金持ち父さん

『金持ち父さんの「大金持ちの陰謀」』第二回
第一部 はじめに

 パーソナルファイナンシャル部門で史上最長のロングセラーとなった、『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者ロバート・キヨサキは、本書の執筆にあたって革新的な方法を試みた。草稿段階の原稿を章ごとに専用サイトで順次公開し、感想を寄せてほしいと広く呼びかけたのだ。本書はその双方向的なプロセスが実を結んだものであり、そのことを記念してここに冒頭部分を掲載する。

陰謀は存在するのか?

陰謀説など、どこにでも転がっている。私たちは皆それを耳にしてきた。

例をあげれば、誰がリンカーン大統領やケネディ大統領を暗殺したのか、誰がマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師を暗殺したのかについての陰謀説などだ。また、二〇〇一年に起きた九・一一同時多発テロ事件についての陰謀説もある。こうした陰謀説は決してなくなることがない。説はあくまで説にすぎないが、それらはすべて疑惑と答えの得られない疑問を根拠にしている。

私が本書を執筆しているのは、さらに新たな陰謀説を読者に売りつけるためではない。研究の結果、私は、過去から現在に至るまで、大金持ちによる数多くの陰謀が存在し、将来においてはさらに多くの陰謀が生まれるであろうことを確信した。金と権力がかかっている場面では、常に陰謀が存在し続けるだろう。金と権力のためであれば、人はいつでも腐敗した行為を行う。

例えば二〇〇八年、バーナード・マドフは五〇〇億ドル規模のポンジー・スキーム(ねずみ講詐欺)を展開し、富裕層だけでなく学校、慈善団体、さらには、年金基金からも金をだまし取ったとして訴えられた。彼はかつて、ベンチャー向け株式市場NASDAQのトップという尊敬される地位にいた男だった。もうお金など必要ないほど裕福だったにもかかわらず、金融市場における彼の能力を頼りにしていた大変聡明な人々や社会的に有意義な団体から、何年にもわたって金をだまし取り続けたと言われている。

もうひとつ金と権力のための腐敗の例を示そう。それは、報酬がわずか四〇万ドルのアメリカ合衆国大統領という地位を獲得するために、五億ドルがつぎ込まれるという事実だ。選挙のためにこれだけの金が費やされる状況は、わが国にとって決して健全とはいえない。

では、陰謀はあったのだろうか? ある意味で、私はあったと信じている。しかし問題は、あったとしたらどうなのか、それについてあなたと私は何をしようというのかということだ。今の経済危機を引き起こした張本人たちの多くはすでにこの世にいないが、彼らの所行は今なお生き続けている。死人と言い争ってみても不毛なだけだろう。

陰謀が存在するかどうかは別として、あなたの生活に深く目に見えない影響を及ぼす状況と出来事は確かに存在する。例えば、お金の教育を見てみよう。

私はよく、現代の教育制度にお金の教育が欠落していることを、驚きをもって見てきた。学校が子どもに教えるのは、せいぜい小切手帳の帳尻を合わせ、株式市場に投機し、銀行に預金し、退職金積立制度で長期的な投資をすることくらいだ。つまり、子どもたちは、自分たちのお金を大金持ちに渡しなさい、と教えられているわけだ。彼らがあなたたちのことをいちばんに考えてくれているはずだからというのがその理由だ。

教師は、お金の教育の名の下に銀行家やファイナンシャル・プランナーを教室に招き入れるが、これはキツネをニワトリ小屋に入れるも同然だ。私は何も銀行家やファイナンシャル・プランナーたちが悪い人間だと言っているのではない。私はただ、彼らがお金を持つ権力者たちの代理人だと言っているだけだ。

彼らの仕事は教育することではなく、将来の得意先を募集することだ。だからこそ、彼らはお金を貯めて投資信託に投資しろと説くわけだ。そのことによって助かるのは銀行であって、あなたではない。繰り返すが、それが悪いのではない。銀行にとってはいいビジネスだ。私が高校生だったころ、キャンパスにやってきて国家に奉仕することの栄誉を学生たちに吹き込んでいた陸軍や海軍の新兵募集係と何も変わるところはない。

今日の経済危機を引き起こした原因のひとつは、お金についてのいいアドバイスと悪いアドバイスの違いを知らない人が多いことにある。優れたファイナンシャル・プランナーとペテン師の区別がつかない。いい投資と悪い投資の区別もつかない。皆、いい仕事に就くために学校へ行き、一生懸命に働き、税金を納め、マイホームを買い、お金を貯め、そして、残ったお金をファイナンシャル・プランナー、あるいはバーニー・マドフのような専門家に引き渡す。

人生で成功を収めるために必要なお金の教育

多くの人々は、株式と債券の違いも、負債と資本の違いも知ることなく学校を卒業する。優先株がなぜ優先と名づけられているのか、投資信託がなぜ信託なのか、あるいは、投資信託、ヘッジファンド、上場投資信託、さらにはファンド・オブ・ファンズといったものの違いについて知っている人はほとんどいない。

多くの人が借金はよくないと思っているが、借金で金持ちになれることもある。借金によって、投資から得る利益を増やすことができる。だがそれは、自分が何をやっているのか理解している場合に限られる。

キャピタルゲインとキャッシュフローの違いを理解し、よりリスクが低いのはどちらなのかを知っているのは、ごく限られた人だけだ。ほとんどの人は、いい仕事に就くために学校に通うという考え方を盲目的に受け入れ、なぜ従業員が、ビジネスを所有する起業家よりも高い税率で税金を払うのかについて知ることは決してない。

今日、本来は負債である自分の持ち家を資産だと信じてしまったために、苦境に陥っている人が大勢いる。これらは基本的で単純な経済観念だ。それにもかかわらず、何らかの理由で私たちの学校は、人生で成功を収めるために必要なお金というテーマを都合よく削除している。

一九〇三年に、ジョン・D・ロックフェラーは一般教育委員会を創設した。どうやらこれは、お金、仕事、そして職業の安定を必要とする労働者の安定的な供給を確保することが目的であったようだ。

ロックフェラーがプロシアの教育制度の影響を受けたことの証拠がある。その制度は、質の高い労働者と質の高い軍人、命令に忠実に従う人間を世の中に送り出すためのものだ。「これをやれ、やらなければクビだぞ」「お金を安全に保管するために私に預けなさい、そうすれば君のために投資をしてあげよう」──こうした命令をよく聞く人間を作り出すための制度だったわけだ。

これが一般教育委員会を創設したロックフェラーの意図だったかどうかは別として、今日明らかになったその結果は、いい教育を受け、安定した仕事を持つ人々でさえ経済的な不安を感じているという現実だ。

基礎的なお金の教育なくして、長期的な経済的安定を求めることは不可能に近い。二〇〇八年、数百万にのぼるアメリカのベビーブーマー世代が、一日につき一万人のペースで退職し始めた。彼らは政府が経済と医療を保障してくれることを期待している。最近になってようやく多くの人々が、安定した仕事が長期的な経済的安定を保証するわけではないことを学びつつある。

一九一三年、連邦準備制度が創設された。だが、建国の父でありアメリカ憲法の生みの親である者たちは、貨幣の供給を支配する中央銀行の創設に強く反対していた。

お金について十分な教育を受けていなければ、連邦準備制度が連邦によるものでもアメリカのものでもないこと、準備金が存在しないこと、そしてそれが銀行ではないことなどを知る人はほとんどいない。いったん連邦準備制度が創設されると、お金のことについて二通りのルールができた。ひとつはお金のために働く人々のためのルール、もうひとつはお金を刷る金持ちのためのルールだ。

一九七一年、ニクソン大統領が米国を金本位制から切り離した時に大金持ちの陰謀は完成した。

一九七四年、米国議会は「従業員退職所得保障法」いわゆる「エリサ法」を可決したが、これは401(k)といった年金資金向けの金融商品に道を開いた。この法律は事実上、それまで雇用者が提供する確定給付型(DB)年金を享受していた何百万という勤労者を、確定拠出型(DC)年金プランに加入せざるをえない状態に追い込み、彼らの退職後の資金をすべて株式市場や投資信託に強制的に投入させるものだった。

いまやウォール街がアメリカ国民の年金を支配している。お金のルールは完全に変わってしまい、金持ちや権力者寄りに大きく傾いている。そして世界史上最大の好景気が始まり、二〇〇九年の今、その好景気が崩壊した。

読者の感想
米国ドルの金による裏付けが停止されたときのことを覚えています。インフレが始まり狂乱物価となりました。私はまだ一〇代で、初めての仕事を見つけたところでした。生活に必要なものは自分で買わなければなりませんでした──物価はうなぎのぼりでしたが、両親の給料は上がらなかったからです。
大人たちの議論の中心は、どうしてこんなことになってしまったのかということでした。彼らは、これが経済システム全体の終わりの始まりではないかと感じていました。ちょっと時間はかかりましたが、まさにそのようになっていますね。─Cagosnell

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