ちくま文庫

南に棲むトッポい兄ちゃん

ANARCHY『痛みの作文』

PR誌『ちくま』8月号よりゲッツ板谷さんによる、ちくま文庫『痛みの作文』(ANARCHY)の書評を転載します。京都の向島と東京の立川、場所と時代も違うのにふたりの不良のあいだには多くの共通点がありました 。

 京都の友達に以前、こんなことを教えてもらったことがある。「京都の北には割かし金持ちが多く住んでるんやけど、南にはガラの悪い連中が吹き溜まっとるんよ」
 この本を書いたラッパーのアナーキーさんは、モロにその南に住んでいた。ちなみに、オレが生まれた時から住んでいる東京郊外の立川という街は、オレが中・高校生の頃はその逆で、競輪場や旧赤線地帯があった北側の方が不良の巣窟で、オレは南側に住みながら北側の不良たちと睨み合っていた。そして、アナーキーさん同様オレも中学卒業後は地元の暴走族に入ったはいいが、とにかくタマリ場に行く度に一コ上の先輩たちからヤキを入れられ、しかも、そのヤキには全く愛が無かった。
 よって、オレらの代の不良は次々と族から抜けてゆき、最後の数人にオレ、それと小学校時代から最も仲の良かったSという奴が残った。そして、Sは先輩たちからのヤキを特に雨あられと食らい、遂にはパニック障害になって他県にある全寮制の高校に転校してしまったのである。で、アタマにきたオレは、親戚の極道者のところでヤクザになって、族の一コ上を全員追い詰めてやろうと決心したのだ。ま、結局ヤクザになるという目論見は、オレのお母ちゃんの命を張った数々の行動で見事に潰されることになったんだけどね(笑)。
 オレとアナーキーさんは、オレの方が年齢的には十七コも上なのにもかかわらず、この『痛みの作文』はまるで自分の旧友が書いた本を読んでいるような気分にさせられた。というのも、共通点がメチャメチャ多いのだ。
 サッポロ一番の塩ラーメンが大好きで、最も大切に思っていたことは〝昔からの仲間がいるってこと"。それから中学生の頃には、オレらもラップのリズムに乗って仲間内でディスり合ったり、マイケル・ジョーダンにもガッツリ憧れて、ザ・ハイロウズの「青春」という曲も大好きだった。
 そう十七コも年が離れているというのに、夢中になっていたモノや好きなことがほぼ同じなのだ。特にビックリしたのがハイロウズの「青春」という曲で、実は今から十年以上前に読者から「ザ・クロマニヨンズ」(ハイロウズ解散後に再結成した現在のバンド名)の真島昌利さんが今年一番面白いと思った小説はゲッツ板谷の『ワルボロ』だってファンクラブの会報誌に書いてありましたよ」というメールが来たのがキッカケでナント、そのクロマニヨンズに映画『ワルボロ』の主題歌を作ってもらうことになったのである。そして、オレは初めて真島さんや甲本ヒロトさんに会った時、「自分は『青春』という曲が大好きなので、主題歌は何かそんな感じのを作って下さい」と図々しくもお願いしたのだ(なんと『痛みの作文』の帯には真島さんがコメントを寄せている!)。
 あ、ヤベっ。こんな下らんことをタラタラ書いてるうちに、文字量の残りが超少なくなってきたぞ、おい。
 この『痛みの作文』の中で最も好きな部分は、アナーキーさんが小学生の時に一年三百六十五日のうちの三百日は同じ団地のその人の家にいたというエナのおばちゃん。とにかく、この人のキャラが大好きだった。不良をやっていると、たまにこういう理解者がいて、そういう年の離れたオッさん、おばちゃんはいちいち言い訳をしないでも、当り前のように見守ってくれるのだ。
 そして、最も心にズシンときたのは、少年院を出たアナーキーさんが「マグマっていうチームの下で一から頑張ってみようと思ってる」とオトンに言った際に、彼から返ってきた「それがおまえのやりたい音楽なん?」「仲間とやってんのが楽しかったんじゃないん?」という言葉である。自分もそういう道を通ってきたから、ちゃんとわかってるんだね。いゃあ~、心の底から痺れました(笑)。

関連書籍