ちくま新書

非公式な不良少年史を俯瞰する貴重な仕事

『関東連合――六本木アウトローの正体』

 世に起きるさまざまな重要事象に接近し、取材によって掴みえた情報を広く伝えて人々に判断と思考のための材料を与え、さらには後世に向けた歴史記録としても事実を残していく。それがジャーナリズムの大きな役割であり、「歴史のデッサンをすることが記者の仕事である」とも評される。
 ただ、新聞やテレビといったメジャーメディアは「オモテ」に現れた「公式」の情報に依存しがちで、「ウラ」の世界に漂う「非公式」の情報はどうしてもこぼれ落ちてしまう傾向が強い。しかも、「ウラ」世界の「非公式」情報は、事実を体系的につかみ取るための取材に非常な困難が伴う。
 言うまでもないことだが、人間社会は「オモテ」ばかりでなく「ウラ」の営みによってもつくりあげられている。いや、むしろ「ウラ」の世界にこそ人間社会の本質が凝縮されていて、「オモテ」に浮上してきたのは薄っぺらな“ダシガラ”にすぎない、とすら思う。
 したがって、「ウラ」世界の中に横たわる事実が掘り起こされないまま放置されてしまうのは、人間社会の営みの相当部分が記録として残されず、歴史の闇に埋もれてしまうことを意味する。
 本書は、そうした「ウラ」社会の一端に光を照らしてみようと試みた意欲的な仕事である。『関東連合』というタイトルを冠してはいるものの、実際は1980年代以降の「東京不良少年史」と評した方が正確だろう。
 暴走族。チーマー。半グレ。準暴力団。立場や見方によってさまざまに形容された「不良少年」たちは、時に若者文化を先導して流行をつくり、時に重大事件を引き起こして衝撃を引き起こし、さまざまな形で社会に波紋を投げかけてきた。昨今は、そのOBたちが芸能界やIT業界などにも人的ネットワークを張り巡らせているという。
 ところが私たちの多くはその実態を知らない。社会の耳目をひく事件が起きた時、主に「公式」のチャンネル──たとえば警察や、警察情報に依存するメディア報道など──を通じて表層的な情報に触れる程度で、「ヤクザ組織も震撼する不良グループが繁華街に暗躍している」だとか、「日本の治安はどんどん悪化している」だとか、不十分な情報に基づいて誤った認識を持ってしまったり、果ては謀略的な妄想をひたすら膨らませるような愚を犯してしまう。
 本書を読めば、そんな認識は確実に修正させられるだろう。また、暴走族とかチーマーと称される人々がどのように生まれ、どのような行動を取ってきたのか、昨今何かと話題の「関東連合」などにも通じる「東京不良少年史」がおぼろに浮かび上がってくる。
 もとより、取材は困難を極めたと思う。しかし、本書の著者は『実話ナックルズ』(ミリオン出版)や『ダークサイドJAPAN』(同)といった雑誌の編集長を歴任した人物である。いずれも出版界に一時代を画したとメディア関係者の評価が高い雑誌群であり、エロやグロも交えつつ、政治や事件の深層といった硬派なネタでも定評を取った。
 当然、不良少年やアウトローの世界は得意分野である。また、著者自身が不良少年とさまざまな交流を持ちながら育った経歴の持ち主なのだから、取材の蓄積は他のメディア人が及ぶべくもない。
 ひとつだけ難を唱えるなら、筆の運びや構成などにやや散漫な印象も受けた。しかし、それが「東京不良少年史」の混沌ぶりを表象しているようにも思う。何より、不良少年と評された人々の過去と現在に光をあて、外部の視座から俯瞰的にまとめた類書はない。貴重で重要な仕事だと思う。

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