ちくまプリマー新書

非武装MARUGOSHIは世界の憧れ

伊勢崎賢治著『国際貢献のウソ』

 ボクは君の浮気に目をつぶるよという哀しい男の歌だと勘違いしてました、とトランペットを吹き、ジャズの名曲“Ill Close My Eyes”を、笑いながら紹介する伊勢﨑賢治。この人が、平和ボケ時代の日本に生まれながら、タリバンを倒したアフガニスタンの九つの軍閥将軍たちを非武装で武装解除し、世界をアッと言わせた男だと、何人の日本人が知っているだろう。
 インドのスラムで住民運動を組織し、政府と交渉し、要求を勝ち取った留学生時代。国際NGOに身を置き、紛争解決と国際貢献の最前線で、ゲリラや国連や超大国、貧困国政府と渡り合い、官僚や軍閥や女性や子どもたちと話し合い、途上国の国づくりをしてきた三○代。そんな伊勢﨑賢治の最新作が『国際貢献のウソ』。そんな過激な名前で誤解されたらどうするの、という心配もヨソに中身もカゲキ、いやいつも通り「本当のことしか書いてない」本ができてしまっている。
 基地の町育ち、中学で二回も絵画コンテスト日本一、元々建築家というアーティスト、なのに、国連軍の指揮を執る。日本人なのに、その心は常にアフリカやアジアの世界の最下層の人たちと共にあり、革命家気質。既成概念に囚われないので、相手が誰でも怯みがない。偽悪的、非情に思えるほどリアリストでキレイゴトがキライ、歯に衣着せぬ物言いが人の反感を買うことも多い(はず)。
 「貧困はコモディティ(商品)」と吠え「マージナライズ(排他)はしちゃだめ」と言い、本気で人類を戦争から卒業させようとする正気の男の合理を、日本人一億二千七百万人は知っておいたほうがいい。特に国会議員は全員、マスコミ関係者も全員、この本は読むべき。この本には日本がとるべき品位ある外交政策、安全保障政策がわかりやすく書かれている。「国連軍事監視を自衛隊ブランドに」「非武装自衛隊の可能性」この斬新な提案を突飛、非現実的と決めつけてしまう人は、逆に現場を知らない人だろう。
 なぜ日本は伊勢﨑賢治を生んだのか、不思議な気分になることがある。戦争放棄を明記した日本国憲法。六五年の不戦。キリスト教の国とイスラム諸国、アラブ諸国の対立。高度経済成長。アメリカとの関係。歴史の気まぐれが、日本をユニークな立ち位置に置いた。伊勢﨑賢治が言う「日本は他の国にできないことができる立場にいる」ことを、多くの日本人は知らない。首相も外務大臣も知らない。いや実は知っている。でもそれを知る人が少なすぎ、世論の支援がないので、政策を転換できなかった。情報発信力の問題だ。
 平和をつくるには、戦争をするよりも、精神力と技術と話法が要る。平和勢力は全ての局面で戦争勢力よりも秀でなければならない。やっと人類はそれが唯一の生き残りの道だと気づいた。だから日本はその特殊な立ち位置を活かし、世界のHIKESHI国となり、世界中が平和憲法を持つべきだと言った三島由紀夫のように、丸腰で礼を尽くしに行くといった西郷隆盛のように、抜けない刀を持つ坂本龍馬のように、雨ニモマケズといった宮澤賢治のように、日本文化の真髄、丸腰外交の誇りと品位で、世界の紛争を予防する。自衛隊をめぐる自民党とマスコミの過去の勘違いなんかは、さっさと修正して。
 それでも今回の本は、いいんですか、ここまで書いて。アメリカが疲弊し、切望しているアフガン戦の出口政策も、民主党を揺るがす日米関係への解法も、裏話つきでリアルに書かれている。この本をみんなが読んで、非武装自衛隊はカッコイイ、愛国心と世界平和のための国際貢献は両立する、という新しい概念が日本人に浸透して、民主主義が進んで、実際の政治まで追いついて、政策として非武装の紛争解決を日本のブランドにすることができたら、日本は世界を救うという使命をやっとまっとうできるだろう。だからみなさん、日本のために、世界のために、私たちのために、この本を読んでください。お願いしますよ。

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