洞窟についに出会う
石丸 洞窟に出会ったきっかけは何だったの?
吉田 「BE- PAL」っていう雑誌です。あれを年間購読してたんですが、ある号で5、6ページにわたってケイビングの特集をしていて。見た瞬間、震えましたね。「あー!」と思って。何に驚いたかっていうと、「洞窟をやってる人がいるんだ!」って。
石丸 どういうこと?
吉田 石丸さんも「水曜スペシャル」(※1970年代後半から放映されたテレビ朝日系のテレビ特番)は観てましたよね?
石丸 うん、観てたよ。川口浩さんの。
吉田 そうそう。小学生の自分に圧倒的な影響を与えた番組で。自分の中では、川口さんは教祖くらいの人なんです(笑)。好きだった未確認生物を追いかけているし、よく洞窟が出て来てたから。そういえば、小学生のときは、バスに乗って鍾乳洞に出掛けたりもしてたんです。
石丸 あ、そうなの!
吉田 大滝鍾乳洞(岐阜県郡上市)とか。母親の実家が郡上八幡の上だったので、バスで簡単に行けたんですね。やっぱり洞窟は好きだったんですね。で、その洞窟を探検している川口さんは凄い、となっていた。そして、それが凄すぎて、「ふつうの人が洞窟を探検するなんてありえない」と思い込んじゃってたんです。それなのに、ふつうの人がクラブに入って洞窟を探検しているっていう……。もう衝撃を受けて! ページの最後に、そのクラブの会長の顔の写真と電話番号が載ってたので、すぐそこに連絡して。昔だからダイヤルを回して(笑)。それが洞窟探検人生のスタートですね。
石丸 おー。
吉田 これは凄い! と僕は大興奮していたわけですが、あとで聞いたら、電話してきたのは僕だけだったらしい……。
かわいい女の子に生まれればよかった
吉田 そのとき電話した浜松ケイビングクラブの会長は竹内さんという人だったんですが、なかなか洞窟に連れてってくれなくて。「吉田君がかわいい女の子だったら連れてってあげるんだけどね~」なんて言って。めんどくさがってるんです。
石丸 僕もウィンドサーフィンやってて、人がたくさん来てくれるのは嬉しいんだけど、一から教えるのは本当に面倒。
吉田 そうですよね。仕事ならやるんだけど、趣味みたいなものだから。今は会長の気持ちがわかるんです。でもそのときは「何だこの人! かわいい女の子に生まれてくればよかった!」って真剣に思って。
石丸 あはははは。
吉田 「忙しいからまた今度」とか言われて、これまでに連れて行ってくれたのも数カ所しかないんですよ。でも洞窟探検の面白さとか、価値を教えてくれて、いろんな知識をもらった。
愛知県の「新穴」に連れて行ってもらったんです。初めての自然の洞窟で。そのとき会長が、穴の中を猛スピードで進んで行くんですよ。慣れている人って、洞窟の中での動きがものすごく早いんです。気がついたら「もう会長いない!」ってなって。僕は何せ初めてだから、右も左もわからない。いったいどっちに行けばいいかわからない。「竹内さーん、どこですかー、どこにいるんですかー?」となって。
石丸 竹内さん、一見ひどい人なんだけど、ダメな親父のあとには立派な子供が育つっていうじゃない。洞窟って、ある意味自立してないといけないじゃない? そういう自立心は育ててくれたということだね。
吉田 そうなんです(笑)。すごく狭いところで、今なら躊躇せず前に進むところでも初めてなので「ここ通って行ったのかな、そんなわけないよなあ」と。竹内さんに呼びかけても、先に行ってしまってて、返事もないし。
石丸 10メートル先に行ったら、もう声もあまり届かないものね。
吉田 2回曲がったら、もう声は届かないですね。3回曲がったら光が届かない。でも、このときは初めてで、わからないから「竹内さーん!」って声をかけるけど、シーン……って。
それに狭いところを進むときに恐怖心があって、「これ、身体が詰まって動けなくなったらどうするんだろう?」ってなってしまって。それまでの人生では、奈良の大仏の柱の穴が、通った最も狭い穴だったから(笑)。
でも、それでも葛藤を乗り越えて進んでいるうちに、洞窟は相変わらず暗いんだけど、自分の頭の中はパーッと明るくなってくるような気がしてきた。「洞窟は凄い! いろんなことをやってきたけど、どれとも違う! これだ!これなんだ!」と、興奮して。その洞窟は、今思うと大したものではなかったんだけど、とにかく衝撃的な体験だったんです。
(第2回につづく)