荒内佑

第11回
名を与えん、されど巨星Kは去く

今、注目のバンドceroのメンバーとして多くの楽曲で作曲、作詞を手がける荒内佑が、<日常>とそこに流れる音楽の話を綴る初めての連載が「webちくま」にて大好評、公開中です。 更新は毎月1回、第4水曜日になります。


 東京の空には星が見えない、という俗説は噓である。伊丹十三風に言えば、ありゃ~ウソですね、そんなの上京して来た田舎もんが望郷の念に駆られて作り出した幻想だよ。だって、ご覧なさい。東京の夜の空を。目を凝らせばそれなりに星が瞬いている。そりゃあ田舎の星空には負けるかも知れない。だけど毎晩ザラメをまぶしたような星空を見てたんじゃ飽きるでしょう。甘ったるくてしょうがない。こうして砂金を探すみたいにね、ネオン街の中で星を探すってのがビタースウィートで良いじゃないの……とかね。しかし伊丹十三はこんな口調ではなかった気がするし、実際もっと粋である。敢えて言えば、誰だ、山本晋也監督か。違うか。それに「東京の空には星が見えない」という命題は恣意的に設定してある。これが「東京の空には<ほとんど>星が見えない」という俗説は噓である。と、書いたら全部おじゃんだ。


 こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ、3つの一等星を結んであれが夏の大三角形か、と夜空を見上げる人は現在どれほどいるだろうか。もちろん僕に星座の知識があるはずなくて上記は<夏 星座>の検索結果である。学校やプラネタリウムで知った星座の配置を思い出しながら夜空を眺め「あれが白鳥か……全然白鳥に見えね~どれがどの星か分かんね~」というのが最低限のリアルというか、それなりのあるあるだと思う(ちなみに一番リアルなのは星空=スマホでうまく撮れない=インスタにあげられない、だろう)。そしていつの時代だか知らないが大昔の人々の逞しい想像力に唸る、と。
 かつて、星は畏怖の対象であり恐ろしいものだった。無知なのをいいことに書いてしまうが、「星」という概念がなかったらそりゃ怖いでしょうよ、夜になると空がぽつぽつと光るんだから不気味よね~。呪われた我々は点と点を見つけたらそれを結ばずにはいられない。未知のものには既知のイメージを。天上の星々に下界のイメージを投影せずにいられない。名前のない星空は恐怖である。原義においてカオスだからだ。星座は人間の恐怖心が作り出した、という僕の説。


 そして3段落目のヴァース3。星空から地上のスターことオレらのカニエ・ウエストの話。2013年にドロップされた「Bound 2」のMVをご存知だろうか。未見の方はyouのtubeで一度見て来てもらったら話が早い。無駄に壮大なコーラスとファンキーなラップの2パートから構成されているこの曲は、発表当時こそ脈絡のなさに驚き、相当フレッシュに感じたものの、現在はそこまで珍しくないように思う(例えばマックルモア&ライアン・ルイス「Downtown」は同じ構成である)。問題は映像だ。ディスカヴァリーチャンネルかと思う程の自然の風景。山、谷、雲、星空、グランドキャニオン的な岩、馬。そんな風景をバックに、バイクで疾走するカニエが合成される(嫁であるキム・カーダシアンが同乗してたりする。だいたい全裸で)。とにかく見てもらったらいいが、この映像は未だに破格である。意味が分からない。俗っぽく言えばイケてる/イケてないという判断が出来ない。当時も今も同じ感想を持つ。未だ名前のない感覚。まぁただのナンセンス、もしくは難解なハイファッション感覚(ファッショニスタのカニエだからね)だろ、と言われればそうかも知れないが僕はこのMV、やっぱり凄いと思う。なんせ4年たってもこのMVを形容する妥当な言葉が見つからない。既存のイメージを与えようとするとカニエは逃げていってしまう(バイクで)。


 星座とカニエ、一体なんだよ、かに座のことか?と突っ込まれそうだ。しかし大袈裟にも創造的であるとは、って話である。脈絡のない星の配置に対してイメージを与えること。ドン臭くてイヤだが分かりやすく言えばカオスをコスモスへ変換すること。これはこれでクリエイティブである。しかし、もっと面白いのは意味の分からないものを目の前にして新しい言葉を探すことではないか。もしかしたら一生捕まえられないかも知れない、カニエを追いかけ回すその行程こそ創造的なのではないか。意味の分からない、脈絡のないものがエラいということではない。重要なのは、それらにイメージを「与えようとする」ことである(与えることではない)。勢い、ドゥルーズと言ってしまうが、ドゥルーズのいう創造的とはこういうことなんじゃないかと最近考えている。識者の方、見当違いだったらご教示願いたい。


 いまこの原稿は鹿児島のビジネスホテルで書いている。時刻は4:51の早朝? 深夜?である。相変わらず締め切りぶっちぎりだ。数時間前、外にタバコを吸いにいって星を見てみた。山の方にいるので星はそれなりに瞬いている。星座はひとつも分からなかったが、あそこにイメージを投影するとは、やっぱり凄いね、昔の人は、と思い、あれこれ書いてみました。
 

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