単行本

金融教育の先駆「金持ち父さん」シリーズ

 一世を風靡したものには、その後、生き残るものと名前すら忘れ去られるものとがある。それは書物に限ったことではないが、書物の場合は、継続して出版されるか絶版になるかが事後的にわかるため、いずれの範疇に属していたのかが明らかである。生き残った本は、存在理由や社会的な意義が存続している。
「金持ち父さん」シリーズは「全世界で五一か国語に翻訳され一〇五か国で読まれており、三〇〇〇万部を突破している」という。『金持ち父さん 貧乏父さん』『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』『金持ち父さんの投資ガイド』(日本では入門編と上級編の二分冊となっているが原著は一冊)の三冊はすべて、ウォールストリート・ジャーナル紙、ニューヨークタイムズ紙などのベストセラーリストに同時にトップテン入りを果たし、シリーズは増刷を続け、改訂版も好調のようだ。
 本シリーズが金融教育面で果たした役割は大きく、それが本シリーズのレゾンデートルである。刊行以来、毀誉褒貶が激しいのは、「額に汗して働く」労働観の是非を対立軸と感じる人が多いからでもあるが、そうしたアンチテーゼの部分も含めて社会的な意義があったために、ロングセラーとなって改訂版が上梓されたのである。日本でファイナンシャル・プランニングの必要性が言われるようになって、FP資格認定試験制度が一九九〇年に始まり、FP講座が初めて大学のオープン・カレッジに登場するのが一九九七年。日本FP学会が設立され、FP教育が大学の正課科目に初めて採用されるのが二〇〇〇年――日本で本シリーズが刊行されはじめた年である。金融教育の必要性が社会的に認識されるようになった時期とシリーズの刊行が重なるのは偶然ではない。ブームが落ち着いてからも、本シリーズは“若者”を中心に新たな読者を獲得し続けた。
 教育の効果をあげるためには学習者の意識が欠かせないが、そのためには学ぶことの必要性に自ら気づくことが手っ取り早い。私は金融関連授業の履修生に本シリーズを推薦し、ゼミでは本シリーズの著者考案のボードゲームをさせる。金融を学ぶ意義は、経済を知ることにあるが、個人の生活を向上させるという意味もあり、延いてはそれが日本経済の発展につながる。つまり、個人にとっても金融を学ぶことが大切だと自ら知ることが、社会にとっても大事なのである。中学や高校での社会科の教育は、立派な“公”民を育てることに注力されており、消費者や個人投資家などの“私”人としての教育は後回しにされがちである。家庭でも金銭の話は、はしたないという扱いを受けることも多い。そこに一石を投じ、金融を学ぶことの大切さを社会的に認知させる触媒の役割を果たしたのが本シリーズだった(だからこそ、私は本シリーズの第三作の翻訳に協力した)。
 本シリーズの想定する読者のレベルはさまざまである。第一作はいわばシリーズの導入部分で、クレジットカードの利子計算に考えが及ばないような人向けである。フラーの意見を紹介し「富というのはあと何日間その人が生き残ることができるか、つまり、今日仕事をやめたとして、あとどれくらい生きていけるか、その能力を指す」(『改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん』一〇〇ページ)と述べる。この一文を見ても、これまで金融を意識しなかった人への教育的効果を推察できよう。第二作は本論で、それに続く第三作は「洗練された投資家への道」を具体的に示したものだ。これは多様な読者に合わせたというよりも、読者の進歩を前提としているのである。不動産投資に偏重していること等、疑問に思われるところもあるものの、本シリーズが金融教育に果たした役割は大きい。

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