ちくま新書

今こそ、内部被曝を知る時

『内部被曝の脅威──原爆から劣化ウラン弾まで』

『内部被曝の脅威──原爆から劣化ウラン弾まで』を上梓したのは二〇〇五年。内部被曝という言葉も一般的ではなかった。しかし、二〇一一年三月一一日の東京電力福島第一原発の事故により、突然、被曝は全ての日本人にとって他人事ではなくなった。今も福島原発は放射能を放出し続けているし、すでに大量の放射性物質が事故以来広範囲に飛散してしまった。
『内部被曝の脅威』では、映画「ヒバクシャ──世界の終わりに」を制作する過程の中で気がついたこと、映画では伝えきれないことを筑摩書房の永田士郎氏の提案によって書くこととなった。

 一九四五年八月六日、広島原爆投下の瞬間に立ち会い、その後長く被曝者の医療に携わった肥田舜太郎医師との共著だ。肥田医師の「原爆で死んでいく人々をみた衝撃よりも、原爆に遭遇していない人々が同じような症状で苦しみ、死んでいく現実にぶつかった衝撃の方が大きかった」という言葉を私は忘れられない。一方、私はイラクで湾岸戦争時に使われた劣化ウラン弾によって汚染された大地に住むこととなったイラクの子供たちと出会った。がんや白血病でつぎつぎと失われていく幼い命をどうやって救ったらいいのかわからなかった。被曝や核について全く無知だった私が、内部被曝のメカニズム、そしてそれを隠蔽しようとする巨大な力に目を向けたのは、肥田医師との出会いによってだった。時代を超えて、肥田医師の体験と私の体験がこの一冊の中で一つになり、新たな視点を提示している。

「被曝なんて、今生きている私には何の関係もない」と思っていた。大多数の日本人もまたそう思ってきたことだろう。それこそが巨大なプロパガンダの効果だ。この本の目的の一つはこの巨大なプロパガンダの存在を知ってもらうことだ。
 外から浴びる被曝と身体の内部に放射性物質を取り込む内部被曝と二つの被曝が存在することを、なぜ、私たちは常識として教育されてこなかったのか? 唯一の被爆国を自認しながら、二つ目の被曝である内部被曝を隠蔽しようとするアメリカの思惑に乗ってきたのは日本政府自身だ。
 原爆投下後、実際に何が起きたのか? 人々はどのように殺され、そして病んでいったのか? 放射線はどのような影響を人体に与えたのか? このような基本的な問いかけがこんなにも長く日本の医療界で無視され続けてきたことを知ったら、誰しもが不思議に思うに違いない。もし、日本政府が真摯に被曝問題に取り組んでいたなら、きっと今起きているようなことにはならなかっただろう。アメリカは原爆の本質、被曝が二度にわたって人々を殺すことを隠したかった。どんな微量であっても内部被曝は遺伝子を傷つけるリスクとなることを徹底的に隠蔽した。もし、内部被曝の被害を認めていたなら、それに対する医療もまた日本で、価値のある分野となった可能性があるのに、残念ながら打ち捨てられてきた。

 二発の原発は広島と長崎で約二〇万人の民間人を殺傷した。原爆投下後、被曝しながら生き残った人々、およそ八万九〇〇〇人をアメリカから派遣された原爆影響調査団が、まったく治療しないで検査を続け、そのデータを蓄積した。
 かくして、地上に出現した大量の被曝者が、被曝がどのような影響を人体に与えるのかを実証する貴重なデータを提供することとなった。核開発の現場にいた研究者が渇望していたデータが手に入ったのだ。これが、現在、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告している放射線の安全基準値の基礎データとなっている。しかし、内部被曝に関しては徹底的に無視・過小評価をしている。長崎大学の山下俊一氏はこのICRPの勧告を盾に、福島県内で安全キャンペーンをはっているが、その思惑は命を軽視してきたアメリカの核開発の背後にあった思想と重なって見えてくる。プロパガンダに惑わされてはいけない、本書を手にとっていただきたい。

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