上田麻由子

第9回・まぼろしのプリンスさま

『劇団シャイニングfromうたの☆プリンスさまっ♪ 舞台「天下無敵の忍び道」』

2・5次元のなかのプリンスさま

 そのいっぽうで2・5次元舞台というジャンル側から、この作品を考えてみることで見えてくることもある。先ほど敢えて「見ず知らずの若手俳優」という表現を使ったが、実際は4人のプリンスさまを演じる俳優――小澤廉、和田雅成、植田圭輔、横井翔二郎のうち、特に最初の3人に関しては、2・5次元舞台で知らない人はまずいない、幾多の作品に出演してきたスター俳優である。そういう意味ではキャラクターを尊重し、原作ファンの気持ちを慮ることのできる、端的に言えば2・5次元のプロフェッショナルを選んだキャスティングがされている。

 そして『うたプリ』ファンにとってこの『天下無敵の忍び道』が、きらめくアイドルたちの夢の共演であるのと同じように、2・5次元舞台ファンにとってもまた、そのジャンルで活躍する「プリンスさま」たちが、しかも『うたプリ』という最高の原作を得て共演していることになる。あくまで『天下無敵の忍び道』の舞台化であることは重々承知のうえで、そこで起こった2次元と2・5次元の「プリンスさま」たちの出会いが何を生み出すのか、期待が集まった。

 また2・5次元舞台というジャンルをある程度の期間、定点観測していれば、そこにはもっと多くのコンテクストが絡みついていることに気づくだろう。会場であるシアターGロッソは、もともと特撮のヒーローショーが行われる会場であり(ヒーロー戦隊もまた、原始的2・5次元ジャンルのひとつである)、またここで上演される忍者ものといえば、先ごろ第8弾が終了した「忍ミュ」こと『ミュージカル「忍たま乱太郎」』が、長い歴史を持っている。場合によっては、音也衛門役の小澤廉がこれまで演じてきた数々の「アイドル」(本人もアイドル活動をしている)や少年漫画の主人公、和田雅成がついこのあいだまで振るっていた刀剣、植田圭輔の背は小さくとも実力は本物な数々のキャラを思い起こす人もいるかもしれないし、羅刹流の重厚感から別の戦国作品を連想した者もあるだろう。そういうコンテクストが『天下無敵の忍び道』という作品をいっそう複雑なものにしている。

史上稀に見るハイコンテクストさ

 背景の話が長くなったが、このようにあまりにさまざまな顛末があったため、いざ『天下無敵の忍び道』の幕が上がったとき、そこに何を求めるべきかよくわらなくなってしまった。もともとドラマCDでも音也衛門、セシル丸、真影、翔ノ助は、ST☆RISHの音也、セシル、真斗、翔を当て書きしたキャラクターであって、置かれている状況はさまざまなれど、性格はオリジナルの「プリンスさま」に準じている。つまりこの「音也をもとにした音也衛門を演じている小澤廉」という三重になったレイヤーがつねに舞台上でゆらゆらと揺らめき、時にきらっと輝きを放っては、目を眩ませるため、どこか落ち着かない気持ちにさせられるのである。

 もちろん、舞台作品としては、忍として生きる若者たちの信頼と裏切りのドラマが、Gロッソの高さのあるステージを活かした迫力の殺陣をもってショーアップされ、それぞれのキャラクターの魅力を人間関係のなかできちんと伝えた本作は、脚本・演出の伊勢直弘のいうとおり「血と気持ちの通った」キャラクターたちによる「本格演劇作品」(パンフレットより)という目標を、ひとまずは叶えているといっていいだろう。ドラマCDで導入部分が描かれた物語が、2時間弱の演劇作品として膨らんだのは、この舞台化があってこそだし、少年漫画の主人公のようにまっすぐな音也衛門の危うさや、それを見守るセシル丸の優しい眼差し、真影の孤独の深さや翔ノ助の逆境をはねのける強さなど、新たな気づきや魅力の再確認もたくさんあった。

 そのうえで、本編後の2部レビューパートで、ようやくドラマCDにも収録されていたテーマソング「天下無敵の忍び道」を含む、待望の4人による歌とダンスが観られたとき、サイリウムを振りながらどこかほっとしたような気持ちにもなったのも、また事実である。それは、2次元のプリンスさまが出演した架空の舞台作品に、生身の俳優がアプローチするという稀に見るアクロバットを成し遂げた本作のなかで、それぞれのジャンルのコンテクストが複雑に絡み合うあまり、これまでにない緊張感を醸し出していたからだ。「音也→音也衛門←小澤廉」という矢印の交錯のなかで、いっそ素直に「音也を演じる小澤廉」が見たい、生身の7人で「マジLOVE1000%」のエンディングを再現してほしい、などと思ってしまうのは、『うたプリ』ファン失格なのだろうか。

 東京ではたった4日、6公演という短さで幕を閉じた本作。終演後に「劇団シャイニング」シリーズ第2弾公演として、『マスカレイドミラージュ』の上演が発表され、『JOKER TRAP』までの三部作が予告されている。張り巡らされた文脈の網からいつか自由になれるのか、それとも、それこそが作品の個性になっていくのか、これからの展開を楽しみにしたい。
 

関連書籍

こちらあみ子

鈴木拡樹 ,村田充 ,太田基裕 ,阿久津愼太郎 ,少年アヤ ,やまだないと ,佐藤流司 ,西田シャトナー ,吉谷光太郎 ,玉城裕規 ,小柳奈穂子

ユリイカ 2015年4月臨時増刊号 総特集◎2・5次元 -2次元から立ちあがる新たなエンターテインメント

青土社

1760.0

  • amazonで購入
  • hontoで購入
  • 楽天ブックスで購入
  • 紀伊国屋書店で購入
  • セブンネットショッピングで購入