自覚的にせよ、無自覚にせよ、それを飲み込むことではじめてコンテンツを味わい尽くすことができた。そもそも、ドラマCD『うたの☆プリンスさまっ♪ 劇団シャイニング天下無敵の忍び道』自体、公演テーマソング、楽屋でプリンスさまたちが衣装を見せっこしてはしゃぐ「公演前トーク」を経て、本編「天下無敵の忍び道」があるという、バックステージと関連商品(テーマソング)込みの三部構成でパッケージングされているところからして、まさに2・5次元的だったといえる。

2次元アイドル、最後の砦

 オリコン週間アルバムランキング2位を獲得するほどの人気を博したこのドラマCDを中心とする、一種のお祭りにリアルタイム参加した者にとって、期間限定で3次元も巻き込んだからこそ、その経験は他にかえがたい、貴重なものになった。だから、いざ「劇団シャイニング」の(本当の)舞台化となったとき、ファンのあいだで賛否両論が巻き起こったのは当然なのかもしれない。あくまで「プリンスさま」は実在しているという作品の前提を大切にしつつ、「若手俳優たちが、プリンスさまの演じた演目とその役を、2代目として演じる」という細やかな配慮のもと、ご丁寧にプリンスさま自身から「2代目」への応援コメントまで用意されたにもかかわらず、抵抗感を覚えるファンが多かった。

 そもそも『うたプリ』は、今のアニメやゲームにおける空前の男性アイドルブームの発端となった先駆者的作品であり、アニメだけでも4期(4クール)制作されているうえ、キャラソンも多数発売され、男性声優たちによるライヴ「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVELIVE」(通称プリライ)もまた、ゆうぽうと大ホールから始まって、今年のメットライフドームまで年々規模を拡大し、貫禄のステージを繰り広げている。そのプライドゆえに、どんなに2・5次元舞台化ブームが世の中を席巻しても、『うたプリ』だけは最後の砦として守られるという思いが、どこかにあった。

 そもそも声優によるライヴをしている時点で2・5次元ではないかとツッコミたくもなるのだが、2次元キャラクターにおける「声」の重要性を考えてみれば、その持ち主である声優は、キャラクターを代弁し、その身に「降ろす」ものとして正当な権利を持っている。だから、見ず知らずの若手俳優が演じるのとは勝手が違うという反論もまた、ある程度は納得できる。「2・5次元」というジャンルが確立し、毎週のように新しい作品が上演されているなかでも、「2次元」と「3次元」のあいだの壁はいまだ明確に存在していることを、この「Knocking on the wallの術」(※真影の技名)は、わたしたちに思い出させてくれた。

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