ちくま新書

「あの人はすごい」 ――その理由は、マネジメント理論でけっこう説明できます。
ちくま新書『即効マネジメント』

5月のちくま新書より「はじめに」を公開します。海老原嗣生さん『即効マネジメント』の冒頭を立ち読みすることができます。

  あなたの周囲には、尊敬できる上司がいますか。
 部下が育ち、部下がついてくる。そんな憧れの上司です。今の上司ではなくとも、過去の記憶をたどれば、どこかにそんなすばらしい人物がいたのではないでしょうか。
「自分もいつか、あんなタイプのリーダーになれたらいいな」と考えたことが、おそらく何度かあったでしょう。そして、その尊敬する上司の考え方や行動を分析してみたりしたのではないですか。
 たとえば、こんな風に――。

・話がうまい。面白くてわかりやすい。
・声がいい。抑揚がある。
・度胸がある。動じない。
・目の付け所が違う。他人が見えていないところが見える。
・優しい。相手の立場になって物事を考える。
・寛容だ。怒らない。
・指示が的確だ。
・継続力がある。物事を突き詰める。
・頭がいい。回転が速い。
・体力がある。疲れ知らずだ。
・社交性がある。
・責任感が強い。

 尊敬している上司を分析していくと、ため息が出てしまいますね。
「このどれもが自分にはあてはまらない。とても真似なんかできない」
「いつかは、経験を積めばあんな風になれると考えていたけど、年をとってもちっとも近づいていない。結局人間のレベルが違うのだから、無理……」そんな風に考えると、理想の上司になることを諦めてしまいたくもなります。
 でも、ちょっと待ってください。
 私たちマネジメント理論を知る人間は、全く別の見方をします。
 あなたの尊敬するその上司は、たぶん「マネジメントの基礎理論」に沿った行動をしているだけなのでしょう。あなたとの違いは、そこです。
 だから、こうアドバイスしたいのです。
「あなたも、マネジメントの基礎理論を身につけてみませんか?」

 人にはそれぞれ個性があります。マネジメントにもそれぞれの癖が出て千差万別でかまいません。尊敬する誰かと同じになる必要などないのです。
 思い出してみてください。あなたの好きな上司は一人ではなかったはずです。何人かいた、その尊敬する上司のみなさんも、彼らのマネジメント手法はけっこう違っていたのではないでしょうか。マネジメントとは、そんなものなのです。一つの型にはまる必要はありません。
 その代わりに、マネジメントの基礎理論を覚えることが重要なのです。
 あとはあなたの個性でやっていく。
 そうすれば、あなた流の「良き上司」となれるでしょう。
この本は、そのために基礎理論を明日から使えるように、実践的で簡単な法則にしています。
 それが、「2W2R」と「三つのギリギリ」です。
 部下がやる気を出してバリバリ働き、どんどん成長していく。そんな良きマネジメントを実現するための理論が、この中に凝縮されています。

2W2R」と「三つのギリギリ」の土台には、マネジメントの巨匠と目される以下七人の大家の研究があります。

・フレデリック・ハーズバーグ(一九二三―二〇〇〇) アメリカの臨床心理学者。
・アブラハム・マズロー(一九〇八―一九七〇) アメリカの心理学者。
・リチャード・ハックマン アメリカの社会組織心理学の第一人者。ハーバード大学教授。
・グレッグ・オールダム アメリカの心理学者。ハックマンの共同研究者。
・エドウィン・ロック アメリカの心理学者。目標設定理論の第一人者。
・松井賚夫(一九二二―二〇一六) 日本の心理学者。専門は産業・組織心理学。
・大沢武志(一九三五―二〇一二) 日本の研究者。その理論を草創期のリクルート社内で実践。

 この七人の中で中心に置いたのが、大沢武志の実践的な理論です。
 彼はリクルート社の創始者の一人で、元気・勇気・やる気に溢れるあの会社の組織風土を科学的に作りあげた人物です。
 上記六人の理論を彼が結びつけ、誰にでもわかる形で業務で使えるようにしました。
 そうして、社内にマネジメントの基礎理論の網を張り巡らせたから、同社を知る人からは「リクルートの社員はとにかく元気」と思われるようになったのでしょう。
 その裏にある理論さえわかってしまえば、どの会社でも「元気な風土」は再現できるはずです。その秘訣を簡単に体得できるようにこの本を書きました。
 クイズ形式で、読者のみなさんに考えてもらいながら、そのマネジメントの要点を体得していく。そして基礎理論を体得すれば、あなたもきっと良き上司となり、部下も楽しく仕事に向かってくれるでしょう。

  この本に書かれた内容は、NHKラジオ「文化講演会」、日本能率協会、東京経営者協会、国家公務員上級初任課長職研修、各地の商工会などにて、すでに何度も講義をした内容です。受講者はすでに三〇〇〇人を超えており、修了したみなさんから「日々実践しています」とうれしい反響もいただいております。

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