単行本

ヒーロー岡田斗司夫のすべて

 岡田さんは「自分が独自に考えた、新しいムーヴメント」を作り上げるのが好きだ。それを世間に問いながらも気が付くともう新しいものに手を伸ばしている。貪欲に新しいものへ、新しい事柄へ、どんどん興味のある方向に手を伸ばしてゆく。アニメーションで新しい分野を開拓しただけでなく、オタク学というよくわからない学問を自信たっぷりにぶち上げたり、東大でそのオタク学講座などを学生に向かって講義どころか実技までやらせたり、宇宙ロケットの食玩をつくってはマニアックな解説書をつけたり、今の落語はだめだとか言って「落語2・0」などというものをはじめちゃってみたり、極めつけは「せてやる」という個人的な思いが世の中のニーズとぴったり合っちゃって大ヒットを飛ばした「レコーディングダイエット」。自分もせたし世間的にも有名人の仲間入りだ。
 まさに人生やりたいことのし放題である。TVや映画のヒーローがたまたま「純粋に正義に燃えるいいやつ」であったために人類のプラスになるように、幸運にもこの岡田さんがそれに近いタイプのため、やりたいことのし放題が結構世の中のために役立っている。そこが重要だ。そしてそこのところを岡田さんはどうやら大事にしているようなのだ。私もそういう考えに近いからよくわかるが、ヒーローになりたいのだ。自分もヒーローに影響を受けたのだから自分がヒーローになれば他人も影響を受けてくれることを信じて活動する。ヒーローは「良い影響を与えなければならない」のだ。最近岡田さんは「ヒーローは基本お金を取らないで正義のために戦う」をまたさらに追求する方法でいろいろと立ち上げているようだが、それもそう考えると一貫して筋が通っている。
 それはさておきこの本であるが、要するに「俺というヒーローはいかに戦ってきたか」の総集編であり大全なのだ。人がこの「岡田大全」を作ってくれないから自分で作るしかなかったのだ。本来は切通理作とか池田憲章の仕事であり、表紙は開田裕治か工藤稜が担当するべき本なのだが、そこは少し奥ゆかしいデザインになっている。自分で書いたものだからしょうがない。しかし内容は自分で書いているぶんその切り口は見事に鮮やかである。一九八〇年代以降、TVや映画でヒーローを作る担当が「大人」から「若者」に変わっていった時代。若者は「生死にかかわる国家レベルの苦労をリアルに体験してはいない」世代だ。
 大人たちは「ヒーロー」の出現を願った。ヒーローは大人にとって願いなのだ。しかし若者は自分がヒーローになりたかった。私もその世代だ。誰か、別のどこからかの助けを求めるのではない、自分がなりたいのだ。そのヒーローになりたくて岡田斗司夫が自分なりにあがいて戦って働いて……気がついたら自分が仕事を通じてヒーローのようなことになっていた! かっこいい話の回もあれば情けない回もある。それの証明がこの本だ。岡田斗司夫素敵すぎる。
 そして時代の文化系ヒーローになりたければどう戦うべきかが全部ここに記されている。どの職業でもこのスタンスで生きている者たちはヒーローになりうるのだ。岡田さんは自分のヒーロー哲学を通して語りかけると共に、実は新しいイベントとしての「遺言」ブームをひそかに狙っている。そうに決まっているのが私にはわかる。この本を読んだものは自分の人生も、もしかしたら振り返るとヒーローっぽく語れるのではないかと勇気づけられるだろう。読む者に勇気を与えるのが岡田さんの特長だ。そして自分も自分なりの「遺言」を同じスタンスで語りたいとパソコンを打ち始める。現に私も頭の中で私独自の自伝を解説つきで語る本はどのようになるか構成を考えている始末だ。また新しいムーヴメントに私もまんまと乗せられてしまいそうである。岡田斗司夫というヒーローはほんとうに侮れない。

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