金持ち父さん

『金持ち父さんの「大金持ちの陰謀」』第二回
第一部 はじめに

 パーソナルファイナンシャル部門で史上最長のロングセラーとなった、『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者ロバート・キヨサキは、本書の執筆にあたって革新的な方法を試みた。草稿段階の原稿を章ごとに専用サイトで順次公開し、感想を寄せてほしいと広く呼びかけたのだ。本書はその双方向的なプロセスが実を結んだものであり、そのことを記念してここに冒頭部分を掲載する。

第一部 はじめに 何が諸悪の根源か?

お金に対する執着心は諸悪の根源か? それとも、お金に関する無知こそが諸悪の根源なのか?

あなたは学校で、お金について何を習っただろうか? 学校のカリキュラムがお金についてほとんど何も教えようとしないことに疑問を感じたことはないだろうか? 学校教育にお金の教育が欠落しているのは、教育指導者の単純な見落としでしかないのだろうか? それとも、より大きな陰謀の一環だろうか?

私たちは皆お金を使う。金持ちであろうと貧乏であろうと、教育を受けていようといなかろうと、子どもであろうと大人であろうと、引退していようと現役であろうと、一切関係ない。

好むと好まざるとにかかわらず、お金は今日の私たちの生活において非常に大きな影響力をもっている。なのに教育制度の中でお金というテーマを取り扱わないのはあまりに無慈悲であり、道徳的に許されることではない。

読者の感想
私たち市民が国を挙げて目覚め、お金に関して自分たちを教育する責任、また子供たちにもお金について教える責任を果たすようにならなければ、私たちの未来は、欠陥だらけの列車の残骸に乗り込むようなものになるでしょう。─キャスリン・モーガン

中学高校時代をオクラホマ州とフロリダ州で過ごしました。どちらの州の学校でも、お金について教育を受けたことなどまったくありませんでした。木工作業や金属加工は必修科目だったのですが……。─ウェイン・ポーター 

お金のルールを変える

一九七一年、リチャード・ニクソン大統領はお金についてのルールを変更した。議会の承認もないまま、金と米国ドルの関係を断ち切った。これはメイン州のマイノット島でひそかに行われた二日間の会合の中で、彼が独断で決めたことだった。決断にあたって、国務省や国際通貨制度(ブレトンウッズ体制下のIMF)に相談することもなかった。

ニクソン大統領がこのようなルール変更を行ったのには理由がある。米国財務省が国の債務を補填するため紙幣を大量に印刷した結果、米国ドルで支払いを受けた国々が懐疑的になり、本格的にドルを直接金と交換し始めたため、米国の金準備高が枯渇したことだ。

政府が輸入超過の状態にあったことと、費用のかかるベトナム戦争のせいで、金庫室は空っぽになりつつあった。経済成長に伴って、石油の輸入量が増え続けていたこともある。

わかりやすく言うと、アメリカは破産に向かっていた。私たちは収入を上回る支出を繰り返していた。支払が金で行われる限り、米国は支払不能に陥ると考えられた。ドルと金を切り離し、ドルを直接金に換えることを禁じることによって、ニクソンは米国が債務返済のためにドルを印刷する道を開いた。

一九七一年、世界のお金に関するルールが変更されると、世界史上類を見ない好景気が始まった。好景気は、世界が私たちの「偽金」を受け入れる間は継続した。そのお金の裏づけとなるものは、米国の納税者が米国の債務を支払うという単なる約束でしかなかった。

ニクソンがお金についてのルールを変えたためにインフレが起こった。パーティが始まった。時代に応じて大量の紙幣が発行されるにつれてドルの価値は下落し、物価と資産価値は上昇した。

アメリカの中流家庭でさえ、住宅価格が高騰し続けたため億万長者になった。郵便でクレジットカードが送られてきたので、人々は勝手気ままにお金を使った。クレジットカードの支払いをするために自宅をATM替わりに利用した。「結局、住宅はずっと値上がりを続けるのだから。そうだろう?」と言わんばかりに。

だが、欲とやすやすと借りられるお金に目がくらみ、このようなシステムが生み出した不吉な兆候が見えなかったり、見えても無視したりした人が多かった。

二〇〇七年、新しい言葉が私たちの会話の中にぽつぽつ出てくるようになった。「サブプライム債務者(信用度の低い借り手)」だ。これは、本来なら自分には買えないような価格の住宅を購入するために借金をした人のことをいう。

人々は当初、サブプライム債務者の問題は、マイホームを夢見た、貧しく、お金のことにうとい個人に限定された問題だと考えていた。あるいは、あぶく銭を手に入れようとする投機家──つまりフリッパーと呼ばれる転売目的の投資家だけの問題だと考えた。

共和党の大統領候補ジョン・マケインでさえ、二〇〇八年後半の時点ではこの危機を深刻に受け止めず、「米経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は強い」と言って人々を安心させようとしていた。

ほぼ同時期に、もうひとつの単語が日々の会話の中に紛れ込んできた。「救済」という言葉だ。サブプライム債務者が直面しているのと同じ問題を抱え、多くの負債と現金不足に悩むわが国最大手の銀行を救おうというわけだ。

金融不安が広がるにつれ、何百万もの人々が職を失い、自宅を失い、貯蓄も大学の費用も、退職後の生活のための蓄えもなくすことになった。現時点では何も失わずにすんでいる人々も、明日はわが身とばかりに戦々恐々としている。

州政府すら危機感をつのらせている──カリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事は、州政府議員に給料支払小切手の代わりに、借用証書を発行する話まで始めている。世界でも有数の経済圏であるカリフォルニアが、まさに破綻寸前だからだ。

今日、二〇〇九年を迎え、世界は新大統領バラク・オバマに救いを求めるべく、期待を寄せている。

現金強奪

一九八三年に、私はある一冊の本を読んだ。バックミンスター・フラー著『Grunch of Giants(巨人たちの世界的現金強奪)』だ。「Grunch」という単語は、「Gross Universe Cash Heist(目に余る世界的な現金強奪)」の頭文字を取った造語だ。

この本には、とてつもない権力を持つ超大金持ちたちが、いかに長いあいだ人々から強奪し、搾取してきたかが書かれている。そう、大金持ちの陰謀についての本だ。

『巨人たちの世界的現金強奪』は、何千年も昔の王族の話から始まり、現代へと進む。同書は、いかに金を持った権力者が大衆を支配し続けてきたかを解き明かす。

また、現代の銀行強盗は覆面をしていないという。代わりに彼らはスーツにネクタイをし、大学の学位を持って、外部からではなく内部から銀行のお金を盗む。

何年も前に『巨人たちの世界的現金強奪』を読み終えていた私は、現在の経済危機が来ることを予測することができた。ただ、いつやって来るのか、正確に言い当てることができなかっただけだ。

このような経済危機のまっただ中にもかかわらず、私の投資とビジネスが順調な理由のひとつは、同書を読んでいたことで、それが現在の危機に備える時間的余裕を与えてくれた。

陰謀についての書物は「キワモノ」的な人間が書くことが多い。しかし、R・バックミンスター・フラー博士は思想的に時代を先取りしてはいるが、キワモノなどではない。

彼はハーバード大学で学び、卒業こそしていないもののかなり優秀な学生だった(やはりハーバード大学を中退したかの有名なビル・ゲイツもそうだった)。米国建築者協会はフラーを、国で最も優れた建築家およびデザイナーと賞賛している。彼は歴史上最も卓越した実績を残したアメリカ人のひとりと考えられていて、数多くの特許を取得した。

彼は評価の高い未来思想家だった。ジョン・デンバーが作詞・作曲した「What One Man Can Do(ひとりの人間にできること)」という歌の「未来の祖父」というフレーズは、彼からインスピレーションを得たものだ。

フラーは、「環境保護主義者」という言葉が一般に知られる以前から環境保護主義者だった。しかし、なかでも彼が評価されている理由は、自分自身や金持ちの権力者のためだけでなく、すべての人に恩恵を与える世界のために働くことにその天才的才能を費やしたことだ。

私は『巨人たちの世界的現金強奪』を読む以前に、フラー氏の著作を何冊か読んだ。私にとって悩ましかったのは、彼の初期の作品の多くが数学や科学に関するものだったことだ。それらの書物は難しすぎて歯が立たなかった。しかし、『巨人たちの世界的現金強奪』だけは私にも理解できた。

『巨人たちの世界的現金強奪』を読んで、私は世の中の仕組みについて、ひそかに疑問に感じていたことを確認することができた。学校で子供にお金のことを教えようとしない理由が徐々にわかりかけてきた。

さらに私は、自分がなぜ、決して戦うべきでなかった戦争をするためにベトナムに行かされたのかについても知ることができた。一言で言えば、戦争は儲かるからだ。戦争というものは多くの場合、強欲を満たすためにあるのであって、愛国心のためにあるわけではない。

商船アカデミーに在籍すること四年、海兵隊のパイロットとして兵役につき五年、その間に二度ベトナムに派遣され、合計九年間の軍隊式生活を経験した私は、フラー氏の言うとおりだと思うようになった。自らの経験から、彼がなぜCIAのことを「資本主義の見えざる軍隊(Capitalism’s Invisible Army)」と呼んだのかを理解した。

『巨人たちの世界的現金強奪』の最もすばらしかったところは、私の中に学びの意識を呼び起こしてくれたことだ。人生において初めて、私はあるテーマについて学びたいと思った。それは、金を持った権力者がいかに、そうでない私たちを合法的に食い物にしてきたか、というテーマだ。

一九八三年以来、私はこのテーマについて研究し、五十冊以上の書物を読破してきた。その一冊一冊の中にそれぞれひとつかふたつ、パズルのピースを発見することができた。あなたが今読んでいるこの本は、そうした数多くのパズルのピースを組み立ててくれることだろう。

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