ちくま新書

生活保護に、いま何が起きているか

ちくま新書『生活保護―知られざる恐怖の現場』

 今国会で、生活保護法改正案が提出された。生活保護に焦点が当たったのは、芸能人の母親が受給していたことに社会的な非難が集中したことが、きっかけだった。
 同法案は衆議院を通過したものの、参議院では議決されず、廃案となった。しかし、今後も同様の改正案が提出される可能性は高く、参院選の結果次第では、再度提出されることも予測される。
 生活保護制度への社会的な関心が高まる一方で、生活保護の運用の実態は、ほとんど知られていない。マスメディアで生活保護が議論される場合も、実態を踏まえたものはきわめて少なく、その多くが「イメージ」だけをもとに語られている。
「働けるのに働かない怠け者」や、「犯罪的」に生活保護を「不正受給」している人びとで溢れているかのような報道や、あたかも生活保護の取得が簡単で、働くよりも「楽」だという思い込み。
 生活保護の現場は、そうしたイメージとは裏腹に、悲惨な状況が蔓延している。生活困窮者が保護行政の窓口で追い返されて、餓死者の数が増大している。「簡単に保護が受けられる」などというのは大きな間違いである。
 また、生活保護開始後は、受給者に対して、行政職員による執拗な圧迫、いじめが繰り返され、これが原因で精神病に罹患する受給者もめずらしくはない。さらには、保護開始までの「審査」の際に家財道具が取り上げられて、ますます自立が困難になる相談者。車の所有を認めれば就労可能な状態であるにもかかわらず、頑なに車の所有を認めず、「働け」と繰り返す就労指導。
 最近では窓口に警察関係者が配置され、ケースワーカーは刑事まがいの尾行、捜査を行う。もちろん、これらの「捜査」には多額の税金が投入されている。甚大な労力が、貧困の削減や自立の促進ではなく、「救済すべき貧困者かどうか」を審判するために用いられているのである。
 生活保護行政の現場には、明らかに不合理が蔓延しており、それらの多くは「違法」である。こうした生活保護行政の実態を、本書では詳細な実例から示していく。違法行政の類型や、それらがなぜ不合理なのかを、実態を踏まえながら理論的にも整理していく。
 私は、二〇〇六年の大学四年生のときに、若者の労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」を立ち上げ、これまで一五〇〇件を超える労働相談に関わってきた。二〇〇八年に「派遣村」が問題になってからは、生活保護や貧困、福祉の相談にも乗るようになり、二〇一一年以降は仙台市で被災貧困者のさまざまな支援活動も行っている。
 本書は、NPOの現場に立つ二〇歳代のボランティアたちが、数百件に及ぶ生活保護相談に対処し、見てきた現実をまとめた「レポート」である。そこには、生活に困難を抱える生身の人々が、登場する。相談者の一人一人に人生があり、私たちはその重みを受け止めながら、活動を行ってきた。
 また、私たちPOSSEは、若者の雇用・労働問題に取り組むNPOである。そのため、私たちは、働く若者の視点、すなわちブラック企業問題や非正規雇用問題との関連の中で、生活保護に向き合い、どうすべきなのかを考えてきた。
 ただ「貧困者を救済しなければならない」というだけではなく、日本の働く人全体や、日本社会全体にとって、生活保護制度が果たしている役割と、これから果たすべき役割についてまで、本書では検討を深めた。
 私たちが現場で貧困・労働問題に向き合い、日々研究した知見をぜひ多くの方にご覧いただき、生活保護制度について考える機会としていただくことを願っている。

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