ちくまプリマー新書

レッツ、世界征服

 政治や経済についての報道を見ているとき、あるいは雑誌や新聞で評論家がときおり「征服」「支配」という単語をつかうと、ドキッとします。
 かつて僕は、毎日のように「世界征服」を考える仕事をしていたからです。
 はじめまして。今回、ちくまプリマー新書から『「世界征服」は可能か?』を出させていただいた岡田斗司夫といいます。
 僕は昔、アニメを作ってました。NHKで放送された「ふしぎの海のナディア」という作品です。これを制作しているさいちゅうに、後にエヴァンゲリオンで一世を風靡する庵野秀明監督が訊いてきたんですよ。
「ところで、このガーゴイルって秘密結社は、なんで世界征服なんかしたいんでしょうね? そんな面倒なことせずに、高度な科学力で自分らだけ楽しい暮らしすればいいのに……」
 ガーゴイル(企画時の名前。実際の作品ではネオ・アトランティス)というのはアニメに登場する「悪の秘密結社」で、その目的はもちろん「世界征服」でおまけに「人類支配」です。
 でも、なんで世界征服なんかしたいんだろう? 僕たちはそんな素朴な疑問を持ってしまいました。
「贅沢したいから」「心の底から邪悪な奴だから」「自分たちを人類よりも偉いと思ってるから」「単にお金が欲しいから」
 いつのまにかスタッフを巻き込んでの大論争です。
 なんで悪の帝国は「世界征服」なんかしたいんだろう?
 世界征服って、本当に可能なんだろうか?
 悪の帝国の手段や目的はなんだろう?
 世界征服って悪いことだろうか? そもそも『悪』ってなんだろうか?
 熱心に討論した僕たちは、やがて疲れ果てて仕事に戻りました。そんな中で作ったアニメの中では、ガーゴイルの首領が「地球よ、我々に降伏せよ」と呼びかけます。
 おい、ガーゴイルのおっさんよ。俺たちはお前のことが最後までわかんなかったよ。
 いや、お前だけじゃない。超大国の大統領の心情も、独裁国の首領様の本音もよくわからない。それどころか、ユリウス・カエサルの望んだことも、織田信長の理想も、この世を征服したり統一しようとした彼らのことも、よくわかんない。
 この本は、そんな十五年以上も前の疑問からはじまった「世界征服とはなにか?」をとことんマジメに考える本です。マンガやサブカルチャーの本棚にある、いわゆる謎本のタグイではありません。
「世界征服」を理解しやすくするためにマンガやアニメや特撮番組の例をいっぱい出してしまいましたが、それは本書の性格上いたしかたのないことなんです。けっして著者である僕がオタクだから、というだけではないんです。たぶん。
 世界征服は、どのようなプロセスで可能になるか?
 その問題点と解決法は?
 そして「征服が完了しちゃった後」に見えてくる世界とは?
 世界を征服するとはどういうことか?
 圧倒的な軍事力さえあればそれは可能なのか?
 現在、アメリカは世界を征服してるといえるのか?
 北朝鮮を支配している金正日は「幸せな征服者」なのか?
 そして、あなたや僕が「世界征服」を決意したとき、明日からすべきことはいったいなんなのか?
 この本は以上のような疑問に答える、歴史上初の「世界征服学」への試みです。類例のない「世界征服入門書」と言ってもいいでしょう。
 セレブ? 勝ち組? 小さい小さい。夢はもっと大きく持ちましょう。
 レッツ、世界征服!
 それでは、書店でお会いしましょう。

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