ちくまプリマー新書

辛酸なめ子さん、女子校への愛をぶちまける

 世の多くの男性たちは、「女子校」という言葉に敏感です。過大な夢を抱く人もいれば、どこから知識を仕入れたのか、女子校出身者を異常に恐れる人もいます。いずれにせよ、彼らは「男子禁制」の秘密の園が、気になって仕方ないようです。
『女子校育ち』は、自身も中高一貫の女子校出身で、『女子の国はいつも内戦』の著者・辛酸なめ子さんが、七年以上にもわたる取材をもとに書き下ろした渾身の一冊です。等身大の女子校を活写するのに、これ以上の適任者はいないでしょう。自称「女子校マニア」の男性に、雙葉はああだ、フェリスはこうだなどと語られても、悲しい気分になるだけです。
 内容も女子校出身者へのアンケート、学校説明会レポート、文化祭や同窓会への潜入記、現役女子校生による座談会や男性教員へのインタビューなど、手間ひまのかかる企画ばかり。女子校への熱い情念が伝わってきます。
 とりわけ、辛酸さんが訪れた桜蔭の文化祭レポートは印象的です。物理部・化学部など理系クラブの発表がひしめく「サイエンス・ストリート」。数学部の部屋に入ると「数学クイズ」が手渡され、桜蔭合格をめざす小学生女子にまじり、開成の男子校生が挑戦しています。辛酸さんいわく「問題を出すというのは、桜蔭生にとってコミュニケーションの重要な手段なのかもしれません。求婚者たちに難問を出し続けた竹取物語のお姫様のような自尊心を感じます」。なるほど。
 もちろん「秘密の園」の普段の学園生活も、ばっちり描写しています。辛酸さんが「掃除御三家」の筆頭にあげる某女子校では、トイレ掃除のチェックに来たシスターが便器を手で触り、「あなたたち、これをなめられるの?」と生徒を詰問することもあるとか。ひと昔前のヤクザ漫画ばりの展開に、戦慄が走ります。この学校は「マリアさま いやなことは 私が よろこんで」という学園標語を生徒たちが守っているか、校内各所に建てられたマリア像が目を光らせているそうです。「マリア様がみてる」って、本当はこういう意味だったんですね。
 女子同士のほのかな恋愛についても、多くのページが割かれています。異性愛の恋愛至上(市場?)主義に屈している男子校生にとって、十二月から二月というのは、街行くカップルの姿を見ないようひたすら耐え忍ぶ季節。いっぽう女子校では、辛酸さんが絶賛するクリスマス礼拝があったり、バレンタインで憧れの先輩にチョコをあげたりと楽しそうです。
 女子校育ちが真価を問われるのは、卒業後でしょう。重そうな荷物を片付けろと言われた時、さっさと自分で運んでしまうのは「女子校育ち」に多い気がします。近くに男性がいるタイミングで運ぶふりをして、「いいよ、俺持つよ」「えー、ほんと? うわーすっごい、やっぱり筋肉あるんだねえ」という流れに持ち込むのが「正解」なんだろうなと分かっていても、それができない。アホらしくなっちゃうんでしょうか。学校行事のたび、女子ばかりでパイプ椅子をガシャガシャ運んだ六年間というのは、その後の人生に多大な影響を与えるようです。
 今の日本は大きな「男子校」のようなものですから、「女子校育ち」には生きにくいことでしょう。女性を自分と同じ社会を構成する一人と見なさず、恋愛や性の対象としてしか見られない「男子校シンドローム」は、この国を覆っています。もちろん間違っているのは男性中心社会のほうなのですが、世間の風はそこに適合できない女子校出身者に冷たいのです。
 しかしこの本では、そんな「男子校」社会への恨みつらみは語られません。「女を演じる」ことに長けた共学女子へのやっかみも出てきません。女子校生に、そして女子校出身者に、「今の世の中、女子校育ちにはちょっと生きづらいよ。でも、やっぱいいよね女子校って」とエールを送っています。自嘲的なからかいを交えつつも、数学部や生物部で青春を送る桜蔭生たちを見つめる辛酸さんの目には、愛があります。
 女子校への愛に満ちた、快著です。

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